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トランスジェンダー問題 議論は正義のために | ショーン・フェイショーン, 高井ゆと里, 清水晶子(解説)

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明石書店 2022年
ソフトカバー 436ページ
四六判


- 内容紹介 -
トランス女性である著者が、トランス嫌悪的な社会で生きるトランスの現実を幅広い分析によって明らかにする。不十分な移民政策、医療体制の課題など、英国の抱える問題は日本と共通するところが多く、本書は日本の「トランスジェンダー問題」を考える上でも大いに参考になる。


目次
 プロローグ

イントロダクション 見られるが聞かれない

第1章 トランスの生は、いま
第2章 正しい身体、間違った身体
第3章 階級闘争
第4章 セックスワーク
第5章 国家
第6章 遠い親戚――LGBTのT
第7章 醜い姉妹――フェミニズムの中のトランスたち
結論 変容(トランスフォーム)された未来

 謝辞

 解説 スーパー・グルーによる一点共闘――反ジェンダー運動とトランス排除[清水晶子]

 訳者解題 日本で『トランスジェンダー問題』を読むために
 訳者あとがき

 原注
前書きなど
プロローグ

 トランスジェンダーが解放されれば、私たちの社会の全ての人の生がより良いものとなるだろう。私は「解放」という言葉を使うが、それは「トランスの権利」や「トランスの平等」といった慎ましやかな目標では十分でないと考えているからである。依然として資本主義的であり、家父長制的であり続けている世界。そして、その世界を生きる人々を搾取し、格下げしている世界。そんな世界の中で平等な存在になることなど、トランスたちは望むべきではない。むしろ、私たちは正義を求めるべきなのだ。私たち自身のための正義。そして、私たちとよく似た他者たちのための正義を。
 トランスたちは、1世紀以上ものあいだ不正義に耐え続けてきた。私たちは差別され、病理化され、迫害され続けてきた。私たちの完全な解放が実現するのは、いま私たちが生きている社会からは完全に変容を遂げた社会を、私たちがイメージできるようになるときだけである。現在の社会がまさにそうであるように、トランスたちの生はしばしば社会によって意味もなく困難にさせられている。この本でまず取り組むのは、それがどのようになされているのかを説明することである。しかし、これらの問題への解決を与えるにあたり、本書はただトランスの人々のことだけを考える、という制約に閉じこもることをしない。この本はまた、日常的に力を削がれ、持てるものを奪われている全ての人をその内に包摂する。
 私たちの身体についての完全な自律性。誰でもあずかることのできる、ユニバーサルなヘルスケア。全ての人に用意された、手頃な価格の住まい。私たちの社会の、広く不公正なシステムから利益を搾り取るわずかな数の特権的な人々ではなく、働く者たちの手に握られた権力。(性暴力からの自由を含む)性の自由。そして、人間の大量収監〔多くの人々を刑務所に入れること〕の終わり。これら全てのことが、トランスの人々が虐待されたり、不当な扱いを受けたり、暴力にさらされたりすることが金輪際なくなるような社会を作るために、絶対になくてはならない。そうしたシステムの転換はまた、社会の周縁に追いやられているトランスジェンダー以外の全ての人にとっても、とりわけ利益をもたらすだろう。それはUKにおいても、また世界中どこでも。
 トランスの真の解放への要求は、労働者たちの、社会主義者たちの、フェミニストたちの、レイシストに反対する者たちの、そしてクィアの人たちの要求と響きあい、重なり合う。そうした人々の掲げる要求は、私たちの社会が何であり、また何であり得るのかの根幹を目掛けており、その意味でラディカルな要求だからである。現状の社会において何らかの地位にあり、現状の社会が何に置き換わっていくのかを恐れている多くの人々に対し、トランスたちの存在が絶えざる不安をもたらしている理由は、ここにある。
 社会的な規範に対してトランスたちの存在から提起される、その潜在的な脅威を中和するために、上位層の人々はいつもトランスたちの自由を制約し、抑え込もうとしてきた。そうした試みは、21世紀の英国では私たちの政治的ニーズを軽んじ、それを文化戦争の「問題」へと転化することで幅広く成し遂げられている。その典型として、トランスたちは「トランスジェンダー問題」としてひとくくりにされる。これはトランスたちの生の複雑さを捨て去り、抹消するものであり、また様々な社会的不安を抱かせるにたる一群のステレオタイプへとトランスたちの生を還元するものである。概してトランスジェンダー問題は、テレビ番組や新聞のオピニオン欄、そして大学の哲学科で(たいていその人たち自身はトランスではない人々によって)お喋りされるための、「中毒性のある論争」や「難しい問題」と見なされている。現実のトランスたちが、そこで目を向けられることは滅多にない。この本は、「トランスジェンダー問題」という言葉を意図的に、そして意識的に奪い返す。それは、今日トランスの人々が直面している諸問題のリアリティを大まかに示すためであり、そうした問題に直面してはいない人々によってその問題が想像されるのとは違った仕方で、それを示すためである。

 (…後略…)


- 著者プロフィール -
ショーン・フェイ
イギリス・ブリストル出身。現在はロンドンを拠点に活動。弁護士としての訓練を受けた後、執筆活動やキャンペーン活動を行うために退職し、慈善団体のAmnesty InternationalやStonewallで働いている。Dazedの編集長を務めたほか、Guardian、Independent、Viceなどで執筆活動を行っている。最近、LGBTQの先駆者たちにインタビューするポッドキャストシリーズ「Call Me Mother」を立ち上げ、高い評価を得ている。本作は初の著書。


高井 ゆと里 (タカイ ユトリ) (訳)
群馬大学情報学部准教授。専門は倫理学。趣味は研究。著書に『極限の思想 ハイデガー 世界内存在を生きる』(講談社選書メチエ)。


清水 晶子 (シミズ アキコ) (解説)
東京大学大学院総合文化研究科教授。専門はフェミニズム/クィア理論。著書に『フェミニズムってなんですか?』(文春新書)、『読むことのクィア――続 愛の技法』(共著、中央大学出版部)など。

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