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明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記 | 平山 亜佐子

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左右社 2023年
ソフトカバー 288ページ
四六変型判 縦128mm 横182mm


- 内容紹介 -
号外に関係のない婦人記者

日本の新聞黎明期。女だからと侮られ、回ってくるのは雑用ばかり。

婦人記者たちは己の体一つで、変装潜入ルポ〈化け込み記事〉へと向かっていった──


観察力が光る文才、鉄砲玉のような行動力、私生活でもまばゆいばかりに破天荒。

徒花(あだばな)とされ軽視されてきた彼女たちの仕事を時を超えて再評価し、

生きざますらも肯定する、唯一無二の近現代ノンフィクション!


- 目次 -
はじめに

第一章 最初の化け込み婦人記者
化け込みを生んだ女
「婦人行商日記 中京の家庭」
「鬼が出るか蛇が出るか 記者探偵兵庫常磐花壇」
化け込み以前のスラムレポの世界
下山京子のその後
けもの道を行く

第二章 化け込み前史
職業婦人の歴史
婦人記者の先駆者たち
ごろつきか新聞記者か
されど悲しき婦人記者
婦人記者の恋愛問題
海外の化け込み婦人記者

第三章 はみ出し者の女たち、化け込み行脚へ
稀代の問題児、中平文子現る
文子、ヤトナの秘密を暴く
文子、スター宅に潜入
文子、銃弾を歯で受け止める
闘う知性、北村兼子
兼子、あわやストーカー被害
兼子、アンチと闘う
兼子、空を駆ける夢
S・O・Sの女、小川好子
好子、戦慄の誘惑戦線
好子の化け込みの背後にあるもの
好子の素顔は霧のなか
化け込みブームとその後
ブームも下火に

番外編 化け込み記事から見る職業図鑑
三味線弾き
電話消毒婦
女中奉公
絵画モデル
百貨店裁縫部
寄席の係員
女優養成所
職業紹介所
ダンサー
百貨店店員

おわりに
こんなにある化け込み記事
おもな参考文献
人名索引
前書きなど
はじめに

号外に関係のない婦人記者 〈松郎〉

 これは一九二八(昭和三)年の『川柳雑誌』(川柳雑誌社)に掲載された一句である。
 わずか一七文字に婦人記者の置かれた立場が見事に表現されているが、真っ先に感じるのはユーモアよりも悲哀ではないだろうか。
 二〇二二年度の新聞・通信社記者数における女性の割合は男性の四分の一弱(「一般社団法人 日本新聞協会」調べ)、今でもマスコミは圧倒的男性社会なのだが、戦前の婦人記者は各社片手で数えられるほど少なかった。
 それまで女性の職業といえば女中奉公、子守、農業従事、産婆、髪結いなどが一般的で、明治期に入って工業化が進むと工場労働などの仕事はあったが、教養ある女性は教師か医師くらいしか選択肢がなかった。
 ところが明治二〇年代ごろ、婦人記者という新たな職業が登場した。
 日露戦争前後からは東京や大阪などの大都市圏の有力新聞に続々採用されていった。
 これは女性読者の増加に伴い、女性向け記事が必要となったためだ。
 といっても、非常に狭き門ではある。
 初期は縁故採用が多く、その場合でも文才や能力によほどの自負が必要で、運よく入れたとしても男性中心の社内で常に好奇の目に晒される。なのに回ってくる仕事といえばアイロンのかけ方、シミの抜き方といった家政記事か、ファッションに関する読み物、著名人のお宅訪問ばかり。
 社会部や政治部の男性たちが、世間を揺るがすスクープや他社と競争しながら一刻を争う情報合戦を行う横で、いつ掲載されてもいいようなものを書く日々……。まさに「号外に関係のない」仕事に追いやられているのが婦人記者だった。

 ところが、そんな婦人記者の仕事に、邪道ながら風穴を開ける企画が誕生した。
 それこそが本書のテーマである「化け込み」である。
 『日本国語大辞典』によると、化け込むとは「本来の素性を隠して、すっかり別人のさまを装う。別人になりすます」こと。つまり変装してさまざまな場所に入り込み、内実を記事に書いてすっぱ抜くという手法である。
 女性で最初に化け込みを行った「大阪時事新報」の下山京子はこの企画で大当たりし、新聞の売り上げを倍増させ、他紙も揃って追随する事態になる。
 空前の化け込みブームがやってきたのだ。

 とはいえ、変装ルポ自体は男性記者も行っている。早いところでは明治二〇年代に「日本」桜田文吾、「国民新聞」松原岩五郎、「毎日新聞」横山源之助らが日雇い労働者や香具師、屑屋などに扮して都市下層を探訪している。彼らの関心は下層社会を通して社会の不平等さを問う、いわゆるスラムルポに向けられた。
 一方、婦人記者の場合は、女給や奉公人に化けてカフェーや個人の家に入り込むところに特徴があった。
 これは婦人記者に問題意識がないというよりも、当時の女性の社会活動が暗黙裏に制限されていたことの証左である。
 だがそのおかげで、社会の周縁にいた当時の女性たちの生活や仕事が見えてくる。また、書き手である婦人記者が置かれていた立場や考え方を知ることができる貴重な資料となっている。
 何より、端っこに追いやられていた婦人記者が自らの企画で新聞の売り上げを倍増させて他紙にも及ぶブームを作り出すことができたという事実はまったく痛快なことではないか。
 本書では、化け込みブームが起きた明治末期から昭和初期にかけて活躍した婦人記者とそれぞれの企画を見ていきながら、彼女たちの本音と葛藤、化け込み企画とは何だったのかを考えていければと考える。また、番外編では化け込みから見えてくる女性の職業を取り上げたい。

 なお、「婦人」という表現は現在では死語となっており、女性の記者を「婦人記者」とするのはジェンダー差別と捉える向きもあるかもしれないが、本書では「婦人記者」と称された時代の女性記者を取り上げるという意図からあえて使用する。また、かつては雑誌の編集者も記者と呼ばれていたが、ここではとくに断らない限り新聞記者を指すことも付記しておく。
版元から一言
痛快! 悲哀!! 明治大正昭和を企画力と胆力で生き抜いた、婦人記者たち。

日本の新聞黎明期、「ごろつきか新聞記者か」という文句が出回るほど、新聞記者の地位は低かった。
探訪と呼ばれるネタ探し担当がゆすりや恐喝を繰り返し、ネタもととの癒着も取り沙汰され、まるで「インテリ界のヤクザ者」のような立ち位置だったと言われている。大学を出た男性たちにとって、新聞記者は就活戦争の敗北者の行き着く先だったのである。

しかし、婦人記者に関してはその限りではなかった。
職業婦人すらも珍しい時代、「女は使いものにならない」と言われ、上から下まで
筆一本で生きていけるかもしれないという希望に満ちた思いで入社しても、その道は険しかった。
男性社員からの嫌がらせに、恋愛問題と、問題は山積み。

徒花(あだばな)と呼ばれ、軽視されてきた彼女たちの仕事をつぶさに振り返り、
汗と涙の仕事史を、今鮮やかに浮かび上がらせる。


- 著者プロフィール -
平山 亜佐子 (ヒラヤマ アサコ) (著)
文筆家、挿話収集家。戦前文化、教科書に載らない女性の調査を得意とする。著者に『20世紀破天荒セレブ ありえないほど楽しい女の人生カタログ』(国書刊行会)、『明治大正昭和 不良少女伝 莫連女と少女ギャング団』(河出書房新社、ちくま文庫)、『戦前尖端語辞典』(編著、左右社)、『問題の女 本荘幽蘭伝』(平凡社)。

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