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99%のためのフェミニズム宣言|シンジア・アルッザ, ティティ・バタチャーリャ, ナンシー・フレイザー, 惠 愛由(翻訳), 菊地 夏野(解説)
¥2,640
人文書院 2020年 ハードカバー 160ページ 四六判 縦188mm 横132mm 厚さ18mm - 内容紹介 - 私たちはまだ連帯できる――ほんとうの敵は資本主義だ 1%の富裕層ではなく、「99%の私たち」のために、性差別・人種主義・環境破壊のない社会を。いまや世界中に拡がる女性たちの運動とも共鳴しながら、研究の第一線でも活躍するジェンダー学者たちが、性の抑圧をもたらす現代資本主義の終焉を呼びかける。分断を正確に認識することで、私たちはまだ連帯できる。 「99%のためのフェミニズムは反資本主義をうたう不断のフェミニズムである――平等を勝ち取らないかぎり同等では満足せず、公正を勝ち取らないかぎり空虚な法的権利には満足せず、個人の自由がすべての人々の自由と共にあることが確証されないかぎり、私たちは決して既存の民主主義には満足しない」(本文より)。 ◎目次 1 新たなフェミニズムの波がストライキを再構成する 2 リベラル・フェミニズムは崩壊した──私たちは前に進まなければならない 3 私たちには反資本主義のフェミニズムが必要だ──99%のためのフェミニズム 4 私たちは社会全体の危機のさなかを生きている──そしてその根源は資本主義にある 5 資本主義社会におけるジェンダー的抑圧は、社会的再生産が利益目的の生産に従属していることに根ざしている──私たちはその順番を正しくひっくり返したい 6 ジェンダーに基づく暴力には多くの形があり、そのすべては資本主義と複雑に絡みあっている──私たちはそれらすべてと闘うことを誓う 7 資本主義はセクシュアリティを規制しようとする──私たちはそれを解放したい 8 資本主義は人種主義的・植民地主義的暴力から生まれた──99%のためのフェミニズムは、反人種主義かつ反帝国主義である 9 資本による地球の破壊から脱するために闘う──99%のためのフェミニズムはエコ社会主義である 10 資本主義は本物の民主主義や平和と両立しない──私たちの答えはフェミニスト的な国際主義である 11 99%のためのフェミニズムはすべてのラディカルな運動に反資本主義の反乱を呼びかける - 著者プロフィール - シンジア・アルッザ Cinzia Arruzza/ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチ(the New School for Social Research)哲学科准教授。著書にA Wolf in the City: Tyranny and the Tyrant in Plato's Republic (2018, Oxford University Press)など。 ティティ・バタチャーリャ Tithi Bhattacharya/パデュー大学歴史学准教授。専攻は南アジア史。著書にThe Sentinels Of Culture: Class, Education, And The Colonial Intellectual In Bengal (2005, Oxford University Press)など。 ナンシー・フレイザー Nancy Fraser/ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチ(the New School for Social Research)政治・社会科学科教授。翻訳書は向山恭一訳『正義の秤――グローバル化する世界で政治空間を再想像すること』(2012年、法政大学出版局)、共著に『再配分か承認か?――政治・哲学論争』(2012年、加藤泰史監訳、法政大学出版局)など。 惠 愛由(めぐみ・あゆ) 1996年生まれ。同志社大学文学研究科英文学専攻博士課程。専門は現代アメリカ文学、ジェンダー表象研究。BROTHER SUN SISTER MOONでベースとボーカルを担当。 菊地 夏野(きくち・なつの) 名古屋市立大学人間文化研究科教員。専攻は社会学、ジェンダー/セクシュアリティ研究。単著に『ポストコロニアリズムとジェンダー』(青弓社)、『日本のポストフェミニズム』(大月書店)、共著に『戦争社会学――理論・大衆社会・表象文化』(明石書店)、『国境政策のパラドクス』(勁草書房)など。
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拡張するイメージ 人類学とアートの境界なき探究|藤田 瑞穂, 川瀬 慈, 村津 蘭
¥2,970
亜紀書房 2023年 ソフトカバー 404ページ 四六判 - 内容紹介 - 《「イメージ」に何ができるのか? 》 ケニアと日本をつなぐ洗濯物、風を可聴化するハープ、コロナ禍を経た展示──。 アートと人類学が切り結ぶ場所で、まだ見ぬイメージの可能性を考える11人の、研究、制作、展示をめぐる実践と思考。 ---------------------- 人間が抱くイメージをさまざまに表現してきたアート。 文化や技術、宗教とそれらに結びついたイメージの多様性を探究してきた人類学。 ふたつの交わるところで研究、制作、展示を行う11人の実践から、「イメージ」という言葉が持つ豊かな広がりが見えてくる。 目次 ◆はじめに……藤田瑞穂、川瀬慈、村津蘭 第1部 拡張するフィールド ■村津蘭……妖術と人類学の喚起、その拡張 ■ふくだぺろ……具象のポリフォニー──音―イメージ知性の特徴とダイアローグ 第2部 隔たりなき表現活動──制作と研究 ■西尾美也……生を変容させるアートプロジェクト──《感覚の洗濯》の着想から記録方法まで ■柳沢英輔……エオリアン・ハープの実践を通して再構築される身体と環境の関係性 ■鼎談〈西尾美也×柳沢英輔×藤田瑞穂〉……芸術実践と学術研究をつなぐために 第3部 表現と社会──不可能を超えるイメージ ■奥脇嵩大……私は鹿で太陽で、そして私たち──近年の志賀理江子による協働を介したイメージ実践の可能性 ■佐藤知久+矢野原佑史……社会性の芸術──映像が媒介する接触と波動について 第4部 映画におけるイメージとその拡張 ■金子遊……ゾミアの遊動民──映画『森のムラブリ』をめぐる旅 ■小川翔太……証言者の沈黙をめぐる映像作家の表現(コトバ)──映像/イメージ 第5部 イメージの脈動 ■藤田瑞穂……パンデミック後のイメージの行方──「静のアーカイブ」から「動的イメージ」へ ■川瀬慈……イメージの吟遊詩人 ◆おわりに - 著者プロフィール - 藤田 瑞穂 (フジタ ミズ ホ) (著/文 | 編集) 〈京都市立芸術大学〉 1978年兵庫県生まれ。京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAチーフキュレーター/プログラムディレクター。専門は現代美術、表象文化論。同時代を生きるアーティストやさまざまな分野の専門家と協働し、領域横断的な展覧会やアートプロジェクトの企画を手がける。 川瀬 慈 (カワセ イツシ) (著/文 | 編集) 〈国立民族学博物館〉 1977年岐阜県生まれ。エチオピアの吟遊詩人の人類学研究、民族誌映画制作に取り組む。人類学、シネマ、アート、文学の交差点から人文学における創造的な叙述と語りを探求する。 村津 蘭 (ムラツ ラン) (著/文 | 編集) 〈東京外国語大学〉 1983年大阪府生まれ。専門は映像人類学、宗教人類学、アフリカ地域研究。これまでの研究テーマとして、ベナンにおけるキリスト教系新宗教、妖術師、悪魔祓いなどがある。映像、フィクション、インスタレーションなど様々な方法による人類学を試行している。
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アナーキズム: 政治思想史的考察|森政稔
¥2,970
作品社 2023年 ソフトカバー 321ページ 四六判 縦188mm 横128mm 厚さ19mm - 内容紹介 - アナーキズム思想研究の決定版!! 近年の民主主義への鋭利な分析で注目されている論者が、これまで長年取り組んできた研究成果を結集させた待望の一冊 私が本書で試みたいことは、アナーキズムに関連する思想を、実践的な運動としてのアナーキズムから相対的に距離を設けて、政治思想や政治理論の歴史のなかで「アナーキズム的モーメント」が果たしてきた役割を学問的に明らかにしようとすることである――「まえがき」より アナーキズム的モーメントとは? 狭義のアナーキズムのように正面から統治や支配を否定しようとする考え方に限らず、統治することにはたとえ民主主義であっても深刻な限界や自己矛盾、正当性の欠如などがあることを明らかにし、またこのような統治の限界や正当性の欠如には理由があることを承認するような、より広い思想的契機のこと。
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くらしのアナキズム|松村圭一郎
¥1,980
ミシマ社 2021年 ソフトカバー 240ページ 四六判 縦188mm 横128mm 厚さ19mm - 内容紹介 - 国家は何のためにあるのか? ほんとうに必要なのか? 「国家なき社会」は絶望ではない。 希望と可能性を孕んでいる。 よりよく生きるきっかけとなる、 〈問い〉と〈技法〉を 人類学の視点からさぐる。 本書でとりあげる「人類学者によるアナキズム論」とは… ・国家がなくても無秩序にならない方法をとる ・常識だと思い込んでいることを、本当にそうなのか? と問い直す ・身の回りの問題を自分たちで解決するには何が必要かを考える アナキズム=無政府主義という捉え方を覆す、画期的論考! *** この本で考える「アナキズム」は達成すべき目標(・・)ではない。むしろ、この無力で無能な国家のもとで、どのように自分たちの手で生活を立てなおし、下から「公共」をつくりなおしていくか。「くらし」と「アナキズム」を結びつけることは、その知恵を手にするための出発点(・・・)だ。(「はじめに」より) *** ミシマ社創業15周年記念企画 目次 はじめに 国家と出会う 第一章 人類学とアナキズム 第二章 生活者のアナキズム 第三章 「国家なき社会」の政治リーダー 第四章 市場(いちば)のアナキズム 第五章 アナキストの民主主義論 第六章 自立と共生のメソッド――暮らしに政治と経済をとりもどす おわりに - 著者プロフィール - 松村圭一郎 (マツムラケイイチロウ) (著/文) 1975年熊本生まれ。岡山大学文学部准教授。専門は文化人類学。所有と分配、海外出稼ぎ、市場と国家の関係などについて研究。著書に『うしろめたさの人類学』(ミシマ社、第72回毎日出版文化賞特別賞)、『はみだしの人類学』(NHK出版)、『これからの大学』(春秋社)など、共編著に『文化人類学の思考法』(世界思想社)、『働くことの人類学』(黒鳥社)。
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労働の思想史 哲学者は働くことをどう考えてきたのか|中山 元
¥3,300
平凡社 2023年 ハードカバー 328ページ 四六判 縦188mm 横128mm 厚さ19mm - 内容紹介 - 生きるうえで私たちは働くことから逃れられない。人類誕生から現代のグローバリゼーションまでの思想を振り返り、労働の功罪の価値を考察し、生きる意味を問い直す。
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人新世の人間の条件|ディペシュ・チャクラバルティ, 早川健治(翻訳)
¥1,980
晶文社 2023年 ソフトカバー 180ページ 四六判 - 内容紹介 - 「人新世」の正体を、あなたはまだ何も知らない――。 人文学界で最も名誉ある「タナー講義」を、読みやすい日本語へ完訳。 地質学から歴史学まで、あらゆる学問の専門家の知見を総動員し、多くの分断を乗り越えて環境危機をファクトフルに考えるための一冊。かりそめの答えに満足できない現実派の読者におくる。 山崎直子さん(宇宙飛行士)推薦 「我々はどこへ向かうのか、その考え方の土台となる本。宇宙に学校が出来たら、この本はきっと人類共通の教科書となるでしょう」 ◆そもそも地質年代は誰がどう決める? ◆「大加速グラフ」が示す未来とは? ◆途上国と先進国の分断は乗り越えられる? ◆立場を超えてもつべき新たな「時代意識」とは? ◆人間は技術圏(テクノスフィア)の部品にすぎない? ◆地球の半分からヒトを撤退させるべき? ◆大きな歴史(ビッグ・ヒストリー)は人類を結束させる? 目次 講義1 時代意識としての気候変動 講義2 人間が中心ではなくなるとき、あるいはガイアの残り 日本版特別インタビュー 『人新世の人間の条件』に寄せて 訳者あとがき - 著者プロフィール - ディペシュ・チャクラバルティ (ディペシュチャクラバルティ) (著/文) 1948年生。インド出身の歴史学者。シカゴ大学教授。専門は歴史学方法論、ポストコロニアル理論、サバルタン研究、南アジア史など。ベンガル地方の労働史の研究から出発し、1980年にはサバルタン研究の最重要組織であるSubaltern Studiesをラナジット・グハらと共同創設した。その後2000年には主著Provincializing Europeを発表。西洋を起源とする歴史学のカテゴリーを西洋以外の文脈へと開いていくための道を模索し、歴史学の方法論に大きな影響を与えた。2021年発表の最新作The Climate of History in a Planetary Ageでは、人文学者が人為的な地球環境改変とどう向き合っていくべきかという問題を丹念に探究した。トインビー賞、タゴール賞など受賞多数。 早川健治 (ハヤカワケンジ) (翻訳) 1989年生。ダブリン在住の翻訳家。哲学修士。CplとGoogleで人材あっ旋担当者として働いた後、独立して現職。和訳にチョムスキー&ポーリン『気候危機とグローバル・グリーンニューディール』(2021)、バルファキス『世界牛魔人』(2021、いずれも那須里山舎)など、英訳に多和田葉子『Opium for Ovid』(Stereoeditions)。一般向け配信番組「フィネガンズ・ウェイクを読む」主催者。公式ウェブサイト:kenjihayakawa.com
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人間の条件 |ハンナ・アレント, 牧野 雅彦(翻訳)
¥2,200
講談社 2023年 講談社学術文庫 ソフトカバー 632ページ 文庫判 - 内容紹介 - 1957年10月4日、ソヴィエト連邦によるスプートニク1号の打ち上げによって、人類は初めて人工衛星を軌道周回させることに成功した。これは「その重要性において並ぶもののないこの出来事」だったが、「奇妙なことに、湧き起こってきたのは勝利に満ちた喜びではなかった」――翌1958年に英語版が出版された『人間の条件』は、そう始まります。こんな書き出しをもつ哲学書は前代未聞と言えるでしょう。 では、人工衛星の実現が人類にもたらしたのは何だったのか。そのとき人類は「これでようやく「地上という牢獄から人間が解放される第一歩」が踏み出されたという安堵の念」を抱いた、と本書の著者ハンナ・アレント(1906-75年)は言います。確かに、人々は「地上」で十数年前まで激しく戦われていた二度目の世界大戦がもたらした凄惨な状況を鮮明に記憶していたことでしょう。その悲劇を引き起こした原因を、アレントは7年前に大著『全体主義の起源』(1951年)で分析してみせました。今や、それを「人間の生活(生)」という観点から哲学的に考察することを企てたのが、本書『人間の条件』にほかなりません。 科学と技術の進化によって実現された地球からの脱出――それは、アレントから見れば、「地上」の世界からの「飛翔(flight)」であるとともに「逃避(flight)」でもありました。その二重の意味を込めて、アレントは「世界からの疎外(world alianation)」と呼びます。その疎外はいかにして始まり、人間の生(生活)をいかに変えたのか。この問いに答えるために、アレントは人間の生活(生)の重心が「観照的生活(vita contemplativa)」から「活動的生活(vita activa)」に移行したことを明らかにします。その上で「活動的生活」を「労働(labor)」、「仕事(work)」、「行為(action)」の三つに分類し、それらの絡み合いの中から科学と技術が生まれ、進化を遂げるに至る道筋を細やかにたどっていくのです。 本書が書かれてからすでに半世紀以上が過ぎ、科学と技術は当時では想像もできなかったほどの飛躍的な進化を遂げています。AIの登場によって「人間」とは誰なのかが不分明になりつつある現在、「人間の条件」を考えることの重要性と必要性がさらに増していることに異論はないでしょう。長らく待望された本書の新訳を、第一人者による正確にして平明な日本語でお届けできる時がついに訪れました。 目次 プロローグ 第I章 人間の条件 1 「活動的生活」と人間の条件 2 「活動的生活」という用語について 3 永遠と不死 第II章 公的領域と私的領域 4 人 間―社会的動物か、政治的動物か 5 ポリスと家政 6 社会的なものの興隆 7 公的領域――共通のもの 8 私的領域――財 産 9 社会的なものと私的なもの 10 人間の諸活動の位置 第III章 労 働 11 「わが肉体の労働とわが手の仕事」 12 世界の物的性格 13 労働と生 14 労働と生命の繁殖力 15 財産による私生活の保護と富 16 仕事の道具と労働の分業 17 消費者の社会 第IV章 仕 事 18 世界の耐久性 19 物 化 20 道具の使用と「労働する動物」 21 道具の使用と「工作人」 22 交換市場 23 世界の永続性と芸術作品 第V章 行 為 24 言論と行為による行為者の開示 25 関係の網の目と演じられる物語 26 人間事象の脆さ 27 ギリシア人の解決 28 権力と現れの空間 29 「工作人」と現れの空間 30 労働運動 31 行為の伝統的な代替としての制作 32 行為の過程としての性格 33 不可逆性と許しの力 34 不可予言性と約束の力 第VI章 活動的生活と近代 35 世界からの疎外 36 アルキメデスの点の発見 37 宇宙科学 対 自然科学 38 デカルト的懐疑の興隆 39 内省と共通感覚の喪失 40 思考と近代的世界観 41 観照と活動の関係の逆転 42 「活動的生活」内部での転倒と「工作人」の勝利 43 「工作人」の敗北と幸福の原理 44 最高善としての生命 45 「労働する動物」の勝利 謝 辞 訳者解説 索 引 - 著者プロフィール - ハンナ・アレント (ハンナ アレント) (著/文) 1906-75年。ドイツに生まれ、アメリカで活躍した哲学者・政治思想家。主な著書に、本書(1958年)のほか、『全体主義の起源』(1951年)、『革命について』(1963年)など。 牧野 雅彦 (マキノ マサヒコ) (翻訳) 1955年生まれ。専門は、政治思想史。著書に、『精読 アレント『全体主義の起源』』、『危機の政治学』(以上、講談社選書メチエ)、『アレント『革命について』を読む』(法政大学出版局)ほか。
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日本語の発音はどう変わってきたか 「てふてふ」から「ちょうちょう」へ、音声史の旅|釘貫亨
¥924
中央公論新社 2023年 中公新書 ソフトカバー 264ページ 新書判 - 内容紹介 - 「問・母とは二度会ったが、父とは一度も会わないもの、なーんだ?」(答・くちびる)。この室町時代のなぞなぞから、当時「ハハ」は「パパ」のように発音されていたことがわかる。日本語の発音はどのように変化してきたのか。奈良時代には母音が8つあった? 「平」を「ヘイ」と読んだり「ビョウ」と読んだり、なぜ漢字には複数の音読みがあるのか? 和歌の字余りに潜む謎からわかる古代語の真実とは? 千三百年に及ぶ音声の歴史をたどる。 - 著者プロフィール - 釘貫亨 (クギヌキトオル) (著/文) 名古屋大学名誉教授. 1954年和歌山県生.1981年,東北大学大学院文学研究科国語学博士後期課程中退.1997年,博士(文学).1982年富山大学講師,1986年助教授,1993年名古屋大学文学部助教授を経て,1997年同大学大学院文学研究科教授.専攻・日本語史. 主著『古代日本語の形態変化』(和泉書院,1996年),『近世仮名遣い論の研究――五十音図と古代日本語音声の発見』(名古屋大学出版会,2007年),『「国語学」の形成と水脈』(ひつじ書房 2013年)『動詞派生と転成から見た古代日本語』(和泉書院,2019年)
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いま世界の哲学者が考えていること|岡本裕一朗
¥990
朝日新聞出版 2023年 朝日文庫 ソフトカバー 432ページ 文庫判 - 内容紹介 - 世界の最前線で活躍する哲学者たちは、現代社会をどのように捉えているのか──。人工知能、遺伝子工学、格差社会、テロの脅威、フィンテック、宗教対立、環境破壊……21世紀の哲学者が描く人類の明日とは? 人類が直面する難題への答えを導き出す。
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危機の時代に読み解く『風の谷のナウシカ』|朝日新聞社(編集)
¥1,870
徳間書店 2023年 ソフトカバー 248ページ 四六変型判 縦188mm 横128mm 厚さ19mm - 内容紹介 - 「これは『ナウシカ』の世界を旅する中で、すでに体験したことだ」 コロナウイルス、ウクライナ侵攻、AI問題、気候変動……混迷する現代社会を私たちはどう生きるのか。 朝日新聞デジタルにて、2021年3月に第1シーズン、5月に第2シーズンを配信し、読者から大きな反響を呼んだ「コロナ下で読み解く風の谷のナウシカ」。2022年12月に掲載された最新の第3シーズンを加え、すべてのインタビューをまとめて刊行! コロナウイルスをはじめ、ロシアのウクライナ侵攻、AI問題、ますます激化する気候変動など、混迷化が加速する現代社会を「人類が方向を転換せず、破滅を経験してしまった」仮想の未来を舞台にした宮﨑駿監督の長編漫画『風の谷のナウシカ』を通して連関的に考える。 【収録著者】民俗学者・赤坂憲雄/俳優・杏/社会哲学者・稲葉振一郎/現代史家・大木毅/社会学者・大澤真幸/漫画家・大童澄瞳/映像研究家・叶精二/作家・川上弘美/軍事アナリスト・小泉悠/英文学者・河野真太郎/ロシア文学者・佐藤雄亮/漫画研究者・杉本バウエンス・ジェシカ/文筆家・鈴木涼美/スタジオジブリプロデューサー・鈴木敏夫/漫画家・竹宮惠子/生物学者・長沼毅/生物学者・福岡伸一/評論家・宮崎哲弥(五十音順、敬称略)
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ギャラリーストーカー 美術業界を蝕む女性差別と性被害|猪谷千香
¥1,760
中央公論新社 2023年 ソフトカバー 232ページ 四六判 - 内容紹介 - 美大卒業後、作家として自らを売り出したいと願い、一人ギャラリーに立つ若い女性作家につきまとうギャラリーストーカー。美術業界の特殊なマーケットゆえに、被害から免れることが極めて難しいという異様な実態がある。孤軍奮闘する若い女性作家につきまとうのは、コレクターだけではない。作家の将来を左右する著名なキュレーター、批評家、美術家など、業界内部の権力者によるハラスメント、性被害も後を絶たない。煌びやかな美術業界。その舞台裏には、ハラスメントの温床となる異常な構造と体質、伝統があった! 弁護士ドットコムニュース編集部が総力を挙げて取材した実態と対策のすべて。 - 著者プロフィール - 猪谷千香 (イガヤチカ) (著/文) いがやちか 東京生まれ、東京育ち。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。産経新聞文化部記者などを経た後、ドワンゴでニコニコ動画のニュースを担当。2013年からハフポスト日本版でレポーターとして、さまざまな社会問題を取材。2017年から弁護士ドットコムニュース編集部で記事を執筆。著書に『日々、着物に割烹着』、『つながる図書館』『町の未来をこの手でつくる 紫波町オガールプロジェクト』など。
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わたしたちが沈黙させられるいくつかの問い|レベッカ・ソルニット, ハーン 小路恭子(翻訳)
¥2,420
左右社 2021年 ハードカバー 272ページ 四六判 - 内容紹介 - 「ご結婚は?」「ご主人は?」「奥さまは?」「お子さんは?」……。 わたしたちはいつも、無数の問いにさらされ、黙らされてきた。 でもいまや、何かが変わりはじめた。 近年のフェミニズムの大きな動きのなかで綴られた、 沈黙と声をあげることをめぐるエッセイ集。 #MeTooの世界的なうねりを準備した傑作『説教したがる男たち』につづく、 ソルニット節の真骨頂! ブレイディみかこさん推薦、待望の翻訳刊行 ヴァージニア・ウルフについて講演をしたあとのこと。 ある男がこう言った。「ウルフは子どもを産むべきだったと思いますか?」 女性の社会進出が進み、ライフスタイルがどんなに多様化しても、 わたしたちは何度でも何度でも脱力するような問いにさらされて生きている。 さまざまなかたちの暴力を受け、沈黙することを強いられつづけている。 SNSでは声を封じるためのあらゆる嫌がらせと脅しがぶつけられ、 レイプを始めとする性暴力やドメスティック・バイオレンスは一向に減ることがない。 人魚姫は地上で暮らすかわりに声を奪われるお話しだし、 「STAR WARS」三部作でレイア姫以外の女性が話すシーンはわずか63秒間に過ぎず、 女性たちを固定観念に閉じ込める物語は、進化をめぐる科学にまで浸透している。 男と女をめぐるいびつな権力構造をあばき、 辛辣に、ときにユーモラスに、すべてのひとに力を与える傑作エッセイ。 目次 イントロダクション マザー・オブ・オール・クエスチョンズ 1 沈黙は破られる 沈黙に関する簡潔な記録 I 群島を囲む海 II 男はみな孤島 男性の沈黙 III 沈黙と檻 IV 洪水に飲まれた都市 反乱の年 フェミニズム 男たちの到来 七つの死の一年後 レイプ・ジョークをめぐる短くも幸福な近況 2 ブレイキング・ザ・ストーリー 五百万年来の郊外から逃れて 鳩が飛び立ったあとの巣箱 女が読むべきでない八十冊 『ロリータ』について説教したがる男たち 加害者が行方不明 女巨人 謝辞と出典 訳者あとがき - 著者プロフィール - レベッカ・ソルニット (レベッカ ソルニット) (著/文) 1961年生まれ。作家、歴史家、アクティヴィスト。カリフォルニアに育ち、環境問題・人権・反戦などの政治運動に参加。1988年より文筆活動を開始する。歩くことがいかに人間の思考と文化に深く根ざしているか広大な人類史を渉猟する『ウォークス 歩くことの精神史』(Wanderlust, 2000)、「マンスプレイ ニング」の語を広めた『説教したがる男たち』(Men Explain Things to Me, 2014)エドワード・マイブリッジ伝River of Shadows(2004、全米批評家協会賞)、旅や移動をめぐる思索A Field Guide to Getting Lost(2005)、ハリケーン・カトリーナを取材したA Paradise Built in Hell(2009、邦訳『災害ユートピア』)など、環境、土地、芸術、アメリカ史など多分野に二十を越す著作がある。美術展カタログや雑誌への寄稿も多数。 ハーン小路 恭子 (ハーンショウジキョウコ) (翻訳) 米文学者。専修大学准教授。専門分野は二十世紀以降のアメリカ文学・文化。危機意識と文学・文化ジャンルの創成の関係に関心を持つ。
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説教したがる男たち|レベッカ・ソルニット, ハーン 小路恭子(翻訳)
¥2,640
左右社 2018年 ハードカバー 208ページ 四六判 - 内容紹介 - 相手が女性と見るや、講釈を垂れたがる男たち。 そんなオヤジたちがどこにでもいること自体が、 女性たちが強いられている沈黙、世界の圧倒的な不公正そのものだ。 今や辞書にも載っている「マンスプレイニング(manとexplainの合成語)」を世に広め、 #MeTooへと続く大きなうねりを準備するきっかけのひとつとなったソルニットの傑作、待望の邦訳! 女性は日々、戦争を経験している。 どんなに頑張っても、話すこともできず、自分のいうことを聞いてもらおうとすることさえ、ままならない。 ここはお前たちの居場所ではない。 男たちは根拠のない自信過剰で、そう女性を沈黙に追い込む。 ソルニット自身がその著者とも知らず、「今年出た、とても重要な本を知っているかね」と話しかけた男。 彼にそんな態度を取らせている背景には、男女のあいだの、世界の深い裂け目がある。 性暴力やドメスティック・バイオレンスは蔓延し、それでいて、加害者の圧倒的割合が男性であることには触れられない。 女性たちの口をつぐませ、ときに死に追いやる暴力の構造をあばき出し、 想像力と言葉を武器に、立ち上がる勇気を与える希望の書。 目次 1 説教したがる男たち 2 長すぎる戦い 3 豪奢なスイートで衝突する世界 4 脅威を称えて 5 グランドマザー・スパイダー 6 ウルフの闇 7 変態に囲まれたカサンドラ 8 #女はみんなそう 9 パンドラの箱と自警団 謝辞 訳者あとがき - 著者プロフィール - レベッカ・ソルニット (レベッカ ソルニット) (著) 1961年生まれ。作家、歴史家、アクティヴィスト。カリフォルニアに育ち、環境問題・人権・反戦などの政治運動に参加。1988年より文筆活動を開始する。歩くことがいかに人間の思考と文化に深く根ざしているか広大な人類史を渉猟する『ウォークス 歩くことの精神史』(Wanderlust, 2000)、エドワード・マイブリッジ伝River of Shadows(2004、全米批評家協会賞)、旅や移動をめぐる思索A Field Guide to Getting Lost(2005)、ハリケーン・カトリーナを取材したA Paradise Built in Hell(2009、邦訳『災害ユートピア』)など、環境、土地、芸術、アメリカ史など多分野に二十を越す著作がある。美術展カタログや雑誌への寄稿も多数。 ハーン 小路恭子 (ハーンショウジ キョウコ) (翻訳) 米文学者。金沢大学国際基幹教育院准教授。専門分野は二十世紀以降のアメリカ文学・文化で、小説やポップカルチャーにおける危機意識と情動のはたらきに関心を持つ。
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ハッピークラシー 「幸せ」願望に支配される日常|エドガー・カバナス, エヴァ・イルーズ, 高里ひろ(翻訳), 山田陽子(解説)
¥3,740
みすず書房 2022年 ハードカバー 356ページ 四六判 - 内容紹介 - 「幸せの追求はじつのところ、アメリカ文化のもっとも特徴的な輸出品かつ重要な政治的地平であり、自己啓発本の著者、コーチ、[…]心理学者をはじめとするさまざまな非政治的な関係者らの力によって広められ、推進されてきた。だが幸せの追求がアメリカの政治的地平にとどまらず、経験科学とともに(それを共犯者として)機能するグローバル産業へと成長したのは最近のことだ」(「序」より)。 ここで言及される経験科学とは、90年代末に創設されたポジティブ心理学である。「幸せの科学」を謳うこの心理学については、過去にも批判的指摘が数多くなされてきた。本書はそれらをふまえつつ、心理学者と社会学者の共著によって問題を多元的にとらえた先駆的研究である。 「ハッピークラシー」は「幸せHappy」による「支配-cracy」を意味する造語。誰もが「幸せ」をめざすべき、「幸せ」なことが大事――社会に溢れるこうしたメッセージは、人びとを際限のない自己啓発、自分らしさ探し、自己管理に向かわせ、問題の解決をつねに自己の内面に求めさせる。それは社会構造的な問題から目を逸らさせる装置としても働き、怒りなどの感情はネガティブ=悪と退けられ、ポジティブであることが善とされる。新自由主義経済と自己責任社会に好都合なこの「幸せ」の興隆は、いかにして作られてきたのか。フランス発ベストセラー待望の翻訳。 目次 序 第1章 あなたのウェルビーイングの専門家 第2章 よみがえる個人主義 第3章 仕事でポジティブであること 第4章 商品棚に並ぶ幸せなわたし 第5章 幸せはニューノーマル 結論 解説 山田陽子(大阪大学准教授) 原注 索引 - 著者プロフィール - エドガー・カバナス (エドガーカバナス) (著/文) (Edgar Cabanas) マドリード自治大学で心理学の博士号を取得後、マックスプランク人間発達研究所感情史センター研究員を経て、現在カミロ・ホセ・セラ大学(マドリード)教授。José Carlos Sánchez, Marino Pérez Álvarezとの共著にLa vida real en tiempos de la felicidad: Crítica de la psicología (y de la idología) positiva(Alianza Editorial, 2018)がある。Routledge社のTherapeutic Culturesシリーズ共同編集を務める。 エヴァ・イルーズ (エヴァイルーズ) (著/文) (Eva Illouz) ヘブライ大学社会学教授。フランス国立社会科学高等研究院教授。2022年6月にはケルン大学アルベルトゥス・マグヌス教授にも就任。著書にConsuming the Romantic Utopia: Love and the Cultural Contradictions of Capitalism (University of California Press, 1997); Cold Intimacies: The Making of Emotional Capitalism (Polity Press, 2007); Why Love Hurts: A Sociological Explanation (Polity Press, 2012); Unloving: A Sociology of Negative Relations (Oxford University Press, 2018) などがある。執筆論文多数。 高里ひろ (タカサトヒロ) (翻訳) (たかさと・ひろ) 翻訳家。上智大学卒業。訳書にトム・リース『ナポレオンに背いた「黒い将軍」』(白水社、2015年)、ロイ・バレル『絵と物語でたどる古代史』(晶文社、2008年)、『世界を変えた100人の女の子の物語』(共訳、河出書房新社、2018年)、トム・ニコルズ『専門知は、もういらないのか』(みすず書房、2019年)など。 山田陽子 (ヤマダヨウコ) (解説) 大阪大学大学院人間科学研究科准教授。神戸大学大学院総合人間科学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。専門は社会学(感情社会学、医療社会学、社会学理論)。著書に『「心」をめぐる知のグローバル化と自律的個人像』(学文社、2007年。日本社会史学会奨励賞受賞)、『働く人のための感情資本論――パワハラ・メンタルヘルス・ライフハックの社会学』(青土社、2019年)。共著に『現代文化の社会学 入門』(ミネルヴァ書房、2007年)、『いのちとライフコースの社会学』(弘文堂、2011年)など。
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黒い皮膚・白い仮面 【新装版】|フランツ・ファノン, 海老坂武(翻訳), 加藤晴久(翻訳)
¥4,070
みすず書房 2020年 ハードカバー 328ページ 四六判 - 内容紹介 - 「黒人の不幸は奴隷化されたということである。白人の不幸と非人間性はどこかで人間を殺してしまったということである。…黒人であるこの私の欲することはただひとつ。道具に人間を支配させてはならぬこと。人間による人間の、つまり他者による私の奴隷化が永遠に止むこと。…ニグロは存在しない。白人も同様に存在しない。」 精神科医、同時にフランス領マルチニック島に生まれたひとりの黒人として、ファノンは最初の著作である本書で、植民地出身の黒人が白人社会で出会う現実と心理を、精神分析学的なアプローチを含め、さまざまな側面からえぐり出してみせた。 他からの阻害があるとき、内面においても自己を阻害する黒人に向けて、そこからの解放を訴えたファノンの言葉は、彼自身の生を出発点として実践のただ中から発せられたものであるゆえに、読む者の心に迫る。 目次 序 (フランシス・ジャンソン) はじめに 1 黒人と言語 2 黒い皮膚の女と白人の男 3 黒い皮膚の男と白人の女 4 植民地原住民のいわゆる依存コンプレックスについて 5 黒人の生体験 6 ニグロと精神病理学 7 ニグロと認知 結論に代えて ファノンの認知 (フランシス・ジャンソン) 注 あとがきにかえて - 著者プロフィール - フランツ・ファノン (フランツファノン) (著/文) 1925-61。フランス領マルチニック島で黒い皮膚をしたマルチニック人として生まれる。第二次大戦中、「自由フランス」に志願して参加し、各地で戦った。戦後はフランス本国に学び、リヨン大学で精神医学を専攻して学位を取得、この頃白い皮膚のフランス人と結婚した。1952年『黒い皮膚・白い仮面』を刊行。1953年11月フランス領アルジェリアにある精神病院に赴任。翌年、アルジェリア独立戦争が勃発。戦争初期は民族解放戦線(FLN)の活動を密かに助けていたが、1957年以来病院の職を辞し全面的にFLNに身を投じる。FLNの機関誌『エル・ムジャヒド』に精力的に寄稿するなど、アルジェリア革命のスポークスマン的役割を果たした。1958年には『アルジェリア革命第五年』(後に『革命の社会学』と改題)を発表、そして1961年には、白血病に冒されつつも『地に呪われたる者』をわずか10週間で執筆。闘争の総決算である同書が刊行されてからわずか数日後の1961年12月6日、ファノンは息を引き取った。36歳の若さであった。死後、『エル・ムジャヒド』その他に書かれた文章を集めた『アフリカ革命に向けて』が出版された。 海老坂武 (エビサカタケシ) (翻訳) 1934年東京に生まれる。東京大学文学部仏文科卒業。同大学院(仏語・仏文学)博士課程修了。著書『フランツ・ファノン』(講談社、1981、みすず書房、2006)『パリ ボナパルト街』(ちくま文庫、1990)『記憶よ、語れ』(筑摩書房、1995)『〈戦後〉が若かった頃』(岩波書店、2002)『かくも激しき希望の歳月』(岩波書店、2004)『祖国より一人の友を』(岩波書店、2007)『サルトル』(岩波新書、2005)『戦後文学は生きている』(講談社現代新書、2012)『加藤周一 二十世紀を問う』(岩波新書、2013)『戦争文化と愛国心』(みすず書房、2018)など。訳書 ニザン『番犬たち』(晶文社、1967)ペレック『眠る男』(晶文社、1970、水声社、2016)ファノン『黒い皮膚・白い仮面』(共訳、みすず書房、1969、1998)ボーヴォワール『別れの儀式』(共訳、人文書院、1989)サルトル『植民地の問題』(共訳、人文書院、2000)『自由への道』(共訳、岩波文庫、2000)『家の馬鹿息子』1-4(共訳、人文書院、1982、1989、2006、2015)ほか多数。 加藤晴久 (カトウハルヒサ) (翻訳) 1935年東京に生まれる。仏文学専攻。東京大学・恵泉女学園大学名誉教授。著書『ブルデュー 闘う知識人』(講談社、2015)『《ル・モンド》から世界を読む』(藤原書店、2016)ほか。訳書 ファノン『黒い皮膚・白い仮面』(共訳、みすず書房、1968、1998)ほか。
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地に呪われたる者 【新装版】|フランツ・ファノン, 鈴木道彦 (翻訳), 浦野衣子 (翻訳)
¥4,180
みすず書房 2015年 ハードカバー 328ページ 四六判 - 内容紹介 - 民族とは、国家とは、文化とは。ファノニズムとは何か。 植民地主義に抗し36年の生涯を闘争に捧げた著者が遺した、ポスト・コロニアル批評の原点。 「ひとつの橋の建設がもしそこに働く人びとの意識を豊かにしないものならば、 橋は建設されぬがよい、市民は従前どおり、泳ぐか渡し船に乗るかして、 川を渡っていればよい。橋は空から降って湧くものであってはならない、社会の 全景にデウス・エクス・マキーナ〔救いの神〕によって押しつけられるものであっては ならない。そうではなくて、市民の筋肉と頭脳とから生まれるべきものだ。(…) 市民は橋をわがものにせねばならない。このときはじめて、いっさいが可能となるのである。」(本書より) [初版「現代史・戦後篇」16『フランツ・ファノン集――黒い皮膚・白い仮面、地に呪われたる者』1968年刊、 『フランツ・ファノン著作集』3『地に呪われたる者』1969年刊、〈みすずライブラリー〉版1996年刊] - 著者プロフィール - フランツ・ファノン (フランツファノン) (著/文) 1925-61。フランス領マルチニック島で黒い皮膚をしたマルチニック人として生まれる。第二次大戦中、「自由フランス」に志願して参加し、各地で戦った。戦後はフランス本国に学び、リヨン大学で精神医学を専攻して学位を取得、この頃白い皮膚のフランス人と結婚した。1952年『黒い皮膚・白い仮面』を刊行。1953年11月フランス領アルジェリアにある精神病院に赴任。翌年、アルジェリア独立戦争が勃発。戦争初期は民族解放戦線(FLN)の活動を密かに助けていたが、1957年以来病院の職を辞し全面的にFLNに身を投じる。FLNの機関誌『エル・ムジャヒド』に精力的に寄稿するなど、アルジェリア革命のスポークスマン的役割を果たした。1958年には『アルジェリア革命第五年』(後に『革命の社会学』と改題)を発表、そして1961年には、白血病に冒されつつも『地に呪われたる者』をわずか10週間で執筆。闘争の総決算である同書が刊行されてからわずか数日後の1961年12月6日、ファノンは息を引き取った。36歳の若さであった。死後、『エル・ムジャヒド』その他に書かれた文章を集めた『アフリカ革命に向けて』が出版された。
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シンクロニシティ 科学と非科学の間に | ポール・ハルパーン, 権田敦司(翻訳)
¥2,640
あさ出版 2023年 ソフトカバー 472ページ 四六判 - 内容紹介 - Physics Worlds Best of Physics in 2020(イギリスの権威ある物理化学雑誌『Physics Worlds』誌が毎年選ぶ ベストセラー Book)! フォーブス絶賛! 福岡伸一推薦! “エイコーザル”(acausal/因果律に基づかない)サイエンスという軸で、ギリシア哲学から最新の量子力学まで、科学の歴史を振り返る抜群に面白いと話題の書がようやく翻訳出版。 アリストテレスの物理学から量子テレポーテーションまで、何千年もの間、科学者たちが頭を悩ませてきた『シンクロニシティ(意味のある偶然)』を、科学、哲学、物理などから究明した1冊。 - 著者プロフィール - ポール・ハルパーン (ポールハルパーン) (著/文) アメリカ合衆国・ペンシルバニア州フィラデルフィアにある科学大学で物理学教授を務める。ペンシルバニア州フィラデルフィア在住。著書に『The Quantum Labyrinth(量子世界という迷宮)』『Einstein's Dice and Schrodinger's Cat(アインシュタインのサイコロとシュレーディンガーの猫)』など16冊ある。本書にて「Physics World Best of Physics in 2020」を受賞。 権田敦司 (ゴンダアツシ) (翻訳) 業界新聞記者、消防士を経て翻訳家に。埼玉県出身、東京都在住。訳書に、数学史の入門『図解 教養事典 数学 INSTANT MATHEMATICS」(ニュートンプレス)、免疫システムの最新研究に迫る『エレガントな免疫 上・下』(ニュートン新書)。趣味はスポーツ、読書、銭湯巡り。特技は息子の風呂入れ。救急救命士。
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増補自己を見つめる | モニーク・ロフェイ, 岩瀬徳子 (翻訳)
¥1,980
左右社 2021年 放送大学叢書 ソフトカバー 325ページ - 内容紹介 - この本を読んで、もう一度前向きに生きようと思った。 ニーチェやハイデッガーらのことばをまじえ、 崩れ落ちそうになる気持ちを支え引き締めてくれる静かなロングセラー。 多くの熱心な聴講生を集めた伝説の講義から生まれた名著に、 著者が愛読してやまなかったふたりの哲学者への追悼を込めた2篇を増補した新装版。
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[新版] 我々は 人間 なのか? デザインと人間をめぐる考古学的覚書き|ビアトリス・コロミーナ, マーク・ウィグリー, 牧尾晴喜(翻訳)
¥3,300
ビー・エヌ・エヌ新社 2023年 ソフトカバー 320ページ A5判 - 内容紹介 - 人間はデザインし、デザインしたものによってデザインしかえされる── 大きな反響を呼んだ越境的デザイン考、待望の復刊! 先史時代(石器)から現代(ソーシャルメディア)に至るまでの、人間と人間が作り出した人工物(artifact)との関係性を照らし出すことで、現在の私たちが理解している「人間」と「デザイン」の意味に揺さぶりをかける本書は、近年注目を集める存在論的デザインへの最適な入り口となる一冊です。 新版となる本書では、デザイン実務家にして理論家、ソシオメディア株式会社の上野学氏による論考を加えています。 【目次】 1. デザインという鏡 2. 変化する人間 3. デザインの衝撃 4. 人間の発明 5. 装飾する種 6. ユートピアだより 7. よいデザインは麻酔である 8. 健康のデザイン 9. 人間中心デザイン 10. 摩擦のないシルエット 11. 身体のデザイン 12. 倒錯としてのデザイン 13. 亡霊のデザイン 14. 不安定な身体 15. ホモ・セルラー 16. 2秒間のデザイン 解説─「デザイン」をめぐる認識論的転回(伊村靖子) 論考─人間生成とデザイン(上野 学) ※本書は2017年10月に刊行した『我々は 人間 なのか?』に修正・新規原稿を加えた改訂新版です。構成内容に変更はありません。
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アースダイバー 神社編|中沢 新一
¥2,420
講談社 2021年 ハードカバー 370ページ A5変型判 - 内容紹介 - 人気シリーズ「アースダイバー」が、いよいよその関心の中心である、神社を取り上げます。 生命にとっての普遍的聖地に加えて、ホモサピエンス・サピエンスにとっての聖地、そして古代の日本列島に居住した縄文系と弥生系(倭人系)にとっての聖地(のちの神社)の心的・歴史的な構造を探っていきます。 主な取扱い神社は、以下の通りです。 大日霊貴神社(鹿角大日堂) 諏訪大社 三輪神社 出雲大社 和多都見(海神)神社 志賀海神社 穂高神社 伊勢神宮などなど 神社に残された祭儀に秘められた思考を遡っていくと、アメリカ先住民、アジアの少数民族、ネパール、東南アジアなどとの深いつながりが明らかになります。 また、同時にこの列島に数万年にわたって繰り広げられてきた、われわれの祖先の前宗教的・宗教的思考の根源とその展開が解明されていきます。 山とは、海とは、蛇とは、太陽とは……。 歴史の無意識の奥にしまいこまれた記憶を甦らせる魂の冒険へ、いざ。 目次 プロローグ 聖地の起源 第一部 聖地の三つの層 第一章 前宗教から宗教へ 第二章 縄文原論 第三章 弥生人の神道 第二部 縄文系神社 第四章 大日霊貴神社(鹿角大日堂) 東北の続縄文 地名起源伝説 太陽神の聖地に建つ大日堂 第五章 諏訪大社 縄文の「王国」 蛇から王へ 御柱祭りの意味 第六章 出雲大社 蛇 タマ 神話の建築 第七章 三輪神社 ナラの原像 血と酒の蛇 蛇と鑑の確執 第三部 海民系神社 第八章 対馬神道 はじまりの島 ムスビの神 渚の神話学 第九章 アヅミ族の足跡 海の民の末裔 日本海ルート 太平洋ルート 第十章 伊勢湾の海民たち 太陽の道 海人と鳥 エピローグ 伊勢神宮と新層の形成
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増補改訂 アースダイバー|中沢 新一, 大森 克己(著/文 | 写真)
¥2,530
講談社 2019年 ハードカバー 384ページ A5変型判 - 内容紹介 - 2005年の大ブームから13年を経て、東京アースダイバーの完全版なる! 縄文、そして「海民」へと日本のルーツを遡り、地形の無意識、文化と自然の相互作用を探るアースダイビングは、見えない東京を私たちに教える。今回の増補改訂で隅田川と多摩川流域といった海民文化の要素が色濃く残る地域を追加しました。そして東京の中心地であり、アースダイバーの出立点である大宮八幡へと帰還する旅が完了する。 2005年、『アースダイバー』は、東京の風景が一変する散歩の革命を起こし大ベストセラーになりました。野生の東京を描く東京創世記でした。 その後、『大阪アースダイバー』(2012)『アースダイバー 東京の聖地』(2017)、『アースダイバー 神社編』(刊行準備中)と日本の歴史を書きかえる射程をもつ大きなプロジェクトになっています。 縄文、そして「海民」へと日本のルーツを遡り、地形の無意識、文化と自然の相互作用を探るアースダイビングは、見えない東京を私たちに教えてくれます。 今回の増補改訂で隅田川と多摩川流域といった海民文化の要素が色濃く残る地域を追加しました。 そして東京の中心地であり、アースダイバーの出立点である大宮八幡へと帰還します。 東京アースダイバーの決定版にして完結版! 【120ページ加筆】 【全24点アースダイビング・マップ付き】 【第9回桑原武夫学芸賞受賞】 [目次] 増補改訂 まえがき プロローグ 第1章 ウォーミングアップ―東京鳥瞰 第2章 湿った土地と乾いた土地―新宿~四谷 第3章 死と森―渋谷~明治神宮 第4章 タナトスの塔 異文/東京タワー―東京タワー 第5章 湯と水―麻布~赤坂 間奏曲(1)―坂と崖下 第6章 大学・ファッション・墓地―三田、早稲田、青山 第7 職人の浮島―銀座~新橋 第8章 モダニズムから超モダニズムへ―浅草~上野~秋葉原 第9章 東京低地の神話学―下町 第10章 海民がつくった下町-隅田川 第11章 よみがえる南郊-多摩川 間奏曲(2) 森番の天皇―皇居 最終章 ムサシ野オデッセイ あとがき - 著者プロフィール - 中沢 新一 (ナカザワ シンイチ) (著/文) 1950年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。現在、明治大学野生の科学研究所所長。思想家。 著書に『日本の大転換』『アースダイバー』、『カイエ・ソバージュ』(小林秀雄賞)、『チベットのモーツァルト』(サントリー学芸賞)『森のバロック』(読売文学賞)『哲学の東北』(青土社、斎藤緑雨賞)など多数ある。
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はたらかないで、たらふく食べたい 増補版 「生の負債」からの解放宣言|栗原 康
¥902
SOLD OUT
筑摩書房 2021年 ちくま文庫 ソフトカバー 288ページ 文庫判 - 内容紹介 - カネ、カネ、カネの世の中で、ムダで結構。無用で上等。爆笑しながら解放される痛快社会エッセイ。文庫化にあたり50頁分増補。解説 早助よう子
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送別の餃子 中国・都市と農村肖像画|井口淳子
¥1,980
SOLD OUT
灯光舎 2021年 ソフトカバー 224ページ A5変型判 縦148mm 横195mm 厚さ15mm - 内容紹介 - 中国の北方では、人々は別れの時に、手作りの水餃子を囲んでその別れを惜しむという。 自身の研究分野を「民族音楽学」に決めた著者が選んだ調査地は中国の農村。1988年、文化大革命後に「改革開放」へと舵をきった中国で、右も左もわからぬまま「研究」への情熱と未知なる大地へのあこがれだけで、彼女のフィールド調査がはじまった。 中国の都市や農村での調査をきっかけにさまざまな出会いがあった。「怖いものはない」という皮肉屋の作家、強烈な個性で周囲の人々を魅了し野望を果たす劇団座長、黄土高原につかの間の悦楽をもたらす盲目の芸人たち……「親切な人」とか「ずる賢い人」といった一言では表現できない、あまりにも人間臭い人々がここにはいる。それぞれの物語で描かれている風土と生命力あふれる登場人物に心うごかされ、人の心のありようについて考えてみたくなる。 1988年以降の中国という大きな舞台を駆け巡った数十年間には無数の出会いと別れがあった。その中から生まれた14の物語をつづったエッセイを、40以上のイラストとともにお届けします。 イラスト:佐々木 優(イラストレーター) 目次 はじめに 序 まだはじまっていないころのお話 Ⅰ 河北省編 第一章 老師的恋 第二章 北京の女人 第三章 ゆりかごの村 第四章 占いか、はたまた芸人か Ⅱ 黄土高原編 第五章 雨乞いの夏 第六章 村の女たち、男たち 第七章 黄河治水局のおじさん 第八章 尿盆(ニァオペン) 第九章 人生も戯のごとく Ⅲ 番外編 第一〇章 頑固じいさんと影絵芝居 第一一章 かくも長き一八年 第一二章 パリの台湾人 第一三章 想家(シァンジァー) 第一四章 人を信じよ! あとがき 参考文献 前書きなど 「はじめに」により 一部要約し掲載 日本では「やさしい」ということばが好まれる。「やさしい人に育ってほしい」、「心やさしい」などと頻繁に使うことばだが、中国語にはこの「やさしい」にあたる単語がない。近いことばとして「親切」、「温和」、「老実」などがあげられるが、いずれも親切、おだやか、誠実といった意味で、やさしい、にぴったり一致しない。 なぜだろうか。 中国ではやさしさという曖昧なものを必要としないからだと思われる。 きびしい気候風土と生存競争のなかで、生きるか死ぬかという局面にさらされてきた人びとにとって、他人にやさしさを求めたり、自分が他者にやさしくしたりする必要はないのだ。ところが、わたし自身、何度も中国で人の温情に触れ、助けられてきた。もし、中国のどこかで本当に困り果てていたなら、すぐに周囲の人が身振り手振りで助けてくれると断言できる。外国人だからといって無視したり、困っているのを放っておいたりすることは絶対ありえない。その理由は一言でいうなら相手が自分と同じ「人」だからだ。同じ国、同じ町の住人という以前に同じ「人」であるという大きな前提がある。その構えの大きさ、おおらかさゆえにわたしのような体力も語学力もない者がこれまで中国に通うことができたのだと思う。 さて、この本のテーマは「中国」ではなく、あくまで「人」である。それもよくありがちな「中国人とは〇〇な人びとである」と一くくりにする中国人論ではなく、わたし自身が中国で出会ったあまたの人びとのなかで、今なお記憶のなかでひときわ光を放ちつづける個々人についての本である。 思い返せば民族音楽学を学ぶ大学院生であった1987年以来、30年以上ものあいだ中国に通い農村や北京、上海などの大都市で短期、長期の滞在をくり返してきた。それらは一過性の旅ではなく、研究のためのフィールドワーク(現地調査)であった。旅とフィールドワーク、どちらにも現地の人との出会いがある。旅の出会いではお互いが相手を気に入らなければ付き合わなくてもよい。しかしフィールドワークでは長期間、かつくり返し訪問するなど交流が長くつづき、またお互いに気に入らない、ギクシャクすると感じても、関係は一定期間つづくことになる。この、相手にとってなかば強制的な関係からして、フィールドワークは対等な関係ではなく、調査する側とされる側の力関係は植民地主義的だと批判されつづけてきた。勝手にやってきて一方的に調査し、一方的に書いて発表する、その行為への批判をフィールドワークは背負っている。 もうひとつ、旅でもフィールドワークでもない出会いとして、ビジネスがある。10万人ともいわれる日本人中国駐在者も現地の人びとと長期にわたり密に接することになる。この場合、ビジネス・パートナーとして目の前にあらわれる相手はある特定の業種や資格をもつ人に限定され利害関係の枠組みをはずすことはできないであろう。 こう考えると、フィールドワークとはなんと牧歌的で無限の可能性を秘めた出会いの場なのかと思う。フィールドワークという通行証をもってすれば、その地について何も知らない赤ん坊のような状態から根気強くありとあらゆることを現地で教えてもらうことも不可能ではない。うまくいけば異文化研究の最強の方法だが、よき時、よき人、よき村やコミュニティにめぐり合うという幸運に恵まれれば、という条件がつく。 さて、フィールドワークで出会った人びとの記憶、それはわたしの場合、30年を経て、薄れるどころか、ますます鮮烈に思い起こされるようになってきた。この10年ほどを上海、それも租界時代というアヘン戦争以来100年間、英仏など西欧列強が支配した時期の資料調査に費やしたことも、かつての農村体験をあらためて見直すきっかけになった。それほどまでにくり返し思い起こされる体験なのにこれまで「人」をテーマに書き、公開したことはほとんどなかった。 なぜ書かなかったのだろうか。その最大の理由としてフィールドワークは手段であり、目的ではない、という答えがある。フィールドワークをおこなう前提となるのが、研究者と現地協力者との信頼関係(ラポール)である。このラポールの構築についてはいわば個々の研究者の「秘技」とされており、文化人類学の「民族誌(エスノグラフィ)」や論文といった成果のなかで記述されることは少ない。フィールドノート(調査地での記録ノート)においても記録対象からはずされるのが、現地の人びととの生々しい関係についてである。書き記すにはあまりに微妙で、感情が絡む事象であるがゆえに無意識、あるいは意識的に記録からはずしてしまうのだ。 われわれがこの種の秘技の片鱗に触れたいと思うなら、フィールドワーカーの「回顧録」や、民族誌の「あとがき」のなかなどで読むことができるかもしれない。一般的には個々の研究者がどのように人びとと関係し、手痛い失敗を重ねながら、徐々に親密な関係になっていくのかということは、知りたいと思ってもなかなか知りえない聖域のように思う。 また、調査実施から一定の時間を置かないと書くことができない、という問題もある。わたしも今になって、1980代、90年代のまだ十分に社会主義的であった中国農村での体験を客観的にとらえ直すことができるようになったと感じている。渦中においては「なぜそのようなことが?」とわけがわからなかったことが今となってはストンと理解できることも多い。 本書では、これまで学術論文や研究書で書くことのなかった、忘れがたい人びととの記憶の一コマ一コマを文章でよみがえらせようとした。だからといって甘い感傷にひたるようなものではなく、失敗だらけの苦い体験のなかにぽっかりと薄日がさすような、そんな記憶だ。 中国で出会った人びとについて書きたいという衝動はじつのところ今から17年前のドイツ滞在時、半年間の研究休暇中にわたしのなかで膨らみはじめていた。 […]滞在の時間を重ねるにつれ、あることにはた、と気がついた。それは、「ヨーロッパではこの先、どのように滞在年数を重ねたとしても、中国で経験した、人びととの濃密で心揺さぶられるような交流を体験することはないだろう」ということだった。ことばの問題とか、文化的距離とかそういったハードルはあるとしてもそれだけが要因ではない。中国の村々や街で目にした混沌と矛盾、人びとのむき出しの感情、みずからの心の振幅、そういったすべての経験が、ドイツのように人と人が価値観を共有し、法を守り、すべてがきちんと整理された国に身を置くことで、あらためてかけがえのない体験だったと思えてきた。 中国農村での、あるときは身を震わせて怒り、またあるときは涙を滂沱と流した日々。わずか2日にもみたない出会いと別れであったにもかかわらず、今なおその声や表情までもがよみがえるひとりの男……。 それにしても、あらためて1980年代から今までを振り返ったとき、この30年あまりは中国未曾有の変化のときであったと感じる。たとえば、上海。1987年に最初の調査地に選んだのが、上海、蘇州の近郊農村だった。農村は言うに及ばず、上海のメインストリートである南京路でさえ、夜は街灯が数えるほどしかないため暗く、上海のシンボル的建築、和平飯店の前で撮影した写真にはグレーや紺の簡素な洋服を着た老若男女が写っている。1990年代までは日本のほうが先進国と思っていたが、2000年代に入ると上海はみるみるうちに未来都市へと変貌をとげ、あっさりと日本の大都市を追い抜いていった。 そういえば、かつては日本から中国に出かける場合、旅費や滞在費は言うまでもなく自己負担、向こうから人を招聘する場合は全額を日本側が負担するのが暗黙の了解だった。それが今では完全に逆転し、中国から高額の講演料が支払われたり、こちらが旅費込みで招待されたりする状況になっている。昔ながらの経済的優越感をもって中国に出かけるなら、かなりの落ち込みを体験する羽目になる。 農村の変化も都市にひけをとらない。ある村や街の様子を探るべくインターネットで情報を探すと、「これがあの街?」と目を疑うようなビルが林立する写真が出てくる。また通信アプリでどのような奥地の知人とも簡単に連絡をとることができる。かつては村から十数キロ先の郵便局まで出かけ電報を打っていたのに、固定電話という段階を経ずにいきなり電報から携帯電話に移行したのだ。自嘲的に「われわれの村は落後(どうしようもなく遅れている)だ」、と農村幹部が首を振りつつ嘆いていた農村は表面的には過去のものになった。 それでも、そう簡単に変わらないのが「人」なのだ。[…] 版元から一言 この書籍は、中国の食べ物や黄土高原の窰洞(ヤオトン)などの風土、そして研究の対象となった語り物芸能などの描写も見どころですが、特に描かれているものは、「人」そのものです。素朴で、何気ない物語のなかの人物たちは「○○な人」という言葉で表現できない人間臭い、癖のある、生命力に満ちた中国や台湾の人々。著者・井口さんと飾り気のない登場人物との交流からうまれる互いの喜怒哀楽が真っ正直に描かれています。 皮肉屋でも、どこか憎めない魅力をもつ楽亭県の作家、優雅な立ち振る舞いで回りを魅了し、うまくその人達を利用する劇団座長や、黄土高原に住むおだやかな盲目の音楽家などの姿を見ていると、人の心のありようについて考えてみたくなる気がします。 そして、今回はイラストレーター・佐々木優さんの40もの筆力ある線画がこの物語に彩りを与えてくれました。さまざまな風景や人物の表情などが豊かに描かれています。 あとがきには「読者が、中国を自分の眼で見てみようというきっかけになれば…」と記されています。物語の光景を頭に描きながら原稿を読んでいて、ふと我にかえると、違う国を訪れること、人々とふれあうことが「いまはそう簡単にできることじゃないな」と感じます。 国を越えるのにも、人々が互いに顔を突き合わせて話すことも、なかなか難しい状況がずっと続いています。物語の中で描かれた何気ない人と人の会話に、改めて「いま」を思いました。井口さんの体験と想いのつまった出会いと別れの14章はみなさんの心に何を残すのでしょうか。 もともとは「民族音楽学」の研究調査がきっかけで生まれた本ですが、決して専門的な書籍ではなく、エッセイであり人を描いた「文学」でもあると思います。多くの方々に手に取っていただければ幸いです。 - 著者プロフィール - 井口淳子 (イグチジュンコ) (著/文) 専門は音楽学、民族音楽学。大阪音楽大学音楽学部教授。大阪大学大学院文学研究科博士課程単位取得、文学博士。主な研究テーマは中国の音楽・芸能、近代アジアの洋楽受容。 主な著書に『亡命者たちの上海楽壇 ― 租界の音楽とバレエ』2019年、音楽之友社。『中国北方農村の口承文化―語り物の書・テキスト・パフォーマンス』1999年、風響社など。
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沖縄文化論 : 忘れられた日本|岡本 太郎
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中央公論新社 1996年 中公文庫 ソフトカバー 261ページ 文庫判 - 内容紹介 - 苛酷な歴史の波に翻弄されながらも、現代のわれわれが見失った古代日本の息吹きを今日まで脈々と伝える沖縄の民俗。その根源に秘められた悲しく美しい島民の魂を、画家の眼と詩人の直感で見事に把えた、毎日出版文化賞受賞の名著。 目次 沖縄の肌ざわり 「何もないこと」の眩暈 八重山の悲歌 踊る島 神と木と石 ちゅらかさの伝統 結語 神々の島久高島 本土復帰にあたって