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沖縄の生活史| 石原昌家(監修), 岸政彦(監修), 沖縄タイムス社(編集)
¥4,950
みすず書房 2023年 ハードカバー 880ページ A5判 - 内容紹介 - 2022年5月に、日本復帰50年を迎えた沖縄。これを節目として、沖縄の歴史とともに生きてきた人々の来し方を聞き取って文章に残そう、という沖縄タイムス社の企画が結実したのが本書である。 沖縄タイムス紙上での募集に応えた「聞き手」たちが、それぞれ思い思いの「語り手」を選び、その人生を聞き取って生活史として仕上げた。紙上に、およそ半年以上にわたって連載された85篇に加え、新聞には掲載しなかった15篇を合わせた、計100篇の生活史がここにまとめられている。巻頭と巻末にはそれぞれ、監修者のまえがき、あとがきを収録する。 「私は本書のどの語りの、どの部分を読んでも、深い感慨と感動をおぼえます。ここには語り手たちが経験した「沖縄の戦後」が、確かに存在するのです」 (岸政彦、まえがきより) 「数多くの沖縄の人たちから聞き取りしてきたにもかかわらず、庶民の生活の奥深くに分け入り、心の襞に触れるところまでは、聞き取りはしていなかったか、と思わざるを得ない語りにも出会えました」 (石原昌家、あとがきより) 目次 まえがき 岸政彦 あの時の東京はね、お店の正面に「沖縄者お断り」って書いてあったんだよ。野蛮人と言ってから 聞き手=安里優子(五七) 語り手=母・池原春子(八四) 「おい、比嘉君ね、これからが僕らの時代だよ」って言うんだよ 聞き手=安里百合香(六一) 語り手=安里繁雄(九一) おじー必ず、運転したいって言ってさ、どうしても運転したいって 聞き手=東春奈(三六) 語り手=父(七二) 爆弾の破片とか、買いに来る業者がいたわけ。家にね。そこの業者さんに売ったりしてた。小遣い稼ぎ。一キロ売ったらいくらだよということで 聞き手=安谷屋佑磨(二九) 語り手=父(六二) 耕運機買うのも、吉本家が初めて。開墾するのも、吉本が初め。みんなやらないわけよ、こんなの 聞き手=荒井聡(三九) 語り手=吉本良子(九七) なんでないのって聞いたら一番上の兄が(給料を)そっくり持っていってあるわけよ 聞き手=新川真奈美(三二) 語り手=祖母(七四) 努力しなくて、なんとかなるさじゃないわけよ。努力しての結果が「なんくるないさ」、それ全然違うね 聞き手=泡☆盛子(五〇) 語り手=幼馴染の母・添盛文子(七一) 裏返して、僕の住所を書いたわけ。その時にまぁ、ポロポロポロポロ泣いたよ 聞き手=伊是名夏子(四〇) 語り手=父・伊是名進(七八) ブランクなくドラムたたいてきたから、俺みたいにいろんなジャンルのドラムを経験してきたのは珍しいんじゃないかね 聞き手=井筒形(五九) 語り手=津嘉山善栄(七四) ある奥さんはさ、必ず「あんた連れて行って、子どもが大きくなるまで一緒に育ててくれないか」と言いよったけど 聞き手=上江洲清哉(二四) 語り手=上江洲ツネ(九〇) でも、見てくれてたんだぁー、分かってくれてたんだぁーってのがあって。すごいあの言葉は忘れられなかった 聞き手=上原健太郎(三七) 語り手=糸満市出身の女性(六〇代) 沖縄の歴史から呼ばれて、自ら沖縄の歴史を呼び込んでいく、その在り方みたいなもの 聞き手=上原沙也加 語り手=仲里効 だからほんとにしたいと思ったこともそのときなかったし。諦めてたから 聞き手=上間陽子 俺の妹と父ちゃんは、ちゃんと国から感謝状もらってるけど警察署から。俺はちゃんと逮捕状もらってるよ(笑) 聞き手=打越正行(四三) 語り手=剛(五〇代) 夜寝られない。起こされて、もう亡くなる人が、亡くなった人が来てよ、もう死んだまま。もう大変だった。墓が開く時は、誰がって分かりよったわけよ 聞き手=大城沙織(二五) 語り手=男性(八一) 仕事も全部、覚えてきている時だから、二六ぐらいだと思うけど。その頃に偽札が横行したのよ。二〇ドル札の偽札が 聞き手=大城譲司(五四) 語り手=母(八七) 「いーいーなぁ、うやんくゎんやん、この戦争ややん、ぬーがないら分からんくとぅやん、やらはんどー」んち。おばあがウリさるばー 聞き手=大城ひかり(二八) 語り手=祖母・大城千代(九八) だから当時のコザはやっぱり怖かったですよ。行くと。白人はクルカジャーシーって黒人の匂いが嫌いだし。黒人はまた白人の匂いが嫌い、キモチワリーみたいな 聞き手=大田泰正(三一) 語り手=父・大田至(六一) わじわじーですよ。怒り狂って、あぎじゃびよー、たっけーらせーと 聞き手=大塚和徳(四五) 語り手=高江洲義八(七三) 生物の時間だったのかな?「えっ、メダカ? メダカ見たことない」って言ったら、みんなが笑うわけ 聞き手=岡本彰子(五四) 語り手=従姉・金城千代己(七五) それから数日後に母が「やはり、ハワイ行った方がいいよ」と言って。妹はまだ小さかったからね、私一人で沖縄を出たんです 聞き手=荻堂志野(二九) 語り手=東恩納良吉(八六) 門中の子どもたちを守って子孫を繁盛させてくださいと、それだけをお願いするだけだよ 聞き手=語り手の甥(六二) 語り手=門中の神人(八九) ずーっと耳で、なんか日本語分かると思ってたんだけど、あれ日本語じゃなかったね。ほぼ半分以上はもう、うちなーぐち 聞き手=加藤勲(四〇) 語り手=安富祖美智江 「おい福峯、お前、沖縄復帰させてもらって良かったなぁー」って言った一言で、俺、胸ぐら捕まえて大げんかしたよ 聞き手=加藤里織(四七) 語り手=福峯衆宝(六九) マジに信じてたのは復帰するってのは、本土に沖縄の島がくっつくことだと思ってたわけね。そのまんま九州の鹿児島にくっつく、これが復帰だと思ってたわけ 聞き手=兼島拓也(三三) 語り手=父(六〇代) 復帰したら、アメリカーが店に来なくなるから。うちも夫も、心の中では復帰には反対だったから。もうけなくなるさあね 聞き手=嘉納英明(五九) 語り手=石川静子(八七) 別に復帰がどうこうして、覚えてることはないよ。何にも私には、関係のないことだから 聞き手=叶祐介(二四) 語り手=祖母・仲間久子(八七) 飛行士が見えるのよ。見えるんだよ。パイロットが。ぷわーっとやってね、ぷわーっと逃げたのよ。全員無事だったけど、屋根が燃えてよ 聞き手=神村メイ(六九) 語り手=夫の叔父・新垣昌也(八四) 本土に来てから、青森や鹿児島とか難しそうな方言を使ってるのに、何で沖縄だけ禁止になったわけってすごく腹が立ったね 聞き手=川野香織(五〇) 語り手=母・畑山シズ(七四) 人間はね、どんな苦労でも、金で使われていると、金に使われていると思ったらどんな苦労でも耐えきれるという話、聞かされたから。ああ人間は、そうだねえと言って 聞き手=岸政彦 他の職業では復帰前の資格が復帰後も認められているケースもあるわけで、なぜ私たちだけ「沖縄弁護士」を名乗らなければいけないのか、差別ではないか、という意識はありますよ 聞き手=喜屋武馨(八二) 語り手=松田朝徳(八七) 戦前は、はだしで歩いたので足裏が硬くなっていた。寒い時につまずいてつま先を打って血が出ても痛さを感じないぐらいだった 聞き手=喜屋武すま子(七三) 語り手=義母・喜屋武初子(九九) 首ちりどぅし、これ一言で、僕の頭の中ではね。沖縄で首ちりどぅしという言葉は、なかなか言わないけど、そのぐらい親しいんだね 聞き手=喜屋武悠生(三五) 語り手=父親の親友(七四) 私たち夫婦は(一九六四年の)東京オリンピックから、今度のオリンピックまで華やかな人生だった。ちょうど一緒、珍しいことに 聞き手=金城愛音(二七) 語り手=祖母・我那覇英子(八二) うちなーぐちを使えるようになったのは沖縄に帰ってきてから。生活のために覚えたさ 聞き手=金城さつき(四〇) 語り手=玉城秀子(八四) ニュースペーパーボーイ、ユーノウ? 聞き手=具志堅大樹(二九) 語り手=両親の友人(六〇代) 九八ドルだったら生活やっていけたけど、三万六〇〇〇円では生活やっていけなかったね 聞き手=久保祥子(三〇) 語り手=伯父・知念正樹(七四) うん、モテて大変だった。モテモテ(笑)。内地に連れて帰ろうかなぁ、って、まあ、おべっか言う人もいたよ 聞き手=久保山亜希子(三四) 語り手=母(七〇) 結婚するよりか、技術を習わんとね。もう、親もいないからという感じですよ 聞き手=幸地一(五九) 語り手=幸地廣明(八四) 人生ってやり返しきくって言うけど、はーとんでもない。一度ひっくり返ったらなかなか簡単じゃないよ 聞き手=古我知智子(六〇) 語り手=義母(九四) いい絵を描けばアメリカーでも認めてくれるんじゃないのっていうのもあるわけ。それで、美術を一生懸命やり始めたわけ 聞き手=酒井織恵(五二) 語り手=父・稲嶺成祚(八九) この大雨はうちなーんちゅの涙だ、このことは絶対に忘れない、と思ったのは、はっきり覚えています。その後は気が遠くなって、倒れていました 聞き手=佐藤学(六四) 語り手=宜野座映子(七五) よく買ってくれる人はもうけあるけど、また買ってくれない人もいるわけよ。なんかヤミみたいだから。ゲートで調べる人が来たら没収もするから、戦々恐々よ、もう 聞き手=さゆき(三三) 語り手=祖母(九四) 中の町来て、この辺でも燃えていて、胡屋十字路来たらまた空港通りも、ここも燃えていたんだ 聞き手=織(二四) 語り手=祖父(七七) たまに、自分なんかのおうちにターユーっていう魚が入ってくるわけさ 聞き手=島袋秋人(二三) 語り手=祖母・比嘉あさみ(六七) 燃やした記憶はないけどよ、どうせ俺はもう沖縄に帰らんってからさ。捨てたような気がする。もう要らないって、帰るつもりはないって 聞き手=島袋幸司(三八) 語り手=沖縄本島中部の男性(七〇代) 自分が味わってきた沖縄だけの閉鎖的な空間よりは、どんどん出てってほしい。だから、あまり実家には近寄りたくなかった 聞き手=島袋弘暉(二二) 語り手=母(五〇代) この差があるわけ、ここは下。外人は上。事故しても外人が事故しても、何にも関係ないのに 聞き手=島袋真由美(三七) 語り手=大叔父(八四) 復帰記念メダルもらった。メダル、学校からみんなに。お祭り騒ぎだったかな。よく覚えていないな 聞き手=島袋みゆき(五二) 語り手=配偶者(六〇) 自分は中学三年で受験勉強してたもんだから。もっと勉強したいから行きたくないっていうことで、毎日けんか 聞き手=下地隆弘(二二) 語り手=祖母(八〇代) 五年生くらいの時に方言を使わなかった子で、表彰されたわけ。下地君は学校で方言を使いませんでした、とか言ってさ 聞き手=下地レオ(三二) 語り手=父(五八) だから学校も行っていないから食べ歩いて聞いて。食堂に帰ってそのように作って、味して「あ、この味だ」って思ったら、これで店の味にする 聞き手=城間碩也(二四) 語り手=祖母(七七) どんな人かねと。色が白くて髪が長くて、髪が長いというだけでジュリ(遊女)じゃないか、みたいな。みんな、見に来るわけ 聞き手=城間美咲(三八) 語り手=富田初江(八四) 復帰しないで自分たちがそのまま、琉球政府としていきたいみたいな討論会があったよ、高校生が 聞き手=城間優子(四六) 語り手=父の従妹(六〇代) 戦後はもうだんだんヤマトに世替わりだからね。向こうしか向いてないから。逆に僕は「こっち向けよ」と思って、方言ニュースを 聞き手=新垣啓子(六三) 語り手=母の従弟・又吉健次郎(九〇) 先祖まつりの長男だから、帰らないかん宿命にあるんですけど、少し働いて、働いていう間に六〇年間、最初は二ヵ月のつもりで来たんですよ 聞き手=末松史(四三) 語り手=金城豊秀(八三) 沖縄の歴史かな。四年生から学べるわけさ。これオレ楽しみにしてたわけよ。そしたら四年なったらなくなっていた 聞き手=末吉利旭(三六) 語り手=父(六〇) 僕は手をやられていますから、抵抗できるのは口しかないんですよ。だから、僕も馬の顎にかみついた 聞き手=鈴木陽子(六一) 語り手=平得壯市(八五) それがもう「ショウショウショウショウショーウ! ショーウ!」って言うから(笑) 聞き手=平良伊都実(二五) 語り手=母(五五) 親戚のおじさん、おばさんが勝手に付けたの。呼びやすいように。よう子、よう子って。お母さんの姉さんも名前二つあるさね。栄子なのに、しげーって呼ばれてた 聞き手=高浪千裕(五〇) 語り手=入嵩西時子(七五) そうサミットが始まる前だったからね。「G7って付けた方がいいんじゃないか」って言ったらさ、そのあとにG7が始まったさ 聞き手=知念渉 語り手=赤嶺千穂子、夫=芳弘 なんか、あっちから通るバス見たら、ああ、あのバスどこ行くんだろうな、乗ってみたいなぁって思ってた 聞き手=知念真由美(五七) 語り手=母(八三) 手続きしたら、これ何人て書くんですかーってなったわけさ、だから琉球人って書きなさいって言われたよって言ってるわけ 聞き手=知念ゆかり(二四) 語り手=父の姉(七八) おやじと電話でよくけんかしたよ。おやじは復帰したら何もかもよくなるって言うわけさぁ。これでは駄目だようと思ったわけさぁ 聞き手=寺田光枝(七四) 語り手=玉城薫(七四) 五〇〇円と言われて、五〇〇円くらいなら何とかならなかったかな、って今考えたら思うけど、あれも悔しかったよ、りま 聞き手=徳森りま(三四) 語り手=父・徳森栄春(六二) 超ショック。何か分かんない。もうソーセージ食べられなくなった 聞き手=富山勝代(四九) 語り手=友人・えーみー(四八) 同世代の子が「やー」とか「えー」とか言っていると、何のことか分からなくて、超戸惑った覚えがありますね。怒ってるー、なんだこりゃーって 聞き手=鳥井由美子(三八) 語り手=上地愛乃(三一) いつもさ「もう少しだよ、もう少しだよ」って。いつもその言葉にさ、ばあちゃんはさ、その言葉につられてずっと一緒にじいちゃんと仕事していた 聞き手=仲地二葉(三〇) 語り手=祖母・照屋キヨ子(八一) でも僕も若くて、「日本語上手ですね」って言われて「あなたより上手かもしれませんね」なんて言って(笑) 聞き手=仲程玲(四〇) 語り手=伯父・江川義久(七七) 軍歌、嫌なぐらい分かるわけ。兄たちがいつも軍歌歌うから聞き覚えて。教育って大変よ。軍歌まだ覚えているもん、小学生の女の子だったのに 聞き手=仲間尚子(六一) 語り手=母・玉城千代(八七) 「あい、おとう、これ三番いなぐんぐゎーがもうけている給料どー」と言って。おばあはかんなじおとうに手合わせよった。これいつなっても忘れない 聞き手=仲松沙也香(二二) 語り手=大叔母・トキ子(八三) 何にもいいことはない。おばさんだちは何もない時期の子どもだからね。意味ないよ 聞き手=仲嶺真(三三) 語り手=伯母(八〇代) 「育てもしないくせに」って。泣きよったよ。口から出しよったよ。「育てもしないくせに」って。その時は恨みよった 聞き手=鉢嶺京子(四一) 語り手=祖堅秀子(八三) 着いて、第一声が教授に呼ばれて、「日本語話せるね?」って 聞き手=比嘉あんの(一六) 語り手=祖母・高良敏子(八四) そう。アイドルですよ。ホントに(笑)。交通指導が終わるまで待っている人がいたの。それくらい、「見せる警察官」 聞き手=比嘉鈴代(四五) 語り手=母・比嘉洋子(六九) 隣近所の子どもたち、集まって隠れとってから、映画始まったら、戸閉めるから、その時に入るさ 聞き手=比嘉チハル(四三) 語り手=比嘉幸保(六六) あの時思ったんは、沖縄と貧乏は別もんやなってすごく感じて。私はそれをいっしょくたにして、沖縄を嫌ってたなあと思って 聞き手=比嘉直子(五五) 語り手=沖縄二世K・N(六〇代) 友達とねー、れんげ畑ね、帰り。原田屋のおうちの下は、みーんな稲さ。稲取った後はれんげがもういっぱい咲くのね 聞き手=比嘉和香(四九) 語り手=母・賀数孝子(八一) あっちの嫁になせって言われるからよ、ゲーしてさ、反抗になって、反抗してよ 聞き手=ヒヤジョウマキ(二七) 語り手=祖母・眞栄田トシ(八九) だから、出たらひかれていたかもしれない。通るのにじゃまになっている私の車を側溝に落として通りたかったんだから 聞き手=藤宮子(三六) 語り手=義母(七二) これはいかんと思って、「返してこうね」ってお母さんに言ったら、お母さんは「行かないで! 恭枝さん、それは私が買うから」って言いはんねん 聞き手=藤本朋子(五一) 語り手=石原恭枝(八三) 「おばさん来たよ」って言ったら、来た途端に「元気だった?」と歓迎してくれたのは、このことだったんだなって後で分かったんだけど 聞き手=古里友香(四九) 語り手=大城(旧姓・知花)フヂ子(七七) 普通でしたら、親が子どもの介護をするじゃないですか。私の場合は反対で、息子に介護されて、病院生活を過ごさせていただいたという感じですね 聞き手=平安名萌恵(二七) 語り手=レイコ(七〇代) 願っていた内容の復帰ではない。そうだったら、まあ、あまりうれしくはない人もいただろうが、しかし、あの、僕自身はね、まずは復帰するんだという思いが強かった 聞き手=前泊美紀(四九) 語り手=前泊甫美(八二) うん。法律が適用されるさ。アメリカの法律じゃなくて、日本の法律。それが、一番のうれしさだったな 聞き手=前原洸大(二四) 語り手=仲村渠實(八二) 私たちもだまされてなかったら、今頃、大きなビル建てていたんじゃないかねーって思うよ(笑) 聞き手=真境名育恵(四七) 語り手=母・新開麗子(七四) 新川のお墓へ行く時は、牛に車ひかせて、みんな乗せて行った。牛はゆっくりだからいいわけさ。あー、あの時、カメラがあったら写したのにねー 聞き手=松井裕子(七一) 語り手=中村トヨ(八六) 沖縄で墓を初めて見てびっくりしたよ。防空壕だと思った 聞き手=松岡幸子(七五) 語り手=上運天賢盛(九〇) 家に持ってきて食べるって言って。あんまりおいしいから。もうとにかくおいしい。カニ豆腐って言って、もうとってもおいしい料理があるんだけどね 聞き手=松田郁乃(三二) 語り手=祖母(八三) 宿題とか勉強していたらお母が怒られよった。「なんでいなぐんぐゎーに勉強させる?」って 聞き手=松田哲郎(四一) 語り手=母(六九) 屋敷の桑の木に小さなマイマイがいたからそれを集めてね、湯がいてから食べて、そうやって生きていたんだよ 聞き手=諸見里梨奈(二〇) 語り手=祖父(八六) どんなしてお母さんと言うか。私のお母さん、育てのお母さん、このお母だのにって思ってよ…… 聞き手=山内直子(五四) 語り手=母・ゑみ子(八九) たばこをやめた日です。五月一五日に何をしていたかというと……たばこをやめる以外には何もなかったような気がするけれども 聞き手=山口祐里瑛(二四) 語り手=祖父・仲里政幸(九一) たまに卵取って飲みよったよ、隠れて。たたいてからに、穴が空いたらチュッチュッチュして 聞き手=山田哲也(四八) 語り手=母(七四) 逆に、学校の先生たちが本土と一緒にしようと思って躍起になっていたんだ。俺ら……、子どもはね、あんまり興味なかった 聞き手=山入端由香(三二) 語り手=男性(六〇代) 役場から公報来て、大暴れして「今すぐ天皇陛下連れてきて、殺せー!」って言ったよ 聞き手=山本和(二六) 語り手=田中美江(九二) だから全然記憶がないんじゃ。そういう子ども、記憶がない子ども 聞き手=雪田倫代(三七) 語り手=父(七八) 罰金するって言って罰金払ったよ。嫌だのに、あんなの。ストライキしても意味ない。働いた方がいいさ。やっても、やらなくても勝ち目はないですよ 聞き手=吉門夏輝(三一) 語り手=八重瀬町の祖母(七五) そんな時に、朝ごはんに納豆が出たの。いくらなんでも、私たちのことが嫌いだからって、こんな腐ったものを出すことないのにねって(笑) 聞き手=渡邉隆(三七) 語り手=母・渡邉敬子(六七) 例えば僕はよ、箸のつかみ方。八重山でも普通にごはん食べてるさ。日本ではどんなして使うのかなぁとか思ったりよ。一緒なのかな、違うのかな、と思ったりしてよ 聞き手=綿貫円(三三) 語り手=石堂徳一(七三) あとがき――記憶の玉手箱のような存在 石原昌家 - 著者プロフィール - 石原昌家 (イシハラマサイエ) (監修) (いしはら・まさいえ) 1941年、台湾宜蘭市生まれ、沖縄県那覇市首里出身。沖縄国際大学名誉教授。沖縄の生活史、戦争体験などの研究。主著は『虐殺の島――皇軍と臣民の末路』(晩聲社、1978)。『大密貿易の時代――占領初期沖縄の民衆生活』(晩聲社、1982)(2000年に『空白の沖縄社会史――戦果と密貿易の時代』に改題して出版)、『郷友会社会――都市の中のムラ』(ひるぎ社、1986)、『沖縄の旅・アブチラガマと轟の壕――国内が戦場になったとき』(集英社新書、2000)、『国家に捏造される沖縄戦体験――準軍属扱いされた0歳児・靖国神社へ合祀』(インパクト出版会、2022)等多数。1970年から沖縄県史、各市町村史字誌などの編纂執筆にかかわる。沖縄の各平和資料館企画に参加。第三次家永教科書訴訟(沖縄戦部分)や沖縄靖国神社合祀取消裁判等の専門家証人として証言。全戦没者刻銘碑「平和の礎(いしじ)」の刻銘検討委員会元座長等歴任。 岸政彦 (キシマサヒコ) (監修) 社会学者・作家。1967年生まれ。京都大学教授。専門は沖縄、生活史、社会調査方法論。主な著作に『同化と他者化――戦後沖縄の本土就職者たち』(ナカニシヤ出版、2013)、『街の人生』(勁草書房、2014)、『断片的なものの社会学』(朝日出版社、2015、紀伊國屋じんぶん大賞2016受賞)、『質的社会調査の方法――他者の合理性の理解社会学』(石岡丈昇・丸山里美と共著、有斐閣、2016)、『ビニール傘』(新潮社、2017)、『はじめての沖縄』(新曜社、2018)、『マンゴーと手榴弾――生活史の理論』(勁草書房、2018)、『図書室』(新潮社、2019)、『リリアン』(新潮社、2021、第38回織田作之助賞)『地元を生きる――沖縄的共同性の社会学』(打越正行・上原健太郎・上間陽子と共著、ナカニシヤ出版、2020)、『東京の生活史』(筑摩書房、2021、紀伊國屋じんぶん大賞2022・毎日出版文化賞)、『生活史論集』(ナカニシヤ出版、2022)など多数。 沖縄タイムス社 (オキナワタイムスシャ) (編集) 沖縄県で発行されている日刊紙を発行する新聞社。戦時中の唯一の新聞「沖縄新報」の編集同人を中心に1948年7月1日、那覇市で創刊。「鉄の暴風」と表現された熾烈な沖縄戦など戦争の反省に立ち、県民とともに平和希求の沖縄再建を目指したのが出発点になった。27年間に及んだ米軍統治下では自治権の拡大や復帰運動で、住民の立場から主張を展開した。1972年の日本復帰後も、在日米軍専用施設面積の7割以上が沖縄に集中することによる過重負担や、基地があるゆえに起きる事件・事故、騒音などの被害、日米地位協定の問題などを追及する。また、県民生活に寄り添い、子どもの貧困問題の解決などに向けた論陣を張る。2023年に創刊75年を迎えた。
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学ぶことは、とびこえること 自由のためのフェミニズム教育|ベル・フックス, 里見 実(監修 | 翻訳), 朴 和美(翻訳), 堀田 碧(翻訳), 吉原 令子(翻訳)
¥1,430
筑摩書房 2023年 ちくま学芸文庫 ソフトカバー 368ページ 文庫判 - 内容紹介 - 境界を越え出ていくこと、それこそが自由の実践としての教育だ。ブラック・フェミニストが自らの経験をもとに語る、新たな教育への提言。解説 坂下史子 === 肌の色、ジェンダー、階級といった差異を前にして、すべての人に開かれた「学びの共同体」をつくることはできるか。まず自分自身を批判的にみつめ、変えるための教育はいかにして可能か。ブラック・フェミニストの大学教師であるベル・フックスが自らの経験をもとに、学生と教師の双方に語りかける。教室での性差別や人種差別にどう対処するか、異なる経験をいかに語り合うか、学ぶことの歓びと不安……。フレイレの批判的教育学やフェミニズムの教育思想、黒人教師の教育実践を導きに語る本書は、様々な境界を越え出る「自由の実践としての教育」のためのヒントに満ちている。 === 教室をどう変える? 肌の色、ジェンダー、階級の囲いを破るために。 ベル・フックスが教師と学生に語った名著。 === 【目次】 はじめに 1 関与の教育 2 価値観に革命を―多様な文化を尊重するために 3 変化を恐れない―多様な文化のなかで教える 4 パウロ・フレイレ 5 解放の実践としての理論 6 本質主義と経験 7 姉妹の手をとって―フェミニストの連帯 8 フェミニスト的に考える―いま教室で 9 フェミニストの学究生活―黒人研究者として 10 教えの共同体をめざして―ある対話 11 言葉―新しい世界と、そして新しい言葉を 12 教室の内なる階段を見据える 13 教育過程とエロス、エロティシズム 14 エクスタシー―とめどなき教えと学び 新版訳者あとがき 解説 ベル・フックスを学び直すこと(坂下史子) - 著者プロフィール - ベル・フックス (ベル フックス) (著/文) 1952-2021年。米ケンタッキー州生まれ。フェミニズム理論家、作家、文化批評家。邦訳書に『アメリカ黒人女性とフェミニズム──ベル・フックスの「私は女ではないの?」』『フェミニズムはみんなのもの──情熱の政治学』『ベル・フックスの「フェミニズム理論」──周辺から中心へ』など多数。 里見 実 (サトミ ミノル) (監修 | 翻訳) 1936-2022 年。國學院大學名誉教授。東京大学大学院人文科修了。専門は教育社会学。中南米演劇の研究と翻訳にも取り組んだ。おもな著書に『パウロ・フレイレ「被抑圧者の教育学」を読む』、『学ぶことを学ぶ』、『ラテンアメリカの新しい伝統』など、おもな訳書に、アウグスト・ボアール『被抑圧者の演劇』、パウロ・フレイレ『希望の教育学』、カルラ・リナルディ『レッジョ・エミリアと対話しながら』などがある。 朴 和美 (パク ファミ) (翻訳) 1949 年生まれ。テンプル大学(日本校)大学院修士課程修了(教育学修士)。総合金融会社の社内英語翻訳者、大学非常勤講師、NPO 理事などを経て、「在日朝鮮人女一人会」を始める。著書に『「自分時間」を生きる』、共訳書にH・S・ギルバート『性の女性史』がある。 堀田 碧 (ホッタ ミドリ) (翻訳) 1950 年生まれ。翻訳家。ケント大学修士課程修了(女性学修士)。共著に『経済のグローバリゼーションとジェンダー』(伊豫谷登士翁編)が、訳書に、ベル・フックス『フェミニズムはみんなのもの』、C・T・モーハンティー『境界なきフェミニズム』(監訳)などがある。 吉原 令子 (ヨシハラ レイコ) (翻訳) 吉原令子(よしはら・れいこ):1965 年生まれ。日本大学商学部教授。ミネソタ州立大学大学院修了(女性学修士)。テンプル大学(日本校)大学院博士課程修了(教育学博士)。専門はアメリカ女性運動史、フェミニズム教育学。著書に『アメリカの第二波フェミニズム』、The Socially Responsible Feminist EFL Classroomなどがある。
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SNSの哲学 リアルとオンラインのあいだ|戸谷 洋志
¥1,540
創元社 2023年 シリーズ「あいだで考える」 ソフトカバー 144ページ 四六変型判 縦168mm 横130mm 厚さ10mm - 内容紹介 - シリーズ「あいだで考える」創刊! 不確かな時代を共に生きていくために必要な 「自ら考える力」 「他者と対話する力」 「遠い世界を想像する力」 を養う多様な視点を提供する、 10代以上すべての人のための人文書のシリーズ。 * 『SNSの哲学――リアルとオンラインのあいだ』 あなたに考えてほしいのは、 「SNSをどう使うべきか」といったマニュアル的なことではなく SNSを使っているあなた自身が何者なのかという問いなのです。 承認・時間・言葉・偶然・連帯。 SNSを使う私たちを描く 新しい哲学の本。 10代の生活にすっかり溶け込んでいるSNSの利用をめぐるさまざまな現象――「ファボ」「黒歴史」「#MeToo運動」など――を哲学の視点から捉え直し、この世界と自分自身への新しい視点を提供する。若い読者に「物事を哲学によって考える」ことの面白さと大切さを実 践的に示す一冊。(装画:モノ・ホーミー) 目次 はじめに 1章 なぜSNSで承認されたいのか? 1 「SNS疲れ」の正体 2 私たちはなぜ承認を求めるのか? 3 相互承認の境地へ 2章 SNSにはどんな時間が流れているのか? 1 タイムラインに時間は流れていない 2 SNSに時間を作りだす 3 人間の生きる時間性 3章 SNSではどんな言葉が交わされているのか? 1 私たちはなぜ「つぶやく」のか? 2 「つぶやき」と炎上 3 言葉とルール 4章 SNSに偶然はあるのか? 1 SNSのアルゴリズム 2 アルゴリズムと偶然性 3 自分自身を創造する 5章 SNSで人は連帯できるのか? 1 政治に利用されるSNS 2 SNSがつむぐ連帯 3 つながりに力を与えるために おわりに リアルとオンラインのあいだをもっと考えるための作品案内 - 著者プロフィール - 戸谷 洋志 (トヤ ヒロシ) (著/文) 1988年東京都生まれ。関西外国語大学英語国際学部准教授。専攻は哲学・倫理学。技術思想や未来倫理学を探究するかたわら、「哲学カフェ」の実践などを通じて、社会に開かれた対話の場を提案している。著書に『友情を哲学する』(光文社新書)、『未来倫理』(集英社新書)、『NHK100分de名著 ハイデガー『存在と時間』』(NHK出版)、『スマートな悪』(講談社)、『ハンス・ヨナスの哲学』(角川ソフィア文庫)ほか多数。
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階級とは何か|スティーヴン・エジェル, 橋本 健二(翻訳)
¥1,320
筑摩書房 2023年 ちくま学芸文庫 ソフトカバー 288ページ 文庫判 - 内容紹介 - マルクスとウェーバーから、現代における展開まで。階級理論の基礎を、社会移動・経済的不平等・政治にも目配りしつつ、総覧する類書のない入門書。 === 産業資本主義社会においては〈階級〉というものが非常に大きな影響力をもつ──。本書は他に類書のない、階級理論の入門書である。ここでは、〈階級理論の2人の創始者〉マルクスとウェーバーにおける階級概念の比較から出発し、その後の多様な研究の展開を追う。さらに、階級分析の方法論と、現代社会における支配階級/中間階級/従属階級の構造を概観し、社会移動、ジェンダー、政治といった要素に目を向けつつ、階級社会の未来と無階級社会の可能性について論じていく。社会的不平等や経済的貧困など、格差社会の問題を根本から考えるすべてのひとに勧めたい一冊。 === 格差社会を根幹から考える 最良の入門書 === 【目次】 序 第1章 階級の古典的理論 ― マルクスとウェーバー ― はじめに/階級に関するマルクスの見解/プロレタリア化、両極分解と革命的変化/革命的な変化を妨げる要因/階級に関するウェーバーの見解/階級闘争の分断/要約と結論 第2章 現代の階級理論 ― ネオ・マルクス主義とネオ・ウェーバー主義 ― はじめに/ライトのネオ・マルクス主義階級理論/ライトへの批判/ゴールドソープのネオ・ウェーバー主義的階級理論/ゴールドソープへの批判/職業階級(地位)について/要約と結論 第3章 階級の測定 はじめに/伝統的階級分析法に対する批判/階級の操作化 ― 三つの重要な選択/要約と結論 第4章 階級構造と社会変動 はじめに/支配(諸)階級/中間(諸)階級/従属(諸)階級/アンダークラスに関する覚書/要約と結論 第5章 階級と社会移動 はじめに/現代男性の社会移動/現代女性の社会移動/要約と結論 第6章 階級・不平等・政治 はじめに/階級と経済的不平等 ― 測定上の問題/階級と経済的不平等 ― データ/民主的階級闘争/要約と結論 第7章 無階級社会と階級の終焉 はじめに/無階級社会の現代的構想/要約と結論 文献一覧 主要邦訳文献目録 文庫版訳者あとがき 索引 - 著者プロフィール - スティーヴン・エジェル (スティーヴン エジェル) (著/文) 1942年生まれ。英国サルフォード大学教授。専門、社会学。階級理論・ジェンダー理論・労働社会学の実証研究などを専門とし、社会学者T.ヴェブレンの研究でも知られる。本書のほか、主著にMiddle-Class Couples (1980), Veblen in Perspective:His Life and Thoughts(2001)などがある。 橋本 健二 (ハシモト ケンジ) (翻訳) 1959年生まれ。早稲田大学人間科学学術院教授。専門、社会学。
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差別はたいてい悪意のない人がする 見えない排除に気づくための10章|キム ジヘ, 尹 怡景(翻訳)
¥1,760
大月書店 2021年 ソフトカバー 256ページ 四六判 - 内容紹介 - あらゆる差別はマジョリティには「見えない」。日常の中にありふれた 排除の芽に気づき、真の多様性と平等を考える思索エッセイ。 目次 プロローグ あなたには差別が見えますか? I 善良な差別主義者の誕生 1章 立ち位置が変われば風景も変わる 2章 私たちが立つ場所はひとつではない 3章 鳥には鳥かごが見えない II 差別はどうやって不可視化されるのか 4章 冗談を笑って済ませるべきではない理由 5章 差別に公正はあるのか? 6章 排除される人々 7章 「私の視界に入らないでほしい」 III 私たちは差別にどう向きあうか 8章 平等は変化への不安の先にある 9章 みんなのための平等 10章 差別禁止法について エピローグ わたしたち 訳者あとがき 解説 韓国における差別禁止の制度化とそのダイナミズム(金美珍)
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インターセクショナリティ | パトリシア・ヒル・コリンズ, スルマ・ビルゲ, 小原 理乃(翻訳), 下地 ローレンス 吉孝(監修 | 翻訳)
¥4,180
人文書院 2021年 ハードカバー 382ページ 四六判 縦188mm 横132mm 厚さ30mm - 内容紹介 - 交差性とは何か? ジェンダー、人種、階級などいくつもの要因が絡み合う複雑な権力関係を捉える、現代社会の最重要概念、その初めての解説書。 「インターセクショナリティとは、人種、階級、ジェンダー、セクシュアリティ、ネイション、アビリティ/ディサビリティ、エスニシティ、年齢などさまざまな要素の交差する権力関係と社会的立場の複雑性を捉える概念である。またこの概念に内在する精神(エートス)とは、社会的不平等や交差する権力関係を社会的文脈にそって分析し、抑圧が絡み合う社会構造の複雑性を紐解き、社会正義へと向かう批判的実践と批判的探求の関係性における相乗効果によって引き出され培われてきた政治(ポリティクス)である。」(監訳者解説より) 原著:Patricia Hill Collins, Sirma Bilge, Intersectionality, 2nd Edition, Polity Press, 2020 目次 はじめに 第1章 インターセクショナリティとは何か? インターセクショナリティを分析ツールとして使用する インターセクショナリティという枠組みの核となるアイディア 第2章 批判的な探求と実践としてのインターセクショナリティ 批判的探究としてのインターセクショナリティ 批判的実践としてのインターセクショナリティ 探求と実践の相乗効果 批判的であるとはどういうことか 第3章 インターセクショナリティの歴史を整理する? インターセクショナリティと社会運動アクティビズム インターセクショナリティの学術界への制度的統合 その名前が意味するものとは? 第4章 インターセクショナリティのグローバルな展開 インターセクショナリティと人権 さらに詳しく――交差的な枠組みと人権政策 インターセクショナリティとリプロダクティブ・ジャスティス デジタル・ディベート─ インターセクショナリティとデジタル・メディア 第5章 インターセクショナリティ、社会的抗議、そして新自由主義 インターセクショナリティとグローバルな社会的抗議 国民国家における弾圧的転回 安全保障化――誰もが直面する課題か? インターセクショナリティ、社会的抗議、そして極右ポピュリズム 第6章 インターセクショナリティとアイデンティティ 241 ヒップホップ、インターセクショナリティ、そしてアイデンティティ・ポリティクス 学術界におけるインターセクショナリティとアイデンティティの議論 では、インターセクショナリティのために、どういったアイデンティティを? 第7章 インターセクショナリティとクリティカル・エデュケーション クリティカルな重なり合い─ インターセクショナリティと教育 多文化教育、ダイバーシティ、そして都市部の公立学校 インターセクショナリティ、ダイバーシティ、そして高等教育 インターセクショナリティ、クリティカル・エデュケーション、そして社会正義 第8章 インターセクショナリティの再検討 社会的不平等 交差する権力関係 社会的文脈 関係性 複雑性 社会正義 締め括り 訳者解説 参考文献 索引 - 著者プロフィール - パトリシア・ヒル・コリンズ (パトリシアヒルコリンズ) (著/文) Patricia Hill Collins/メリーランド大学カレッジパーク校名誉教授。専門は人種、階級、ジェンダー研究。主な著作にBlack Feminist Thought: Knowledge,Consciousness, and the Politics of Empowerment (Routledge, 1990),Intersectionality as Critical Social Theory(Duke University Press,2019)など。 スルマ・ビルゲ (スルマビルゲ) (著/文) Sirma Bilge/モントリオール大学教授。専門はジェンダー、セクシュアリティ、レイシズム、ナショナリズムとエスニック関係、ポストコロニアルと脱コロニアルアプローチ、そしてインターセクショナリティなど。主な論文に”Intersectionality Undone: Saving Intersectionality from Feminist Intersectionality Studies”, Du Bois Review (10:2, pp. 405-424), Dec 2013。 小原 理乃 (オバラアヤノ) (翻訳) 1997年生まれ。成城大学文芸学部卒業。翻訳者。TED×Tokyoや国際会議で通訳・翻訳業務にあたりながら、写真展「となりの宋さん」などの企画運営に携わる。ルーヴェン大学へ留学時、メディア・スタディーズや、国際法、社会学について学びながら、ブリュッセルを拠点に難民や生活困窮者の支援ボランティア活動に携わった。 下地 ローレンス 吉孝 (シモジ ローレンス ヨシタカ) (監修 | 翻訳) 1987年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。港区男女平等参画センター職員を経て、現在、立命館大学衣笠総合研究機構研究員、ハワイ大学マノア校客員研究員。著書『「混血」と「日本人」――ハーフ・ダブル・ミックスの社会史』(青土社、2018年)、『「ハーフ」ってなんだろう?――あなたと考えたいイメージと現実』(平凡社、2021年)。「ハーフ」や海外ルーツの人々の情報共有サイト「HAFU TALK」を共同運営。he/they。
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99%のためのフェミニズム宣言|シンジア・アルッザ, ティティ・バタチャーリャ, ナンシー・フレイザー, 惠 愛由(翻訳), 菊地 夏野(解説)
¥2,640
人文書院 2020年 ハードカバー 160ページ 四六判 縦188mm 横132mm 厚さ18mm - 内容紹介 - 私たちはまだ連帯できる――ほんとうの敵は資本主義だ 1%の富裕層ではなく、「99%の私たち」のために、性差別・人種主義・環境破壊のない社会を。いまや世界中に拡がる女性たちの運動とも共鳴しながら、研究の第一線でも活躍するジェンダー学者たちが、性の抑圧をもたらす現代資本主義の終焉を呼びかける。分断を正確に認識することで、私たちはまだ連帯できる。 「99%のためのフェミニズムは反資本主義をうたう不断のフェミニズムである――平等を勝ち取らないかぎり同等では満足せず、公正を勝ち取らないかぎり空虚な法的権利には満足せず、個人の自由がすべての人々の自由と共にあることが確証されないかぎり、私たちは決して既存の民主主義には満足しない」(本文より)。 ◎目次 1 新たなフェミニズムの波がストライキを再構成する 2 リベラル・フェミニズムは崩壊した──私たちは前に進まなければならない 3 私たちには反資本主義のフェミニズムが必要だ──99%のためのフェミニズム 4 私たちは社会全体の危機のさなかを生きている──そしてその根源は資本主義にある 5 資本主義社会におけるジェンダー的抑圧は、社会的再生産が利益目的の生産に従属していることに根ざしている──私たちはその順番を正しくひっくり返したい 6 ジェンダーに基づく暴力には多くの形があり、そのすべては資本主義と複雑に絡みあっている──私たちはそれらすべてと闘うことを誓う 7 資本主義はセクシュアリティを規制しようとする──私たちはそれを解放したい 8 資本主義は人種主義的・植民地主義的暴力から生まれた──99%のためのフェミニズムは、反人種主義かつ反帝国主義である 9 資本による地球の破壊から脱するために闘う──99%のためのフェミニズムはエコ社会主義である 10 資本主義は本物の民主主義や平和と両立しない──私たちの答えはフェミニスト的な国際主義である 11 99%のためのフェミニズムはすべてのラディカルな運動に反資本主義の反乱を呼びかける - 著者プロフィール - シンジア・アルッザ Cinzia Arruzza/ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチ(the New School for Social Research)哲学科准教授。著書にA Wolf in the City: Tyranny and the Tyrant in Plato's Republic (2018, Oxford University Press)など。 ティティ・バタチャーリャ Tithi Bhattacharya/パデュー大学歴史学准教授。専攻は南アジア史。著書にThe Sentinels Of Culture: Class, Education, And The Colonial Intellectual In Bengal (2005, Oxford University Press)など。 ナンシー・フレイザー Nancy Fraser/ニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチ(the New School for Social Research)政治・社会科学科教授。翻訳書は向山恭一訳『正義の秤――グローバル化する世界で政治空間を再想像すること』(2012年、法政大学出版局)、共著に『再配分か承認か?――政治・哲学論争』(2012年、加藤泰史監訳、法政大学出版局)など。 惠 愛由(めぐみ・あゆ) 1996年生まれ。同志社大学文学研究科英文学専攻博士課程。専門は現代アメリカ文学、ジェンダー表象研究。BROTHER SUN SISTER MOONでベースとボーカルを担当。 菊地 夏野(きくち・なつの) 名古屋市立大学人間文化研究科教員。専攻は社会学、ジェンダー/セクシュアリティ研究。単著に『ポストコロニアリズムとジェンダー』(青弓社)、『日本のポストフェミニズム』(大月書店)、共著に『戦争社会学――理論・大衆社会・表象文化』(明石書店)、『国境政策のパラドクス』(勁草書房)など。
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わたしたちが沈黙させられるいくつかの問い|レベッカ・ソルニット, ハーン 小路恭子(翻訳)
¥2,420
左右社 2021年 ハードカバー 272ページ 四六判 - 内容紹介 - 「ご結婚は?」「ご主人は?」「奥さまは?」「お子さんは?」……。 わたしたちはいつも、無数の問いにさらされ、黙らされてきた。 でもいまや、何かが変わりはじめた。 近年のフェミニズムの大きな動きのなかで綴られた、 沈黙と声をあげることをめぐるエッセイ集。 #MeTooの世界的なうねりを準備した傑作『説教したがる男たち』につづく、 ソルニット節の真骨頂! ブレイディみかこさん推薦、待望の翻訳刊行 ヴァージニア・ウルフについて講演をしたあとのこと。 ある男がこう言った。「ウルフは子どもを産むべきだったと思いますか?」 女性の社会進出が進み、ライフスタイルがどんなに多様化しても、 わたしたちは何度でも何度でも脱力するような問いにさらされて生きている。 さまざまなかたちの暴力を受け、沈黙することを強いられつづけている。 SNSでは声を封じるためのあらゆる嫌がらせと脅しがぶつけられ、 レイプを始めとする性暴力やドメスティック・バイオレンスは一向に減ることがない。 人魚姫は地上で暮らすかわりに声を奪われるお話しだし、 「STAR WARS」三部作でレイア姫以外の女性が話すシーンはわずか63秒間に過ぎず、 女性たちを固定観念に閉じ込める物語は、進化をめぐる科学にまで浸透している。 男と女をめぐるいびつな権力構造をあばき、 辛辣に、ときにユーモラスに、すべてのひとに力を与える傑作エッセイ。 目次 イントロダクション マザー・オブ・オール・クエスチョンズ 1 沈黙は破られる 沈黙に関する簡潔な記録 I 群島を囲む海 II 男はみな孤島 男性の沈黙 III 沈黙と檻 IV 洪水に飲まれた都市 反乱の年 フェミニズム 男たちの到来 七つの死の一年後 レイプ・ジョークをめぐる短くも幸福な近況 2 ブレイキング・ザ・ストーリー 五百万年来の郊外から逃れて 鳩が飛び立ったあとの巣箱 女が読むべきでない八十冊 『ロリータ』について説教したがる男たち 加害者が行方不明 女巨人 謝辞と出典 訳者あとがき - 著者プロフィール - レベッカ・ソルニット (レベッカ ソルニット) (著/文) 1961年生まれ。作家、歴史家、アクティヴィスト。カリフォルニアに育ち、環境問題・人権・反戦などの政治運動に参加。1988年より文筆活動を開始する。歩くことがいかに人間の思考と文化に深く根ざしているか広大な人類史を渉猟する『ウォークス 歩くことの精神史』(Wanderlust, 2000)、「マンスプレイ ニング」の語を広めた『説教したがる男たち』(Men Explain Things to Me, 2014)エドワード・マイブリッジ伝River of Shadows(2004、全米批評家協会賞)、旅や移動をめぐる思索A Field Guide to Getting Lost(2005)、ハリケーン・カトリーナを取材したA Paradise Built in Hell(2009、邦訳『災害ユートピア』)など、環境、土地、芸術、アメリカ史など多分野に二十を越す著作がある。美術展カタログや雑誌への寄稿も多数。 ハーン小路 恭子 (ハーンショウジキョウコ) (翻訳) 米文学者。専修大学准教授。専門分野は二十世紀以降のアメリカ文学・文化。危機意識と文学・文化ジャンルの創成の関係に関心を持つ。
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説教したがる男たち|レベッカ・ソルニット, ハーン 小路恭子(翻訳)
¥2,640
SOLD OUT
左右社 2018年 ハードカバー 208ページ 四六判 - 内容紹介 - 相手が女性と見るや、講釈を垂れたがる男たち。 そんなオヤジたちがどこにでもいること自体が、 女性たちが強いられている沈黙、世界の圧倒的な不公正そのものだ。 今や辞書にも載っている「マンスプレイニング(manとexplainの合成語)」を世に広め、 #MeTooへと続く大きなうねりを準備するきっかけのひとつとなったソルニットの傑作、待望の邦訳! 女性は日々、戦争を経験している。 どんなに頑張っても、話すこともできず、自分のいうことを聞いてもらおうとすることさえ、ままならない。 ここはお前たちの居場所ではない。 男たちは根拠のない自信過剰で、そう女性を沈黙に追い込む。 ソルニット自身がその著者とも知らず、「今年出た、とても重要な本を知っているかね」と話しかけた男。 彼にそんな態度を取らせている背景には、男女のあいだの、世界の深い裂け目がある。 性暴力やドメスティック・バイオレンスは蔓延し、それでいて、加害者の圧倒的割合が男性であることには触れられない。 女性たちの口をつぐませ、ときに死に追いやる暴力の構造をあばき出し、 想像力と言葉を武器に、立ち上がる勇気を与える希望の書。 目次 1 説教したがる男たち 2 長すぎる戦い 3 豪奢なスイートで衝突する世界 4 脅威を称えて 5 グランドマザー・スパイダー 6 ウルフの闇 7 変態に囲まれたカサンドラ 8 #女はみんなそう 9 パンドラの箱と自警団 謝辞 訳者あとがき - 著者プロフィール - レベッカ・ソルニット (レベッカ ソルニット) (著) 1961年生まれ。作家、歴史家、アクティヴィスト。カリフォルニアに育ち、環境問題・人権・反戦などの政治運動に参加。1988年より文筆活動を開始する。歩くことがいかに人間の思考と文化に深く根ざしているか広大な人類史を渉猟する『ウォークス 歩くことの精神史』(Wanderlust, 2000)、エドワード・マイブリッジ伝River of Shadows(2004、全米批評家協会賞)、旅や移動をめぐる思索A Field Guide to Getting Lost(2005)、ハリケーン・カトリーナを取材したA Paradise Built in Hell(2009、邦訳『災害ユートピア』)など、環境、土地、芸術、アメリカ史など多分野に二十を越す著作がある。美術展カタログや雑誌への寄稿も多数。 ハーン 小路恭子 (ハーンショウジ キョウコ) (翻訳) 米文学者。金沢大学国際基幹教育院准教授。専門分野は二十世紀以降のアメリカ文学・文化で、小説やポップカルチャーにおける危機意識と情動のはたらきに関心を持つ。
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ハッピークラシー 「幸せ」願望に支配される日常|エドガー・カバナス, エヴァ・イルーズ, 高里ひろ(翻訳), 山田陽子(解説)
¥3,740
みすず書房 2022年 ハードカバー 356ページ 四六判 - 内容紹介 - 「幸せの追求はじつのところ、アメリカ文化のもっとも特徴的な輸出品かつ重要な政治的地平であり、自己啓発本の著者、コーチ、[…]心理学者をはじめとするさまざまな非政治的な関係者らの力によって広められ、推進されてきた。だが幸せの追求がアメリカの政治的地平にとどまらず、経験科学とともに(それを共犯者として)機能するグローバル産業へと成長したのは最近のことだ」(「序」より)。 ここで言及される経験科学とは、90年代末に創設されたポジティブ心理学である。「幸せの科学」を謳うこの心理学については、過去にも批判的指摘が数多くなされてきた。本書はそれらをふまえつつ、心理学者と社会学者の共著によって問題を多元的にとらえた先駆的研究である。 「ハッピークラシー」は「幸せHappy」による「支配-cracy」を意味する造語。誰もが「幸せ」をめざすべき、「幸せ」なことが大事――社会に溢れるこうしたメッセージは、人びとを際限のない自己啓発、自分らしさ探し、自己管理に向かわせ、問題の解決をつねに自己の内面に求めさせる。それは社会構造的な問題から目を逸らさせる装置としても働き、怒りなどの感情はネガティブ=悪と退けられ、ポジティブであることが善とされる。新自由主義経済と自己責任社会に好都合なこの「幸せ」の興隆は、いかにして作られてきたのか。フランス発ベストセラー待望の翻訳。 目次 序 第1章 あなたのウェルビーイングの専門家 第2章 よみがえる個人主義 第3章 仕事でポジティブであること 第4章 商品棚に並ぶ幸せなわたし 第5章 幸せはニューノーマル 結論 解説 山田陽子(大阪大学准教授) 原注 索引 - 著者プロフィール - エドガー・カバナス (エドガーカバナス) (著/文) (Edgar Cabanas) マドリード自治大学で心理学の博士号を取得後、マックスプランク人間発達研究所感情史センター研究員を経て、現在カミロ・ホセ・セラ大学(マドリード)教授。José Carlos Sánchez, Marino Pérez Álvarezとの共著にLa vida real en tiempos de la felicidad: Crítica de la psicología (y de la idología) positiva(Alianza Editorial, 2018)がある。Routledge社のTherapeutic Culturesシリーズ共同編集を務める。 エヴァ・イルーズ (エヴァイルーズ) (著/文) (Eva Illouz) ヘブライ大学社会学教授。フランス国立社会科学高等研究院教授。2022年6月にはケルン大学アルベルトゥス・マグヌス教授にも就任。著書にConsuming the Romantic Utopia: Love and the Cultural Contradictions of Capitalism (University of California Press, 1997); Cold Intimacies: The Making of Emotional Capitalism (Polity Press, 2007); Why Love Hurts: A Sociological Explanation (Polity Press, 2012); Unloving: A Sociology of Negative Relations (Oxford University Press, 2018) などがある。執筆論文多数。 高里ひろ (タカサトヒロ) (翻訳) (たかさと・ひろ) 翻訳家。上智大学卒業。訳書にトム・リース『ナポレオンに背いた「黒い将軍」』(白水社、2015年)、ロイ・バレル『絵と物語でたどる古代史』(晶文社、2008年)、『世界を変えた100人の女の子の物語』(共訳、河出書房新社、2018年)、トム・ニコルズ『専門知は、もういらないのか』(みすず書房、2019年)など。 山田陽子 (ヤマダヨウコ) (解説) 大阪大学大学院人間科学研究科准教授。神戸大学大学院総合人間科学研究科博士後期課程修了。博士(学術)。専門は社会学(感情社会学、医療社会学、社会学理論)。著書に『「心」をめぐる知のグローバル化と自律的個人像』(学文社、2007年。日本社会史学会奨励賞受賞)、『働く人のための感情資本論――パワハラ・メンタルヘルス・ライフハックの社会学』(青土社、2019年)。共著に『現代文化の社会学 入門』(ミネルヴァ書房、2007年)、『いのちとライフコースの社会学』(弘文堂、2011年)など。
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塩を食う女たち 聞書・北米の黒人女性|藤本 和子
¥1,078
岩波書店 2018年 ソフトカバー 270ページ 文庫判 - 内容紹介 - アフリカから連れてこられた黒人女性たちは、いかにして狂気に満ちたアメリカ社会を生き延びてきたのか。公民権運動が一段落した1980年代に、日本からアメリカに移り住んだ著者が、多くの普通の女性たちと語り合った中から紡ぎだした、女たちの歴史的体験、記憶、そして生きるための力。(解説=池澤夏樹) 目次 生きのびることの意味――はじめに 接続点 八百六十九のいのちのはじまり 死のかたわらに 塩食い共同体 ヴァージア 草の根から あとがき 解説……………池澤夏樹
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どうして男はそうなんだろうか会議 いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと | 澁谷知美, 清田隆之
¥1,650
筑摩書房 2022年 ソフトカバー 272ページ 四六判 - 内容紹介 - 非モテの苦しみ、マウント合戦、マチズモ、男同士のケアの不在……。どうして男はそうなんだろう? 6人のゲストと語り合って見えてきた、男の今とこれから。 - 著者プロフィール - 澁谷 知美 (シブヤ トモミ) (編集) 1972年、大阪市生まれ。東京大学大学院教育学研究科で教育社会学を専攻。現在、東京経済大学全学共通教育センター教授。博士(教育学・東京大学)。ジェンダーおよび男性のセクシュアリティの歴史を研究。共著に『性的なことば』 (講談社現代新書)など、単著に『日本の童貞』(河出文庫)、『平成オトコ塾――悩める男子のための全6章』『日本の包茎――男の体の200年史』(以上、筑摩書房)、『立身出世と下半身――男子学生の性的身体の管理の歴史』(洛北出版)がある。 清田 隆之 (キヨタ タカユキ) (編集) 1980年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。文筆業、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。恋愛とジェンダーの問題を中心に執筆活動を展開。桃山商事としての著作に『モテとか愛され以外の恋愛のすべて』(文庫ぎんが堂)、共著に『大学1年生の歩き方――先輩たちが教える転ばぬ先の12のステップ』(左右社)、単著に『よかれと思ってやったのに――男たちの「失敗学」入門』(晶文社)、『さよなら、俺たち』(スタンド・ブックス)、『自慢話でも武勇伝でもない「一般男性」の話から見えた生きづらさと男らしさのこと』(扶桑社)などがある。
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歴史を変えた50人の女性アスリートたち|レイチェル・イグノトフスキー, 野中 モモ(翻訳)
¥1,980
創元社 2019年 ハードカバー 128ページ A4変型判 縦235mm 横198mm 厚さ17mm - 内容紹介 - 「女は弱い!」としめ出されていた近代スポーツ界に飛びこみ、圧倒的な能力と粘り強さで記録と歴史をぬりかえてきた女性アスリート50人にスポットをあて、その驚くべき成績やバイタリティあふれる人生をチャーミングなイラストとともに紹介します。 女性には不可能だと言われてきたことの誤りを、鍛えぬいた身体と不屈の精神で堂々と証明したヒロインたちの姿は、若きアスリートのみならず、自分の限界をこえたいと願うすべての人を励ましてくれます。 <本書の見どころ> ●近代スポーツの歴史を切り拓いてきた、パワフルな女性アスリート50人(+α)を紹介 ●競技成績からプライベートな一面まで、エネルギーに満ちた女性アスリートたちの人生の物語を簡潔に学べます ●若手女性イラストレーターによるおしゃれなイラストが満載。ビジュアルブックとしても楽しめます ●歴史年表や筋肉解剖学、男女間の報酬とメディア格差統計など、図解コラムも充実 ●本文のおもな漢字にルビつき。未来のアスリートを応援します ●日本版だけの描きおろしイラストも多数収録! <こんな人が載っています> ガートルード・エダール(長距離水泳選手)、福田敬子 (柔道家)、トニ・ストーン(野球選手)、田部井淳子 (登山家)、ジョディ・コンラッド (バスケットボール監督)、ビリー・ジーン・キング (テニス選手)、フロー・ハイマン (バレーボール選手)、スーザン・ブッチャー (犬ぞり操縦者)、ナディア・コマネチ (体操選手)、アンジャリ・バグワット (射撃選手)、シャンタル・プチクレール (車いす陸上競技選手) 、キム・スニョン (アーチェリー選手) 、クリスティ・ヤマグチ (フィギュアスケート選手)、ミア・ハム (サッカー選手)、セリーナ・ウィリアムズ (テニス選手)、ニコラ・アダムズ (ボクサー)、マリアナ・パホン (BMX自転車選手)、シモーネ・バイルズ (体操選手)など… 目次 False - 著者プロフィール - レイチェル・イグノトフスキー(Rachel Ignotofsky) アメリカ・ニュージャージー出身、カンザス在住の若手女性イラストレーター。2011年にアート・グラフィックデザインの専門学校タイラー校を優秀な成績で卒業し、その後は特に歴史や科学、また教育、ジェンダーなどをテーマにしたイラストを多く書いている。著書に「Women in Science」「I love Science」「PLANET EARTH」(いずれも10 Speed Press)がある。 野中モモ(のなか・もも) 翻訳者・ライター。訳書にロクサーヌ・ゲイ『飢える私 ままならない心と体』(亜紀書房、2019年)、レイチェル・イグノトフスキー『世界を変えた50人の女性科学者たち』(創元社、2018年)、ダナ・ボイド『つながりっぱなしの日常を生きる ソーシャルメディアが若者にもたらしたもの』(草思社、2014年)など。著書に『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』(筑摩書房、2017年)、共編著書に『日本のZINEについて知ってることすべて 同人誌、ミニコミ、リトルプレス 自主制作出版史1960 ~ 2010年代』(誠文堂新光社、2017年)がある。
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いいから、あなたの話をしなよ 女として生きていくことの26の物語 | チョ・ナムジュほか25人
¥1,980
アジュマブックス 2022年 ソフトカバー 312ページ 四六判 縦188mm 横128mm 厚さ20mm - 内容紹介 - 20代から60代までのフェミニストによる珠玉のエッセー集!江南でのフェミサイド事件をきっかけにフェミニストたちの声が社会を大きく動かした韓国。しかし女性の日常は具体的に何がどれだけ本当に変わったのか?フェミニスト宣言をしたばかりの者たちは往年のお姉さんたちが今どうしているのか知りたいと言い、一方お姉さんたちは若い世代がどんな過程を経てそんなにも勇敢に激烈に最後までくじけずにフェミニズムを叫び続けているのかを知りたがっていた。 『ハヨンガ』著者チョン・ミギョン、『82年生まれ、キム・ジヨン』著者チョ・ナムジュなど26人が寄稿する得がたい一冊! 目次 プロローグ 大韓民国のフェミニスト、何を、なぜ告白するのか 2017年、26人のフェミニストから告白を受け取ったチョ=パク・ソニョン 第1章「知らない男に後をつけられた」 キム・ソヨン 「京郷新聞」記者。 生き残ったのではなく、生きることを望んだ女性。(潜在的)フェミニストの頼もしい友軍になりたい人。 被害意識ではない、「被害の経験」だ ようやく警察官が真面目な表情になった 被害者意識のせいでフェミニストになった? チェ・ナロ メガリアン、「雑誌サシム」エディター。 ものを書くフェミニスト。 さらに汚くなっている最中です 「メガル*雑誌」を作っている女だと、今なら言える 「メガリアン・フェミニスト」というアイデンティティ 私たち、もっと汚くなれるよ 恐れは勇気となって帰って来た アン・ヒョンジン フェミニズム・アクショングループ「江南駅10番出口」、 ゼロ-ゼロフェミニストたちのネットワーク「汎フェミネットワーク」、「女性環境連帯」活動家。 恐れは勇気となって帰って来た 江南駅殺人事件と15歳の記憶、初めてではないオーバーラップ 頭の中のフェミニズムが行動に、告白に 告白が作り出したフェミニズム・アクション イ・セア 2014年から「女性新聞」の記者として働いている。大学卒業後いくつもの仕事をし、いくつもの壁にぶつかったが、全てが「女性」というキーワードで繋がっていることに気づいてフェミニズムを勉強している。思慮深い猫・ラムと暮らしている。 隠し撮りされたのに、なぜ愛だと言ったのか 「男だもん、しかたないよ」 語れなかったことを語る力、フェミニズム ホン・スンヒ 文章を書き、絵を描くパフォーマンスをしています。主に私の体が記憶していることを記録します。「ハンギョレ」、女性主義ジャーナル「イルダ」にコラムを連載。 クリトリスの感受性 知っても分かち合えなかったオルガスムの経験 「男の子って毎日自慰してるんだってさ」 それを感じてしまった後に知ったこと 向き合い、さすり、撫で合うセックス。クリトリスの感受性 ハ・イェナ DSOチームの代表として働いている。力不足のため、お荷物にならないようあがいている。いつか誰かの力となり、助けとなれる人間になりたい。家と外を行き来して、フェミニズム運動をしている。 ソラネットをアウトさせた 2016年10月、デジタル性犯罪追放運動のため家を出た メガリアンから「デジタル性犯罪アウト」代表になるまで… 私は一体、なぜ? 例のうんざりする、「一部」という言葉 「雑巾」に始まり「レイプ」に至る女性嫌悪の温床、ソラネットをアウトさせる! 第2章「もう常識女ではいられない」 クク・チヘ フェイスブックを基盤に活動しているネットフェミ。ウォーマド系と呼ばれ急進女性主義政治学を実践している。 メガリア、ウォーマド、そしてヘルフェミ ウォーマドには男性がおらず、有名人がおらず、沈黙がない ウォーマド学習効果、態度ではなく内容が問題だ! ホン・スンウン 歌を歌い、文章を書き、絵を描く人。女性嫌悪社会で育つうちに体に深く染みついた自己否定感を克服するため、逃げ隠れせず言葉を発する練習をしているところ。著書に『あなたがずっと不愉快なら、結構なことです』があり、女性主義ジャーナル「イルダ」、「女性新聞」に記事を連載中。 ものを言い続けます もう黙ってない それぞれの監獄 個人的な言葉を政治的に連結する 騒々しい革命のために、ものを言い続けます タルリ 仕事と遊びの間をゆったり行き来しながらも智異山(チリサン)女性主義文化団体「文化企画 月」運営者(?)フェミニスト・タロット・リーダーという職業にしてアイデンティティを作った。サバイバーであることを超え、生きる喜びの舞を探し求める今の時間を楽しんでいる。 私はあなた。あなたは私たち。 大韓民国に生まれて、フェミニストにならずにいられる? 独身であれと教えた母、一人でも大丈夫 性売買の現場、「お姉さん」たち 言葉で囲いと囲いを結びつける「チグルス」の向こう側の生を、ともに想像する チョ・ナムジュ 小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者。20代でテレビ時事教養番組の台本を書き、30代で子どもを育て、40代では一生懸命小説を書きたい。 娘、母、フェミニスト そうしているうちに、全てが当たり前になった 発表できもしない小説を、こつこつと 戦わないわけにいかなくなった パラン ひょんなことからフェミニズムと出会い、ひょんなことから女性団体で活動している。フェミニズムの実践とは何か、今日も悩んでいる活動家。ひょんなことから出会ったフェミニズムだが、それが偶然なのか必然なのか知りたいフェミニスト。 いいから、あなたの話をしなよ 第3章「黙っているのはもうやめた」 チョン=パク・ミギョン 40代初めまで十二の職業を転々とした。そのうち最も輝かしい履歴はもちろん「イフ」編集長だった。人生がうっすら退屈になっていたある日、とある昔の女が私の元を訪れたことから小説『大雨』を書き、その年小説家として登壇した。 今は小説家として生きており、残りの人生もずっとそうしてゆきたい。生きるのに理由はないが、意味までないとは思わない。素朴すぎて過剰になりがちなその意味を見失わないよう努めながら、気立のよい夫と、その百倍気立のよい動物たちと家族として暮らしている。 私はフェミニスト・ヒンク族です 自然妊娠のための努力が始まった 新劇に浸らない進撃のフェミニズム ピョン・ギョンミ 自称・他称ともに「西大門の美室(ミシル)」。パチパチ弾ける好奇心いっぱいで、お節介で、時にボーイッシュでタフで、時にジャズとカクテル、ロマンチックなものを好んで、テレビを見ながらよく涙を流すロマンチックな感性の持ち主です。 一人だった私を支えてくれる人々の間で 2012年、人生のターニングポイントとなった瞬間 2012年以前 2011年「ノモソ」と出会う そして2012年がやってきた 今、ここ、2017年。 チョ=パク・ソニョン 「イフ」ポッドキャストを2年間続けており、これからも続ける予定。牡羊座、エニアグラム・タイプ2の「人を助ける人」。それゆえせっかちな助力者。せっかちでずぼらだが人を助けることは好き、心意気はよいのだが結果がときどきいまいちなのが惜しい。それでも性格は変わらず結局何でもやってしまわなければ気がすまない。それが長所にしてブラックホール。 膳をひっくり返したやつが整え直すのだ! 整えられた膳をひっくり返した瞬間 道に迷った イフという膳、私がひっくり返したとしよう。ひっくり返したやつが整え直すのだ! パク・チア ソウル女性会・性平等教育センター長。19歳で出会ったかっこいい先輩たちがいわゆる運動圏の人たちで、20歳から本格的にその道に入って行った。進歩派雑誌社記者、市民団体幹部、進歩政党職員、女性団体常勤等、さまざまな仕事をしたが結局はずっと同じ場所に立っていた。講義で生計を立て、講義以外にいくつもの仕事をする忙しい日常を楽しんでいる。これが運動圏に生きる人間の最大の喜びと言うべきか、善良な人々に囲まれて暮らしている。 運動圏フェミニストの夢、そして勝利 今のフェミニストは何が従来どおりで、何が新しいのか ところで「私たち」とは誰だろう 告白その1、私は「圏虫フェミ」である 告白その2、私は正義党で活動している 告白その3、私は女性運動の勝利を夢見ている キム・ヨンラン どんな本でも売って差し上げる伝説のブック・マーケター。1997年、24歳でイフと出会い、ユ・スギョルと出会った。その時ユ先生は私の手帳にこう書いてくださった。「イフの宝、キム・ヨンラン」That’s all! これ以上付け加える必要はない。 イフ・マーケターによる、羽毛のように軽い告白 チョン・ヒョンギョン 募金ノウハウを学んでフェミニズム運動界を潤沢に(?)してやろうと「美しい財団」に入ったが、資金調達法に精通することもできず、利他主義と市民気質を一生の業として背負いながら生きている。それでも肉体と精神がフェミニズムに準拠しているのは相変わらずだ。 毎日、フェミニズムを目撃している 14年間で女が生きる世界は変わったか? 私は? イ・ジノク 社団法人「ジェンダー政治研究所 女勢連」代表を務めており、2人の子どもと多文化家庭を持っている。揺れ動くフェミニズム、しぶといフェミニスト Oscillating feminism, Resilient feminist 26歳の羅針盤、イフ 私のフェミニズムの原型、分断体制で私を育てた女たち フェミニストと政治学者の境界で 倒れては起き上がりを繰り返す、しぶといフェミニストとして生きること 第4章「フェミニズム・コンプレックスがあった」 パク・ミラ 20年前にはフェミニスト・ジャーナル「イフ」の初代編集長。10年前からは瞑想や癒しのための作文を指導し、相談を受けて暮らしている。読者たちが気になっていると思うので付け加えると、あれほど不和になったイフの旧友たちとは、以前と同じでいて違う姿で今もともにいる。私たちの美徳は、いがみ合いながらも最後まで互いを見放さないことだ。そして苦しみながらも葛藤の本質に戻って直視したことだ。あの恐ろしいイフの女たちが今の私を作ってくれた。 私たちはどうしてこんなにケンカしたのか 怯える自分を見るのが一番怖い 私たちはしょっちゅう誤解し、すぐ攻撃的になる 嫌悪という感情の別の姿 クォン・ヒョンナン 自分も世界も人間も一番美しかった時代にフェミニスト・ジャーナル「イフ」の3代目編集長となった。以降波に乗って揺れ、浮き沈みが激しかった。 生まれつきの方向音痴だが、行くべき道を見失ったと思ってことはない。 歩いて行った道はどれもよかった。妙に悲しく愚かな旅行エッセイ『トラベルテラピー』を出してから、外国人のための韓国語教師となり、生存に必要な最低限の韓国語でも純文学が書かれうることを目撃した。「ゲーム・オブ・スローンズ」のアリアが目指すNo Oneの世界を待ちながら修行している。 女に文学を教えてくれる、ですって? 詩のいらない、美しい国で 詩人の代わりにナチュラルボーン・フェミニストになった 文壇内の男性作家たちの性暴力、その低劣な教え チェ・ミラン アート・ワークショップ・リーダー。フェミニスト・ジャーナル「イフ」創刊からアート・ディレクターとして仕事をしていたが、フランスに渡ってパリ8大学女性学科で現代女性美術を学び、博士課程を修了した。 ハサミリチュアル、私は自由を着る ハサミリチュアル 洋服だんす、欲望の年代記 empowering へその緒を切る キム・ミギョン 27年間育って学んで、27年間仕事をし、あとの27年間ほどは画家として生きようと決めた。54歳になった2014年、専業画家宣言をした。ソウル景福宮の隣、西村(ソチョン)の屋上と通りで町の風景をペンで描き、食べて暮らしている。「西村屋上画家」とも呼ばれる。『ブルックリン午後2時』(2010年)、『西村午後4時』(2015年)という本を出し、展示会「西村午後4時」(2015年)と「西村の花畑」(2015年)を開いた。自分を「生活の中でフェミニズムをそっと実践して生きる女」だと思っている。 絵でフェミニズムの自由さを表現できる日を夢見ている。 フェミニズムは、我が人生の羅針盤 フェミニストとして、フェミニストの母に聞きたいことは? お母さんはどうしてフェミニズムに関心を持ったの? 母親として自分のことを話すなら ファン=オ・グミ 25歳で「女性新聞」の記者として女性主義メディアの一員となってから、フェミニスト・ジャーナル「イフ」と「女性新聞」で編集長として働いた。以降6年以上国会で補佐官として仕事をし、国家システムを把握する貴重な経験を積んだ。 2011年9月、ストーリーテリング・コンテンツとキャラクターを開発する「マイ・ストーリー・ドール」を設立。全国自治体を顧客にストーリーテリング・プロジェクトを進行しながら、都市ブランディング、都市マーケティング、観光活性化案を開発している。 ひょんなことからフェミニスト 1990年代、地方大女子学生にとっての就職という高い壁 このお姉さんたちが私の人生に入ってきそうだという、感覚的な感覚! 骨の髄までフェミニズムを刻み込んでこそ「骨フェミ」だ 第5章「狂女とは、時間旅行をする人のことだ」 ユ・ジヒョン 詩集『月の歴史』作者、詩人 美しき女性主義者として生きるのが幸福だ! 平凡なことが自然なこととは限らない こんなにも美しく賢く優しい女性が、この世に二人といるだろうか 利己的な若いフェミニスト妻? 家父長制に告ぐ コ=ウン・グァンスン 韓方医。平和の母の会、東学実践市民行動代表。子どものころから従順だったそうで、トルリム字(一族の世代ごとに共通して名前につける字)「グァン」に「スン(順)」を付けられた。無口で静かだったため子ども時代のあだ名は「ご隠居」、しかし人一倍の正義感のため戦っては逃げられずに戦って戦ってまた戦って深みにはまり、気づけば還暦を越えていた。朝鮮半島統一をこの目で見るためには、もっと戦って深みにはまらなくちゃならないだろうか。 62歳、私の人生のフェミニズム 学生運動から女性運動へ 両親姓併記と戸主制廃止 女性東学ドキュメンタリー小説13巻と平和運動 武器のない世界、平和の母と東学 ユ・スギョル 過ぎたことだから言うのだが、7年以上闘病生活を送っていた。薬の副作用で体重が15kg増えて、久しぶりに会った人が私を見分けられないこともあった。 近頃は気持ちも安定し、健康も取り戻した。今では10余年前の今ごろ病気になってよかったとさえ思う。私はあのとき立ち止まらなくてはならなかった。振り返ってみれば、私は暴走機関車のように生きていた。病気にならず走り続けていたらどこでパンクしていたか。人生とはそういうものだ。立ち戻って鏡の前でお姉さんのように、いやおばあさんのように生きてゆきたい。 やつらが私を狂わせ、母の再婚が私をフェミニストにした 労組の太母、妖女、一介の女子社員… フェミニスト殺しの霊でも憑いてんのか? 5歳の子どもに戻る退行現象 9年間の秘密 訳者あとがき 大島史子 解説 北原みのり 年表 前書きなど 大韓民国のフェミニスト、何を、なぜ告白するのか 1997年に創刊したフェミニスト・ジャーナル「イフ」は、2006年に終刊した。もはやフェミニズムの熱は冷め、現場に残されたフェミニストたちはただ押し寄せる業務と薄給に耐えるだけの歳月を迎えた。それからさらに10年が経った。2015年MERSギャラリー掲示板の「ミラーリング」に始まるメガリアの誕生、そして2016年4月の江南駅殺人事件をきっかけに、2017年にはオンラインでも、テレビでも、広場でも、書店でも、商店でもたやすく「フェミニズム」と「フェミニスト」に出会えるようになり、フェミニズムの再燃とうごめきが全身で感じられるほどだった。しかし大韓民国女性の日常は具体的に何が、どれだけ……本当に、変わったのだろうか? ある者は20年前よりも、あるいは10年前よりも今の大韓民国のほうが女性たちに対して残酷だと言い、その一方で、女たちはあまりに多くの既得権を得ているのに、さらに多くの権利を奪い取ろうと欲を出している、と批判する者もいる。相変わらず「フェミニズム」についてとなると評価が極端に走るんだなあ……そんな共感が広がっていく中で2017年を迎えた。 2017年は、フェミニストたちにとって2015年よりもさらに複雑で、2016年よりもさらに熾烈な年になったようだ。多くのフェミニストたちが息を潜めなから展開し続けていた議論の多様性のために複雑となり、もはや後退しようのない世界の変化を目の当たりにしたために熾烈にならざるを得なかったのだ。そうだ。実のところ私たちの周辺には、思っていたより多くのフェミニストたちが生きていた。あのたくさんのフェミニストたちはみんなどこへ行ってしまったのだろうと思ったら、私たちのそばでちゃんと生きていたのだ。彼らはいったいどうやって逆境を生き抜いていったのだろう? それが知りたい。フェミニスト宣言をしたばかりの者たちは往年の「どぎつい」お姉さんたちが今どうしているのか知りたいと言い、そのお姉さんたちは若い世代がどんな過程を経てそんなにも勇敢に激烈に、最後までくじけずにフェミニズムを叫び続けているのかを知りたがっていた。 この本はそんな好奇心から作られた。心細さを吹っ飛ばすために系譜を語り、賑やかな連帯を夢見る今のフェミニストたちが各自率直に物語れるよう、聴くことができるよう願った。 大韓民国では世代別の経験がはっきりと異なる。20代から60代までのフェミニストたち全世代の経験と物語を盛り込んで、大韓民国フェミニストの地形図を描き出すために執筆者を選んでいった。フェミニストたちの告白に加わろうと積極的に意思表示をし、何度も原稿を直す手間を惜しまず、古傷をえぐることにも自ら意味を見出せる執筆者たちだった。もちろん大いに議論の余地がある告白を残した執筆者もいるだろうし、同意しがたいフェミニズムを実践している者たちもいるだろう。かれらの人生経験について共感すらできない部分もあるかもしれない。 それでも価値があるはずだ。女性とはひっくるめられた単一の主体ではないし、フェミニズムの理想郷は一つだけではない。その多様性を見てほしい。その多様性に戸惑ってほしい。何よりその多様性の共存について悩んでみてほしい。 フェミニズムは常に質問を投げかけ、答えを与えない。その開かれた答えに向かって一歩を踏み出せる勇気を持った者たちがフェミニストであり、特に大韓民国という激動の時間と空間を生きる女性たちの勇気には一層偉大な価値があるはずだ。その偉大な勇気と、わずかにして強大な価値に共感する本を作りたかった。 - 著者プロフィール - チョ・ナムジュ 조남주 小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者。20代でテレビ時事教養番組の台本を書き、30代で子どもを育て、40代では一生懸命小説を書きたい。 チェ・ナロ (チェ ナロ) (著) メガリアン、「雑誌サシム」エディター。ものを書くフェミニスト。 アン・ヒョンジュン (アン ヒョンジュン) (著) フェミニズム・アクショングループ「江南駅10番出口」、ゼロ-ゼロフェミニストたちのネットワーク「汎フェミネットワーク」、「女性環境連帯」活動家。 イ・セア (イ セア) (著) 2014年から「女性新聞」の記者として働いている。大学卒業後いくつもの仕事をし、いくつもの壁にぶつかったが、全てが「女性」というキーワードで繋がっていることに気づいてフェミニズムを勉強している。思慮深い猫・ラムと暮らしている。 ホン・スンヒ (ホン スンヒ) (著) 文章を書き、絵を描くパフォーマンスをしている。主に私の体が記憶していることを記録。「ハンギョレ」、女性主義ジャーナル「イルダ」にコラムを連載。 ハ・イェナ (ハ イェナ) (著) DSOチームの代表として働いている。力不足のため、お荷物にならないようあがいている。いつか誰かの力となり、助けとなれる人間になりたい。家と外を行き来して、フェミニズム運動をしている。 クク・チヘ (クク チヘ) (著) フェイスブックを基盤に活動しているネットフェミ。ウォーマド系と呼ばれ急進女性主義政治学を実践している。 ホン・スンウン (ホン スンウン) (著) 歌を歌い、文章を書き、絵を描く人。女性嫌悪社会で育つうちに体に深く染みついた自己否定感を克服するため、逃げ隠れせず言葉を発する練習をしているところ。著書に『あなたがずっと不愉快なら、結構なことです』があり、女性主義ジャーナル「イルダ」、「女性新聞」に記事を連載中。 タルリ (タルリ) (著) 仕事と遊びの間をゆったり行き来しながら、智異山(チリサン)女性主義文化団体「文化企画 月」運営者(?)。フェミニスト・タロット・リーダーという職業にしてアイデンティティを作った。サバイバーであることを超え、生きる喜びの舞を探し求める今の時間を楽しんでいる。 キム・ソヨン (キム ソヨン) (著) 「京郷新聞」記者。生き残ったのではなく、生きることを望んだ女性。(潜在的)フェミニストの頼もしい友軍になりたい人。 パラン (パラン) (著) ひょんなことからフェミニズムと出会い、ひょんなことから女性団体で活動している。フェミニズムの実践とは何か、今日も悩んでいる活動家。ひょんなことから出会ったフェミニズムだが、それが偶然なのか必然なのか知りたいフェミニスト。 チョ=パク・ミギョン (チョパク ミギョン) (著) 40代初めまで十二の職業を転々とした。そのうち最も輝かしい履歴はもちろん「イフ」編集長だった。人生がうっすら退屈になっていたある日、とある昔の女が私の元を訪れたことから小説『大雨』を書き、その年小説家として登壇した。今は小説家として生きており、残りの人生もずっとそうしてゆきたい。生きるのに理由はないが、意味までないとは思わない。 素朴すぎて過剰になりがちなその意味を見失わないよう努めながら、気立のよい夫と、その百倍気立のよい動物たちと家族として暮らしている。 ピョン・ギョンミ (ピョン ギョンミ) (著) 自称・他称ともに「西大門の美室(ミシル)」。パチパチ弾ける好奇心いっぱいで、お節介で、時にボーイッシュでタフで、時にジャズとカクテル、ロマンチックなものを好んで、テレビを見ながらよく涙を流すロマンチックな感性の持ち主です。 チョ=パク・ソニョン (チョパク ソニョン) (著) 「イフ」ポッドキャストを2年間続けておりこれからも続ける予定。牡羊座、エニアグラム・タイプ2の「人を助ける人」。それゆえせっかちな助力者だ。せっかちでずぼらだが人を助けることは好きなので、心意気はよいのだが結果が時々いまいちなのが惜しい。それでも性格は変わらず結局何でもやってしまわなければ気がすまない。それが長所にしてブラックホール。 パク・チア (パク チア) (著/文) ソウル女性会・性平等教育センター長。19歳で出会ったかっこいい先輩たちがいわゆる運動圏の人たちで、20歳から本格的にその道に入って行った。進歩派雑誌社記者、市民団体幹部、進歩政党職員、女性団体常勤等、さまざまな仕事をしたが結局はずっと同じ場所に立っていた。講義で生計を立て、講義以外にいくつもの仕事をする忙しい日常を楽しんでいる。 これが運動圏に生きる人間の最大の喜びと言うべきか、善良な人々に囲まれて暮らしている。 キム・ヨンラン (キム ヨンラン) (著) どんな本でも売って差し上げる伝説のブック・マーケター。1997年、24歳でイフと出合い、ユ・スギョルと出会った。その時ユ先生は私の手帳にこう書いてくださった。「イフの宝、キム・ヨンラン」That’s all! これ以上付け加える必要はない。 チョン・ヒギョン (チョン ヒギョン) (著) 募金ノウハウを学んでフェミニズム運動界を潤沢に(?)してやろうと「美しい財団」に入ったが、資金調達法に精通することもできず、利他主義と市民気質を一生の業として背負いながら生きている。それでも肉体と精神がフェミニズムに準拠しているのは相変わらずだ。 イ・ジノク (イ ジノク) (著) 社団法人「ジェンダー政治研究所 女勢連」代表を務めており、2人の子どもと多文化家庭を持っている。 パク・ミラ (パク ミラ) (著) 20年前にはフェミニスト・ジャーナル「イフ」の初代編集長。10年前からは瞑想や癒しのための作文を指導し、相談を受けて暮らしている。読者たちが気になっていると思うので付け加えると、あれほど不和になったイフの旧友たちとは、以前と同じでいて違う姿で今もともにいる。私たちの美徳は、いがみ合いながらも最後まで互いを見放さないことだ。そして苦しみながらも葛藤の本質に戻って直視したことだ。あの恐ろしいイフの女たちが今の私を作ってくれた。 クォン・ヒョンナン (クォン ヒョンナン) (著) 自分も世界も人間も一番美しかった時代にフェミニスト・ジャーナル「イフ」の3代目編集長となった。以降波に乗って揺れ、浮き沈みが激しかった。生まれつきの方向音痴だが、行くべき道を見失ったと思ってことはない。歩いて行った道はどれもよかった。妙に悲しく愚かな旅行エッセイ『トラベルテラピー』を出してから、外国人のための韓国語教師となり、生存に必要な最低限の韓国語でも純文学が書かれうることを目撃した。「ゲーム・オブ・スローンズ」のアリアが目指すNo Oneの世界を待ちながら修行している。 チェ・ミラン (チェ ミラン) (著) アート・ワークショップ・リーダー。 フェミニスト・ジャーナル「イフ」創刊からアート・ディレクターとして仕事をしていたが、フランスに渡ってパリ8大学女性学科で現代女性美術を学び、博士課程を修了した。 キム・ミギョン (キム ミギョン) (著) 27年間育って学んで、27年間仕事をし、あとの27年間ほどは画家として生きようと決めた。54歳になった2014年、専業画家宣言をした。ソウル景福宮の隣、西村(ソチョン)の屋上と通りで町の風景をペンで描き、食べて暮らしている。「西村屋上画家」とも呼ばれる。『ブルックリン午後2時』(2010年)、『西村午後4時』(2015年)という本を出し、展示会「西村午後4時」(2015年)と「西村の花畑」(2015年)を開いた。自分を「生活の中でフェミニズムをそっと実践して生きる女」だと思っている。絵でフェミニズムの自由さを表現できる日を夢見ている。 ファン=オ・グミ (ファンオ グミ) (著) 25歳で「女性新聞」の記者として女性主義メディアの一員となってから、フェミニスト・ジャーナル「イフ」と「女性新聞」で編集長として働いた。以降6年以上国会で補佐官として仕事をし、国家システムを把握する貴重な経験を積んだ。2011年9月、ストーリーテリング・コンテンツとキャラクターを開発する「マイ・ストーリー・ドール」を設立。全国自治体を顧客にストーリーテリング・プロジェクトを進行しながら、都市ブランディング、都市マーケティング、観光活性化案を開発している。 ユ・ジヒョン (ユ ジヒョン) (著) 詩集『月の歴史』作者、詩人 コ=ウン・グァンスン (コウン グァンスン) (著) 韓方医。平和の母の会、東学実践市民行動代表。子どものころから従順だったそうで、トルリム字(一族の世代ごとに共通して名前につける字)「グァン」に「スン(順)」を付けられた。無口で静かだったため子ども時代のあだ名は「ご隠居」、しかし人一倍の正義感のため戦っては逃げられずに戦って戦ってまた戦って深みにはまり、気づけば還暦を越えていた。朝鮮半島統一をこの目で見るためには、もっと戦って深みにはまらなくちゃならないだろうか。 ユ・スギョル (ユ スギョル) (著) 過ぎたことだから言うのだが、7年以上闘病生活を送っていた。薬の副作用で体重が15kg増えて、久しぶりに会った人が私を見分けられないこともあった。近頃は気持ちも安定し、健康も取り戻した。今では10余年前の今ごろ病気になってよかったとさえ思う。 私はあのとき立ち止まらなくてはならなかった。振り返ってみれば、私は暴走機関車のように生きていた。病気にならず走り続けていたらどこでパンクしていたか。 人生とはそういうものだ。立ち戻って鏡の前でお姉さんのように、いやおばあさんのように生きてゆきたい。 大島 史子 (オオシマ フミコ) (訳) 立教大学法学部卒業。イラストレーター、漫画家。ラブピースクラブコラムサイトでフェミニズムエッセイ漫画「主人なんていませんッ!」を連載。翻訳書に『ハヨンガ」『根のないフェミニズム』(アジュマブックス刊)がある。 李 美淑 (イ ミスク) (監修) 立教大学グローバル・リベラルアーツ・プログラム運営センター・助教。専門はメディア・コミュニケーション研究。国境を越える市民連帯、社会運動とメディア、ジェンダーとメディア、ジャーナリズムについて研究。 北原 みのり (キタハラ ミノリ) (解説) 作家、女性のためのプレジャーグッズショップ「ラブピースクラブ」を運営するアジュマ代表。2021年アジュマブックススタート。希望のたね基金理事。デジタル性暴力などの相談窓口NPO法人ぱっぷす副理事長。著書に『日本のフェミニズム』(河出書房新社刊)など多数。
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辺境の国アメリカを旅する 絶望と希望の大地へ | 鈴木 晶子
¥1,980
明石書店 2022年 ソフトカバー 240ページ 四六判 - 内容紹介 - 日本で貧困問題に長年取り組んできた著者がアメリカ全土48州を巡った旅の記録。人種差別、貧困、銃問題といった近年の社会情勢や歴史・文化にも言及しながら、トランプ政権下で対立と分断に揺れるアメリカの等身大の姿を描き出す。 目次 序章 美しきアメリカのカントリーサイド・ケンタッキーへ――もう一つのアメリカへようこそ 憂うつな旧炭鉱町の朝 緑萌える美しきカントリーサイド 活気ある街と郷土料理 バーボントレイルの完成度 旅には良い街、けれど 第1部 いくつかのアメリカを巡って 第1章 暮らすように旅する(1)――マンハッタンでルームシェア型民泊 ルームシェアでマンハッタンのアパート生活を体験 アメリカのオモテ玄関ニューヨーク ニューヨークのもう一つの顔 マンハッタンの週末 小さな暮らしの場を後にして アップデート 空っぽのマンハッタン コラム① ようこそアメリカ!エリス島に降り立つ 第2章 暮らすように旅する(2)――ノースカロライナのファームステイ 何もないから体験型、ファームステイを初体験 地元食材で楽しむ夕食 手作りの暮らしを知って 暮らしの違いに思いを馳せて アップデート ツリーハウスへの再訪 第3章 Make America Great Again?――錆びついたロックンロールの街クリーブランドの今を訪ねて ラストベルトへの旅がトレンド トリエンナーレのオープニングイベントへ 美しきアーケードの空虚 ロックンロールの殿堂を訪ねて アフターアワーズ コラム② 全米一寂れた街の傑作子ども博物館 第4章 アメリカ版町おこし!――グラウンドホッグデーにパンクサタウニーに行ってきた アメリカの町おこし 早朝の大混雑 “No shadow!” パンクサタウニーの町観光 That's Groundhog Day! 第5章 みたび民泊――シアトルでキャンピングカーに泊まる 注目エリアのおしゃれキャンピングカー リベラルな住宅街でホームレスのおっちゃんに出会う ハンドドリップコーヒーで始まるシアトルの1日 一つの街と道の越えがたき壁 アップデート コロナ禍のアメリカ、見えない犠牲者 第6章 欲望と絶望と――既視感と哀しみのラスベガス カジノの街ラスベガス 全てがフェイクとデジャブ 哀しみのラスベガス コラム③ 銃を持つ自由の国アメリカ 第7章 砂漠地帯と消えた町バグダッド――カリフォルニアのもう一つの顔 カリフォルニアの多様な景色 隠れた見所ゴーストタウン 消えた町バグダッド 大都市と郊外と 第8章 見果てぬキューバ――ラティーノのアメリカを巡る旅 近くて遠い国キューバ リトルハバナの昼下がり クルーズ船の旅 要塞都市サンファン上陸 護られざる城壁の向こう側 サンファンを後にして プエルトリコと沖縄と アップデート キューバにもクルーズにも行けなかった話 コラム④ アメリカのラティーノの多様性 第2部 先住民のアメリカを訪ねて 第9章 さよならコロンブス・デー――バケーションランド・メイン州が向き合う先住民の歴史 「コロンブス・デー」から「先住民の日」へ 全米最初の朝日が昇るバケーションランド 先住民のホームランド 「私たちは今もここにいる」 アップデート 倒されるコロンブス像 コラム⑤ 建国の地を歩く――東海岸三都物語 第10章 ルート66エクスカーション――プエブロ族の遺産を巡る アルバカーキの結婚式 サンタフェからチマヨ教会へ 世界遺産タオス・プエブロと先住民の青いマリア 山間のバス停を数えて 土煙を越えてチャコ・カルチャーへ 危機に瀕するチャコ・キャニオン アップデート 新たなステージへ 第11章 大草原地帯を行く――苦難のきた道をたどり希望を見つけて 大草原に音楽の架ける橋 ウィネバゴ族の涙の旅路 アメリカで一番小さな村を目指して 荒野の西部開拓 「聖地」の招かれざるものたち ウィンド・リバー先住民居留地へ 美しきグランド・ティトン バイソンの消えた丘 都市インディアンから居留地の担い手へ 他国と先住民と共に、国立公園の今 継承される文化と誇り アップデート コロナ禍で牙をむく不平等 第3部 南部を歩く 第12章 南部とはなにか?――世界遺産の街ヴァージニア州シャーロッツビルを訪ねて 初めてのアメリカ・ロード・トリップへ 2人の大統領邸と白人ばかりの田舎町 悲劇の現場シャーロッツビル 南部を巡る旅へ アップデート リー将軍像の撤去された日 コラム⑥ ワシントンD.C.の隠れた見どころ「ブラック・ブロードウェイ」 第13章 綿花畑を抜けてディープサウスへ――アフリカ系アメリカ人の歴史をたどって 美食の街チャールストンの休日 美しい街の暗黒の歴史 サヴァンナの「涙の時間」 南部のゲートウェイ・アトランタへ キング牧師歴史地区 歩き続ける非暴力運動 アップデート アトランタの新たなヒーローたち 第14章 アラバマ・フリーダム・トレイル――We shall overcome 「ボミンガム」へようこそ 迫害と抵抗の足跡 ソウル・フードの名店を訪ねて 賑わう南部料理の人気店へ 「ブラザーフットだよ」 悲劇の現場に響くゴスペル 「血の日曜日」から勝利の行進へ 幾千もの無名の犠牲者を称えて モンゴメリーが生んだ2人のヒーロー キング牧師記念日に再びアトランタ アップデート ジョン・ルイス「最後の渡橋」 コラム⑦ アフリカ系アメリカ人の歴史を知る映画三選 終章 ニューオーリンズの聖者の行進――多様性の向かう先 48州目ミシシッピのブルース街道へ 地元の寄り合い所「ジューク・ジョイント」へ ニューオーリンズの音楽葬 欧州の歴史香るジャズの故郷 多様性のガンボ 町の小さなマルディ・グラ 旅の終わりに あとがき 主要参考文献 前書きなど あとがき (…前略…) 連れ合いからアメリカに駐在となると聞いた時、正直それほど楽しみなものではなかった。「端っこ好き」の私にとっては、アメリカは世界の中心のようであり、王道の行き先だった。一度も旅をしようと考えたことがなかった。 十分な渡航準備期間をもらい移住の支度をしていた頃、アメリカでは大統領選挙が行われ、ドナルド・トランプが当選した。そして、アメリカに無事にたどり着いて程なく、シャーロッツビルであの悲劇が起こった。 この国はどんな国なのだろう? 旅をするうちに、アメリカという国そのものが、居場所を失った人々が自由を求めて世界中からやってくる、世界の辺境のように思えてきた。あまりに多様な人々が生きるこの巨大な辺境は、人の営みのあらゆるものが世界中から持ち込まれ、それゆえに必然的に生まれる人々の対立と克服は、まるで世界の縮図のようであり、壮大な社会実験のようですらある。 いかに人は共に生きることができるのか? 気づけばアメリカ中を旅していた。辺境の中のさらに辺境へ。この国の多彩な風景と、そこにある人々の暮らし、歩んできた道のりを追って走ってきた。 ひきこもりの若者と共に過ごすフリースペースから、困難を抱える子どもたちの多く通う高校内の居場所カフェから、困窮者支援の相談室から、あるいは出張相談に訪れた風俗店の待機部屋から……。私は日本で周縁から社会を見てきた。アメリカの辺境性は、私が見てきたそんな日本の風景とどこか地続きのようだった。 この本を通じて描いてきた人々やアメリカの直面している状況は、全く同じではないけれど、日本のどこにでも潜んでいる。多くの人が気にも留めずに通り過ぎていく街中のホームレスの人たち、食べるものにも困る子どもたちの貧困、衰退する地方の経済、トランプ政権顔負けの残酷な入国管理、増え続ける移民たちが抱える暮らしの苦難、外国人や先住民への差別など、日本の抱える課題の多くが、本書で出てくるアメリカの風景と重なるのではないだろうか。その規模や表出の鮮明さ、態様に違いはあれど、読者の皆さんが、苦悩するアメリカの人たちだけではなく、ここ日本で周縁に追いやられている人たちにも、本書を通じて想いを馳せていただけることを願っている。 私たちは、幸運にも2020年2月末に、最後のミシシッピ州に到達し、アメリカ本土48州の旅を終えることができた。その後、周知の通りアメリカは新型コロナウイルス感染拡大によるロックダウン、ブラック・ライブズ・マター運動、歴史に残る大統領選挙と年明けの国会議事堂侵入事件と、息つく暇もない激動であった。今もワクチン接種などをめぐる分断と再度の感染拡大を繰り返しながら国は揺れて続けている。それでも、きっとこれまで同様、アメリカは一歩ずつ、この苦難を乗り越えながら、一つの国として歩んでいくのだと信じている。 (…後略…) - 著者プロフィール - 鈴木 晶子 (スズキ アキコ) (著) NPO法人パノラマ理事、認定NPO法人フリースペースたまりば事務局次長・理事、一般社団法人生活困窮者自立支援全国ネットワーク研修委員。臨床心理士。 1977年神奈川県に生まれ、幼少期を伊豆七島神津島で過ごす。大学院在学中の2002年よりひきこもりの若者の訪問、居場所活動に関わり、若者就労支援機関の施設長などを経て2011年一般社団法人インクルージョンネットかながわの設立に参画、代表理事も務めた。その傍らNPO法人パノラマ、一社)生活困窮者自立支援全国ネットワークの設立に参画。専門職として、スクールソーシャルワーカーや、風俗店で働く女性の相談支援「風テラス」相談員なども経験。内閣府「パーソナル・サポート・サービス検討委員会」構成員、厚生労働省「新たな自殺総合対策大綱の在り方に関する検討会」構成員等を歴任。2017年に渡米。現地の日系人支援団体にて食料支援のプログラムディレクター、理事を務めた。2020年帰国。現職。著書に『シングル女性の貧困――非正規職女性の仕事・暮らしと社会的支援』(共編著、明石書店、2017年)、『子どもの貧困と地域の連携・協働――〈学校とのつながり〉から考える支援』(共編著、明石書店、2019年)他。
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学びのきほん フェミニズムがひらいた道 | 上野千鶴子
¥737
NHK出版 2022年 ソフトカバー 124ページ A5判 - 内容紹介 - その歴史と意義が2時間でわかる、著者初の総合的な入門書。 学校で習った「男女雇用機会均等法」や「男女共同参画社会基本法」。これらは、真の男女平等を実現するものではなかった? フェミニズムはなぜ生まれ、何を変え、何を変えられなかったのか。その流れを「四つの波」に分けてコンパクトに解説する。女性参政権、性別役割の解放、#MeToo……。過去を知り、自分の経験を再定義する言葉を手に入れるために。日本におけるフェミニズムを切り開き続けてきた第一人者が、多くの経験知とともにフェミニズムがたどった道のりを語る。 - 著者プロフィール - 上野 千鶴子 (ウエノ チヅコ) (著/文) 1948年、富山県生まれ。社会学者、東京大学名誉教授。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長。専門学校、短大、大学、大学院、社会人教育などの高等教育機関で、40年間教育と研究に従事。主な著書に『近代家族の成立と終焉』『家父長制と資本主義』(岩波現代文庫)、『おひとりさまの老後』(文春文庫)、『ひとりの午後に』(NHK出版/文春文庫)、『在宅ひとり死のススメ』(文春新書)、『おひとりさまの最期』『女ぎらい』(朝日文庫)、『ケアの社会学』(太田出版)など多数。
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「家庭料理」という戦場 暮らしはデザインできるか?|久保明教(著)
¥2,200
コトニ社 2020年 ソフトカバー 216ページ 四六変型判 - 内容紹介 - 作って、食べて、考える。 「私、結婚したら毎日違う料理を作るんだ!」ある先輩が発したこの言葉に誘われるように、文化人類学者は「家庭料理」というフィールドにおもむく。 数々のレシピをもとに調理と実食を繰り返し、生活と学問を往復しながら家庭料理をめぐる諸関係の変遷を追跡する。 心を込めた手作りが大事なのか、手軽なアイデア料理が素晴らしいのか、家族がそれぞれ好きに食べる個食はなぜ非難されるのか、市販の合わせ調味料は「我が家の味」を壊すのか、レシピのデータベース化は何をもたらしたのか、私たちは暮らしを自由にデザインできるのか? 家庭料理をめぐる様々な問いと倫理が浮かびあがり、それらが互いに対立しながら部分的につながっていく。 日々の料理を作り食べること、それは暮らしという足下から私たち自身を考えることにつながっている。 【目次】 はじめに――毎日違う料理を作るんだ! 第一章 わがままなワンタンとハッシュドブラウンポテト 暮らし、見えない足下/美味しい時短/消費社会下の家庭料理/ゆとりの天才/静かな戦い 実食! 小林カツ代×栗原はるみレシピ対決五番勝負(前半戦) 第1戦 昼の副菜「キューカンバーサラダ×自家製ピクルスミックス」 第2戦 昼の主菜「じゃが芋スパゲティ×スパゲッティミートソース」 第二章 カレーライスでもいい。ただしそれはインスタントではない 手作りと簡易化/村の味/毎日がごちそう/ねじれた継承/贈与の拠点 実食! 小林カツ代×栗原はるみレシピ対決五番勝負(後半戦) 第3戦 夜の副菜「大根たらこ煮×じゃがいものニョッキ、レンジトマトソース」 第4戦 夜の主菜「食べるとロールキャベツ×煮込みれんこんバーグ」 第三章 なぜガーリックはにんにくではないのか? 正しい料理/脱構築の末路/欲求を知り、満たす/にんにくではダメなんです/「我が家の味」のデータベース/動物的消費の彼方/ホワイトキューブのもそもそメシ 実食! 小林カツ代×栗原はるみレシピ対決五番勝負(最終戦) 第5戦 夜の汁物「なすとそうめんの汁×かぼちゃの冷たいスープ」 レシピ五番勝負を終えて おわりに――暮らしはデザインできるか? 目次 はじめに――毎日違う料理を作るんだ! 第一章 わがままなワンタンとハッシュドブラウンポテト 暮らし、見えない足下/美味しい時短/消費社会下の家庭料理/ゆとりの天才/静かな戦い 実食! 小林カツ代×栗原はるみレシピ対決五番勝負(前半戦) 第1戦 昼の副菜「キューカンバーサラダ×自家製ピクルスミックス」 第2戦 昼の主菜「じゃが芋スパゲティ×スパゲッティミートソース」 第二章 カレーライスでもいい。ただしそれはインスタントではない 手作りと簡易化/村の味/毎日がごちそう/ねじれた継承/贈与の拠点 実食! 小林カツ代×栗原はるみレシピ対決五番勝負(後半戦) 第3戦 夜の副菜「大根たらこ煮×じゃがいものニョッキ、レンジトマトソース」 第4戦 夜の主菜「食べるとロールキャベツ×煮込みれんこんバーグ」 第三章 なぜガーリックはにんにくではないのか? 正しい料理/脱構築の末路/欲求を知り、満たす/にんにくではダメなんです/「我が家の味」のデータベース/動物的消費の彼方/ホワイトキューブのもそもそメシ 実食! 小林カツ代×栗原はるみレシピ対決五番勝負(最終戦) 第5戦 夜の汁物「なすとそうめんの汁×かぼちゃの冷たいスープ」 レシピ五番勝負を終えて おわりに――暮らしはデザインできるか? 前書きなど ※以下は、本書「はじめに――毎日違う料理を作るんだ!」の草稿です。書籍とは細部が異なる場合があります。 一五年ほど前のある日の晩、私は大学院ゼミの飲み会に参加していた。結婚を機に大学院をやめることになった先輩の送迎会だった。「私、結婚したら毎日違う料理を作るんだ!」と彼女は嬉しそうに宣言した。好奇心旺盛で多趣味多芸な人であったから、おそらく先輩は実際に毎日違う料理を作ろうとしたのだろう。 彼女の計画はとても魅力的に思えた。だが、毎日まったく違う料理を作り、食べる暮らしとはどのようなものだろうか。美味しい料理ができたらまた作りたくならないか。昨晩のカレーを朝食に供したらダメだろうか。冷蔵庫に賞味期限まぢかの豆腐を見つけて「今日も冷奴でいいか」とはならないのか。それに、家庭料理には似たような品目が少なくない。ミートボールとハンバーグ、ビーフストロガノフとハヤシライスはまったく別の料理ではないし、細かいアレンジも可能だ。ビーフストロガノフを作ろうとして高い牛肉しか売っていなければ安い豚肉を使えばいい。生活とはそんなものではないだろうか? 先輩の宣言を私がいつまでも忘れられないのは、そこに「暮らしは自由にデザインできる」という新しい発想の輝かしさと苦しさを嗅ぎつけたからだと思う。私自身もまた、学問に携わってきたこの十数年のあいだ、週の半分以上はスーパーに通って夕食を作り、献立に悩んだり、弁当のおかずに苦慮してきた。料理研究家の本やレシピ投稿サイトを調べて目先の変わった料理を作ることは楽しいし、「美味しい」と言われれば嬉しい。だが、毎日まったく違う料理を作ることはなかった。 近所のスーパーで野菜売り場から入りつつ夕飯の献立を考えるとき、私は微かな喜びと確かな苦痛を感じる。さぁ、今日も楽しい料理の時間だ。売り場にはまだ試したことのない多様な商品が並んでいる。スマホを使えば膨大なレシピを検索できる。頑張ればなんでも作れるし、きっと新しい味と出会えるだろう。 だがそれは、限られた予算と時間と疲れた身体が許すかぎりでしかない。目先の変わったレシピは親しい人の口にあわないかもしれない。定番の一品はそろそろ飽きられるかもしれない。生ごみの日はもう過ぎたから骨が残る魚は買いにくい。レタスかキャベツが残っていた気がするが、あれはもう腐っていないか……。あぁ、もう疲れた、今夜は居酒屋にでも行こうか。だけど最近外食が続いたから家で食べたいしなぁ……。 自らの些細な選択が、暮らしに緩慢な亀裂を刻んでいく。やっぱり毎日ちがう料理を作るなんて無茶な話だ。暮らしとは同じことの繰り返しを丁寧にやりくりしていくことではないのか。だが、それもまた膨大な選択肢のなかで特定の「ルーティン」を選びとることでしかないように思える。微かな希望と絶望を伴って家庭料理が作られ、食べられる場。それは、自らの一挙一動が、極めて間接的な仕方であれ、生と死に関わる戦場である。 本書は、家庭料理をめぐる学問的な考察と日常的な経験を横断しながら綴られている。それは、一面において科学技術の人類学を専門とする筆者が身につけてきた学問的観点から一九六〇年代から二〇一〇年代に至る家庭料理の変遷を記述するものであるが、社会的・文化的背景を周到に配置することでそれを外側から客観的に分析しようとするものではない。本書における題材の選択や考察の切り口は、前述した筆者に固有の日常的経験によって規定されている。だが、それは一人の生活者としての経験に根ざした主観的な観察に研究者としての知識を添えた学術的エッセイでもない。 本書執筆に先立って、私は一九六〇~二〇一〇年代に刊行された様々なレシピ本を収集し、実際にそれらを参考にしながら多くの料理を作っている。世界各国のマイナーな料理を扱う近年のレシピ本よりも、自分が生まれる前に刊行された料理書のほうが新奇な味に出会うことが多かった。例えば、『江上トミの材料別おかずの手本』(一九七四年、世界文化社)に収められた「小あじのムニエル」は、茹でて裏ごししたジャガイモにバターで炒めた玉ねぎとパセリを混ぜ、生卵を加えて四角に成型してから、背開きにして中骨をとり小麦粉をまぶした小あじに挟んでバターで焼き、茹でたシェルマカロニと輪切りトマトをバターで焼いて添えた料理である。「小あじ、ジャガイモ、トマト」という入手しやすい食材を用いながらもバターを多用した重厚な洋風魚料理であり、焼き付けたトマトのすっぱさとシェルマカロニのもちゃもちゃした触感があわさって大変に美味しい一品となっている。 しかしながら、その「美味しさ」は二〇一〇年代末における筆者の暮らしの中では極めてすわりの悪いものでもあった。手間も時間もかかるわりに見た目は地味だし、副菜や汁物をどうあわせてよいかも分からない。「小あじのムニエル」が御馳走でありえた一九七〇年代前半の状況(高速道路やスーパーによる流通の発展、洋食への憧れ、魚屋の全国的増加など)から遠く離れた現代の食卓において、その味わいはどこか的外れに感じられてしまう。 「小あじのムニエル」を現代風にアレンジすれば、小あじを骨のないサーモンに替え、ジャガイモはレンジで加熱して裏ごしは省き、焼きトマトとシェルマカロニの代わりにミニトマトとベイビーリーフを添え、粒マスタードにマヨネーズを和えたソースをかけた「サーモンのポテトサンド焼き」になるかもしれない(一度試したが調理も簡単で美味しかった)。 だが、この料理は江上レシピのまま何度か食卓に上った。スパイスカレーのような新奇な題材を扱っていても現代に即した調整が施されたレシピと比べて、江上トミの料理には特異な味わいがあり、筆者の暮らしはその味わいを通じて慣れ親しんだものとは異なる諸要素と結びつくことになる。 暮らしも研究も、諸々の要素と多様な関係を結ぶことによって進行する。文献やレシピ本や調理を通じて、筆者は家庭料理をめぐる諸関係の網の目(ネットワーク)をたどってきた。 研究者としても生活者としても、私はそのネットワークに内在しており、外側からそれを客観的に分析することはできない。たしかに、様々な要素と新たな関係をむすぶことを通じてそれらの諸関係を外側から捉える認識は生じる。だが、それは私=観察者が内在するネットワークの運動が産出する一時的な把握に他ならない。新たな関係をたどることで競合する外在的認識が浮上し、それらの齟齬が新たな要素との関係を導く。私が親しんできた現代の家庭料理レシピは多種多様に思われたが、「小あじのムニエル」の特異な味わいに触れることでそれらの均質性が見えてくる。「サーモンのポテトサンド焼き」は簡単で美味しいが、味の広がりは限定されている。その認識は、さらに、細やかな下ごしらえ(小あじの中骨をとって背開きにし、ジャガイモを裏ごしするといった作業)が「料理を美味しくするひと手間」とはされ難くなってきた家庭料理をめぐる諸関係の歴史的変容へ観察者を誘っていく。 このように、本書の記述は、客観的観察や主観的経験に基づくものではなく、関係論的に構成されている。ネットワークに内在する観察者が様々な要素と結びつくことによって、そこで生じる外在的な認識が共立し共振しながら変容し、新たな関係性の組み替えが喚起される。学問的論述でもエッセイでもなく、絶えず両者の狭間を動き続けるような本書の記述に対して、困惑や違和感を覚える読者もいるだろう。そもそも家庭料理をめぐる経験や認識は人によって極めて多様であり、それは「これが一般的な家庭料理だ」という認識自体の差異を伴っている。筆者がたどる諸関係が、読者になじみのある諸関係と完全に一致することはないだろう。取り上げる事柄が断片的だと思われるかもしれないし、記述を通じて浮かびあがる価値判断のいくつかは受け入れがたいと思われるかもしれない。 だが、本書は家庭料理という事象をそのような異議や議論を呼ぶものとして提示するために書かれている。各章のあいだに置かれた「実食! 小林カツ代×栗原はるみレシピ対決五番勝負」もまた、具体的なレシピと筆者や友人たちのコメントを通じて――もちろん共感できる箇所も違和を感じる箇所もあるだろうが――本文の記述と読者の経験を関係づけてもらうためのものである。記述を通じて諸関係が組み替えられ、相異なる価値や倫理が浮上し共立し互いに変容していく。そうしたプロセスを通じて、料理や暮らしや学問をめぐる思考と実践を再考し、再構成していく媒介として本書は読者の前に提示されることになる(前著『ブルーノ・ラトゥールの取説』の読者には意外と思われるだろうが、本書は、同書で構想した方法論、とりわけ終盤で素描した「汎構築主義」をめぐる論点を具体的事例に即して展開したものである)。 「毎日違う料理を作るんだ!」という先輩の宣言から一五年ほど経過した現在、「暮らしは自由にデザインできる」という発想はより一般的になったように思われる。「自己分析」や「拡張現実」や「ライフハック」といった言葉の広まりは、「自己」や「現実」や「生活」が所与の条件(出身地や階級や社会構造など)によって規定されるものとはみなされなくなってきたことを示している。もちろん、そうした条件がまったく影響力を失ったわけではないが、それらを対象化して分析し拡張し改変することによって、私たちはより自由に自分らしく生きていくことができる。こうした発想が普及し称揚され規範化されるにつれて、「生活」は逃れえない必要性の源泉ではなく、自由なデザインの対象として把握されるようになる。 その結果、生活は学問的分析へと接近する。近年ではインターネットやスマートフォンを通じて専門的知識へのアクセスがより簡易化され、客観的な事実だけでなく学問的な視角自体を生活に導入することが容易になってきた。家事の見える化、鍵付きアカウントによる同調圧力への抵抗、消費社会批判としてのミニマリスト的消費。暮らしを対象化しデザインしていく実践において、生活を分析する学問的視角自体が生活の一部に組み込まれる。社会を外側から観察できるはずの社会科学的知は、それ自体が社会の内部に浸透することによってその俯瞰性を失っていく。だが、外在的な知もまた内在的な諸関係の暫定的産出物だと考えれば、知の再帰性を通じた俯瞰性の喪失は諸関係の内在的な組み替えの可能性へと変換される。家庭料理をめぐる諸関係の変遷をたどることによって異なる認識が共立し、それらの対立や摩擦を伴う相互作用が新たな諸関係の組み替えを喚起していく。その運動の只中において、自らの感覚や思考や営為を捉え直し、再構成してもらう踏み台となるために本書は書かれている。 では、記述をはじめよう。 版元から一言 前著『ブルーノ・ラトゥールの取説』(月曜者、2019)で構想した方法論を「家庭料理」という身近で具体的な事柄に即して展開しながら、「暮らしをデザインすること」について問います。 また、江上トミ、土井勝、小林カツ代、栗原はるみ、土井善晴ら著名な料理研究家の系譜も辿りながら、家庭料理60年の栄光と挫折をあぶり出します。 学術論文とエッセイのあいだのような文体と構成になっています。 - 著者プロフィール - 久保明教 (クボアキノリ) (著) 一橋大学社会学研究科准教授。1978年生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科単位取得退学。博士(人間科学)。専攻は、文化/社会人類学。主な著書に、『ブルーノ・ラトゥールの取説ーーアクターネットワーク論から存在様態探求へ』(月曜社、2019年)、『機械カニバリズムーー人類なきあとの人類学へ』(講談社、2018年)、『ロボットの人類学ーー二〇世紀日本の機械と人間』(世界思想社、2015年)など。
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私はいま自由なの? 男女平等世界一の国ノルウェーが直面した現実 | リン スタルスベルグ(著/文)枇谷 玲子(翻訳)
¥2,420
柏書房 2021年 ソフトカバー 406ページ 四六判 - 内容紹介 - ジェンダー先進国とされるノルウェー。 だが、そこに住む女性たちは幸福なのか。 労働問題を扱うジャーナリストが、 「先進国」ができるまでの過程を点検し、 仕事と家事、両方の負担に押しつぶされそうな ノルウェー女性たちの肉声を拾い集める。 「ジェンダーギャップ」を埋めただけでは解決しない、 日本もいずれ直面する本質的な課題を 浮かび上がらせる渾身のレポート。 目次 はじめに 胸騒ぎ 第一章 「仕事と家庭の両立」という難問 第二章 70年代の神話と社会変革の夢 第三章 仕事をすれば自由を得られる? 第四章 キャリア・フェミニズムと市場の力学 第五章 可能性の時代は続く 謝辞 原注 - 著者プロフィール - リン スタルスベルグ (リン スタルスベルグ) (著/文) 1971年ノルウェー生まれ。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで社会学の修士号を取得。アムネスティ・ノルウェー、ノルウェー国営放送NRK、新聞「階級闘争」などの媒体でジャーナリスト、コラムニストとして活躍。2013年に本書『私はいま自由なの?』を発表。アラビア語にも翻訳され、特にジェンダー・ギャップ指数ランキング134位のエジプトで、女性読者から大きな反響を得た。共著に、赤十字から出された『戦争のルール』(2012年、未邦訳)。単著は本作のほかに『もう飽き飽き――新自由主義がいかにして人間と自然を壊してきたか』(2019年、未邦訳)がある。
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アンチレイシスト・ベビー|イブラム・X・ケンディ, アシュリー・ルカシェフスキー(イラスト), 渡辺由佳里(翻訳)
¥1,980
合同出版 2021年 ハードカバー 32ページ 縦230mm 横230mm - 内容紹介- 全米図書賞ノンフィクション部門受賞(2016年)の気鋭の歴史家が、 反差別の時代の子どもたちにおくる、 アンチレイシスト(反差別主義者)になるための9つの方法。 年齢のうえでの子どもだけでなく、すべての年代の人が、 ともにアンチレイシスト・ベビーとなるよう、学び、育っていく必要があります。 この本の原書は、3歳から読めるボードブックとして2020年6月にアメリカで出版され、刊行前から大きな話題を呼び、教育現場にも広く普及しています。 Black Lives Matter運動の建設的な議論にも寄与し、ニューヨーク・タイムズベストセラー1位にもなったこの本が掲げるアンチレイシストになるための方法には、日本国内の差別構造を考えるためのエッセンスも凝縮されています。 日本語版となる本書には、日本のレイシズムにも見識の広い、明戸隆浩先生にご寄稿いただきました。 現代をうつすポップ&ストロングなイラストで展開され、子どもも大人も楽しめる1冊です。 - 著者プロフィール - イブラム・X・ケンディ (イブラム ケンディ) (著/文) 【作】イブラム・X・ケンディ 歴史家、ボストン大学教授、ボストン大学反人種主義研究・政策センター所長 2016年に刊行した『Stamped from Beginning: The Definitive History of Racist Ideas in America』で全米図書賞ノンフィクション部門受賞、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストで1位を獲得。その後も『The Black Campus Movement』や『How to Be an Antiracist』も大きな反響を呼んだ。 https://www.ibramxkendi.com/ Instagram @ibramxk Twitter @DrIbram 【絵】アシュリー・ルカシェフスキー イラストレーター ハワイ出身、ロサンゼルス在住。反人種差別、反性差別のメッセージを力強く表現する作品を発表し、アート・カルチャー業界で注目を集めている。 http: //www.ashleylukashevsky.com Instagram @ASHLUKADRAWS 【訳】渡辺由佳里 アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、書評家、翻訳家 兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説 『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・Vスナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)などがある。
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痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学|牧野 雅子
¥2,640
エトセトラブックス 2019年 ソフトカバー 256ページ 四六変型判 縦188mm 横131mm 厚さ17mm - 内容紹介 - なぜ日本では「痴漢」という性犯罪が、こんなにも日常化しているのか? そして、「被害」の対で語られるべき「加害」ではなく、なぜ今「冤罪」ばかりが語られるのか? 戦後から現在までの雑誌や新聞記事を分析し、これまで痴漢がどう捉えられ、社会の意識がどうつくられてきたか読み解く、これまでなかった画期的な「痴漢」研究書。前提を共有し、これから解決策を考えていくために必読の一冊。 (主なトピック) 痴漢事件はどれくらい起こっているのか/夏は痴漢が増える、という思い込み/痴漢被害者に求められる「羞恥心」とは?/「痴漢は犯罪です」――は本当か?/女性専用車両は誰のために生まれたか/痴漢が娯楽になっていく過程/痴漢ブームは終わらない/たかが痴漢、されど痴漢冤罪の矛盾/痴漢=性依存というアプローチが注目される理由…etc. 目次 第1部 事件としての痴漢 1.痴漢事件はどのくらい起こっているのか 2.痴漢事件はどう捜査される 3.痴漢を取り締まる条例 第2部 痴漢の社会史~痴漢はどう語られてきたのか 1.戦後から1960年代まで~電車内痴漢という被害 2.1970年代~悩まされる女性たち 3.1980年代~文化と娯楽としての痴漢 4.1990年代~痴漢ブームと取締り 5.2000年以降~痴漢冤罪問題と依存症 第3部 痴漢冤罪と女性専用車両 1.痴漢冤罪ばかりが語られる理由 2.女性専用車両をどう考えるか 前書きなど メディアでは、痴漢被害をいかに防ぐか、痴漢冤罪に巻き込まれないためにはどうしたらいいのか、女性専用車両は男性差別ではないのかといったことが問題にされているが、対策を講じるためには、これまでに何が起こり、何が語られてきたのかという前提を共有する必要がある。/過去を知ること、共有すること。性暴力をなくすための議論のために、本書は書かれた。(本文より) - 著者プロフィール - 牧野 雅子 (マキノ マサコ) (著) 1967年、富山県生まれ。龍谷大学犯罪学研究センター博士研究員。警察官として勤めたのち、 京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。博士(人間・環境学)。 専門は、社会学、ジェンダー研究。 著書に、『刑事司法とジェンダー』(インパクト出版会)、 『生と死のケアを考える』(共著、法蔵館)がある。
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エトセトラ VOL.5|小山内園子(責任編集), すんみ(責任編集)
¥1,430
エトセトラブックス 2021年 ソフトカバー 128ページ A5判 縦210mm 横148mm 厚さ6mm - 内容紹介 - フェミニストが韓国ドラマを語り、 フェミニズムで韓国ドラマを知る 韓国ドラマは一体なぜこんなにも私たちを熱くするのか? 数々の名ドラマが生まれてきた背景を探り、文化をアップデートしてきた女性たちのことばを聴く。進みつづける韓国ドラマに、私たちも続けるはず。 目次 特集:私たちは韓国ドラマで強くなれる はじめに 小山内園子 【韓国ドラマの今】 オ・スギョン「#MeToo運動後に韓国ドラマで描かれた女性の物語」(承賢珠訳) ファン・ギュンミン「進化するヒロインたち:韓国ドラマにおける女性像の変遷」 【読者アンケート】 あなたがフェミニズムを感じるドラマ 【韓国ドラマを知る】 韓国ドラマと韓国社会・女性史年表(作成:山下英愛) 金香清「韓国ドラマと言論弾圧の歴史ーー『砂時計』が週4放送だった理由」 成川彩「視聴者の声に敏感な韓国のドラマ作り」 木下美絵「飾らない、飾る必要もない、女性たちの結婚・出産ストーリー」 韓国の女性たちが選ぶ〈両性平等メディア賞〉とは 韓国ドラマの「企画意図」を読む 【インタビュー】 チョン・セラン「ドラマ『保健教師アン・ウニョン』について一問一答」 山下英愛「韓国フェミニズム研究者が語る、ドラマと女性たちの結びつき」 イ・ラン「固定観念をひっくり返してみたくて私はドラマをつくってきた」 【私が好きなドラマと台詞】 松田青子✕『ハイエナ』 小林エリカ✕『愛の不時着』 今井亜子✕『椿の花咲く頃』 アンティル✕『宮廷女官チャングムの誓い』 温又柔✕『愛の不時着』 金承福✕『美しき人生』 【コラム】 河野真理江「『メロ』と『悪女』――韓国宮廷時代劇についての覚書」 西森路代「韓国ドラマのビジュアルは、なぜ日本でラブコメ風になってしまうのか」 【対談】 田房永子✕柚木麻子「私たちは日本のドラマでも強くなれる?」 【編集部座談会】 変化し続ける韓国ドラマにこれからもついていきます! おわりに すんみ 【連載】 編集長フェミ日記 2020年11月~2021年4月 小山内園子・すんみ (新連載!)ふぇみで大丈夫 ナガノハル/vol.1:女は経済的自立で自由になるか? ここは女を入れない国 伊藤春奈(花束書房)/第3回:甲子園と女人禁制 Who is she? 大橋由香子/第3回:乳を売る彼女 LAST TIME WE MET彼女たちが見ていた風景 宇壽山貴久子 私のフェミアイテム 森本優芽 NOW THIS ACTIVIST 津賀めぐみ etcbookshop通信 【寄稿】 いちむらみさこ「感動ビジネスと家父長制組織のオリンピック・パラリンピック」 岩川ありさ「呼びかけと応答――フェミニズム文学批評という革命」 - 著者プロフィール - 小山内園子 (オサナイ ソノコ) (責任編集) 1969年生まれ。東北大学教育学部卒業。NHK報道局ディレクターを経て、延世大学などで韓国語を学ぶ。訳書に、姜仁淑『韓国の自然主義文学』(クオン)、キム・シンフェ『ぼのぼのみたいに生きられたらいいのに』(竹書房)、チョン・ソンテ『遠足』(クオン)、ク・ビョンモ『四隣人の食卓』(書肆侃侃房)、キム・ホンビ『女の答えはピッチにある 女子サッカーが私に教えてくれたこと』(白水社)、イ・ミンギョン『私たちにはことばが必要だ』『失われた賃金を求めて』(すんみとの共訳・タバブックス)、チョ・ナムジュ『彼女の名前は』(すんみとの共訳・筑摩書房)、カン・ファギル『別の人』(エトセトラブックス)がある。 すんみ (スンミ) (責任編集) 翻訳家・ライター。早稲田大学大学院文学研究科修了。訳書にキム・グミ『あまりにも真昼の恋愛』(晶文社)、チョン・セラン『屋上で会いましょ う』(亜紀書房)、共訳書にリュ・ジョンフン他『北朝鮮 おどろきの大転換』(河出書房新社)、イ・ミンギョン『私たちにはことばが必要だ フェ ミニストは黙らない』『失われた賃金を求めて』(タバブックス)、チョ・ナムジュ『彼女の名前は』(筑摩書房)などがある。
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エトセトラ VOL.4|石川優実(責任編集)
¥1,430
エトセトラブックス 2020年 ソフトカバー 128ページ A5判 縦210mm 横148mm 厚さ6mm - 内容紹介 - フェミマガジン4号目のテーマは「女性運動とバックラッシュ」! #KuToo運動の石川優実とともに、女性の運動を知る特集号。 70年代ウーマンリブ以降日本で運動してきた女性たちの話に耳を傾け、エッセイや漫画で女性運動史を学び、そして女性が声をあげる度に毎度起きてきた「バックラッシュ」とは一体何か考える論考も充実。600人の読者が参加した「あなたの#MeTooと怒りをきかせてください」アンケートをはじめ、ハイヒール着用について大手企業25社へのアンケート、漫画表現について出版各社へも質問しています。 声をあげ立ち上がってきた女性たちと連帯し、運動を実践する一冊です! 目次 特集:女性運動とバックラッシュ 声をあげ立ち上がった女たちの年表(作成:大橋由香子) 【インタビュー:運動の女性たちにきく】 米津知子 山田満枝 高木澄子 福島みずほ 正井禮子 【写真・エッセイ】 松本路子 【コラム:女たちの運動史】 佐藤繭香/サフラジェット 大島史子/女性参政権運動 柚木麻子/青鞜 伊藤春奈(花束書房)/炭鉱女社会 大橋由香子/中ピ連 斉藤正美/メディアの中の差別を考える会 小川たまか/性暴力を許さない女の会 【論考:運動とバックラッシュ】 斉藤正美・山口智美 三浦まり 飯野由里子 北原みのり 【#MeTooアンケート】 600人が答えた「あなたの#MeTooと『怒り』についてのアンケート」 【#KuTooアンケート】 職場でのヒール着用について企業25社にアンケート 【対談】 伊藤詩織✕石川優実 【鼎談】 飯田光穂✕遠藤まめた✕石川優実 【表現とジェンダーバイアスを考える】 論考:楠本まき「言葉/思考/記録/行動」 出版社アンケート 【アンケート】 疲れないで運動をつづけていく方法 【連載】 編集長フェミ日記 石川優実 ここは女を入れない国 伊藤春奈(花束書房)/第2回:歌舞伎と女人禁制 Who is she? 大橋由香子/第2回:捕まってしまった彼女 LAST TIME WE MET彼女たちが見ていた風景 宇壽山貴久子 私のフェミアイテム nichinichi NOW THIS ACTIVIST 女たちの戦争と平和資料館(wam) etcbookshop通信 Feminist Report 塚原久美「アフターコロナの世界の中絶」 【詩】 モジャ・カーフ/相川千尋訳 「ヒジャブ・シーン#7」「食器を洗ってくれる男が好きだ」 前書きなど はじめに 石川優実 「バックラッシュ」という言葉を私が知ったのは、#KuTooという運動を始めた頃だろうか。 「フェミニズムが盛り上がった後には必ずと言っていいほど揺り戻しがある、それが私は怖い」 そう言っている女性がいて、私はその日初めてバックラッシュというものの存在を認識した。2019年6月、まさに私はそのバックラッシュ真っ最中だったように思う。 「#KuTooは女性差別に対する運動です」そう明言して以降、私や#KuTooにはずっとバックラッシュが起こっている。デマをばらまく、孤立させようとする、嫌がらせリプライを毎日送る、運動が失敗したということにする(厚労省のパンフに掲載され、企業も運動の影響を受けフラットシューズもありにした、という報道があったにもかかわらず……!)、私の性格が悪いから賛同者が増えないということにする(署名は3万集まったにもかかわらず……!)、「死ね」という言葉を投げつける……。 でも、なんだろう。これってあんまり、「初めての経験」という感じがしない。これまでにもこんなようなことは薄っすらと、しかしずっと経験してきたような気がする。 女だという理由で嫌がらせをされたり、セクハラを受けたり、噓をついていると決めつけられたり、男に性的に見られたいに決まっていると思われたり、仕事の能力がないということにされたり。思い返せば、生きてきた33年間ずっとバックラッシュ的なものに苦しめられていたような気がしてならない。 さて、ではそのバックラッシュにはどんな効果(?)があるのだろうか? 私がフェミニズムに出会い、性差別への反対活動を始めた頃、応援してくれる知人にこう言われたことがある。 「これからは自分自身との戦いになると思う。いつでも自分自身を信じて頑張って」と。 今になってとてもその言葉の意味を痛感する。バックラッシュには、自分を信じさせなくなる効果があると思う。自分は間違っているんじゃないかと思わせる効果があると思う。自分のことを大嫌いにさせる効果があると思う。そして、もしその効果通りに私自身がなったとしたならば、私は女性運動の全てをやめるだろう。私自身をもやめてしまうかもしれない。 でも、もう一度よくよく考えてみよう。フェミニズムに出会うまでの約30年間、私はずっと自分を信じられなかったし、自分は間違っているんじゃないかと思ってきたし、自分のことが大嫌いだった。ずっとずっと、女性差別というバックラッシュを受け、まんまとその効果通りの自分で生きてきたのだった。 でも、フェミニズムと出会った今はもう違う。 #KuTooで受けたバックラッシュとずっと受けてきた性差別がほぼ重なるように、これらは奴らの「いつものやり口」なのだ。 女性を自分たちの都合の良い存在でいさせるため、自信を無くさせ、主体性を無くさせるためのいつものやり口。 ウーマンリブの田中美津さんは著書の中で、「リブは『男は敵だ』と煽っているとよく報じられました。そんなこと一度だって言ったことないのに」と書いていた。ほら、ここでもおんなじ、「いつものやり口」が使われている。#KuTooだって、一度も男が悪いと言ったことはないのに石川優実は男性差別主義者だ、とか言われている。 「なんだよ、こいつら誰が何やっても女性運動にはおんなじこと言ってんじゃん」と知った私は、とても心が楽になった。むしろ、これは付き物だ。私が正しいことをしている証拠のようにも思えた。 これって、#MeTooをした時の「私も同じように自分を責めていました」と同じ現象なのではないか。その事実を知ることによって、みんな同じなんだということを知ることによって、これは私側の問題じゃないんだということに気がつくことができた。 問題はいつでも、嫌がらせやハラスメント、性暴力や性差別をする側にある。 私のせいでバックラッシュや性差別は行われているのではない。それに気がついた時の安心感、心強さ。それをもうすでに#MeTooをはじめとする様々な連帯で体験していたではないか。 ということで、そんな例を、たくさん集めてみようと思う。これまでの女性運動にはどんなことがあって、どんなバックラッシュがあったのか。知識は勇気になる。知識は優しさになる。知識は自分を助けてくれる。知識は他の誰かのことを助けることができる。 フェミニストは過激だから賛同が得られない? 日本のフェミニズムは本質からずれている? そんな攻撃的な言葉遣いじゃ誰も聞いてくれない? 認めてもらうには配慮を? これまで言われてきたことは、本当にそうなのだろうか。 歴史と事実をぜひ、知りたい。それを知ることによって、私は、私たちは自分自身を信じることをやめずに、時に楽しく、時に激しく、女性運動をし続けていくことができるのではないかと思う。 - 著者プロフィール - 石川優実 (イシカワ ユミ) (責任編集) 1987年生まれ、愛知県出身。俳優、アクティビスト。18歳から芸能活動を開始。2017年、グラビアアイドル時代に受けた性被害を告発し、#MeTooムーブメントの中で話題となる。2019年、職場で女性のみにヒールやパンプスを義務付けることは性差別であるとして#KuToo運動を展開、厚生労働省へ署名を提出した。この運動は世界中のニュースで取り上げられ、同年10月英BBCにより世界の人々に影響を与えた「100 Women」に選出された。著書に『#KuToo : 靴から考える本気のフェミニズム』(現代書館)。
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エトセトラ VOL.2|山内 マリコ(責任編集), 柚木 麻子(責任編集)
¥1,320
エトセトラブックス 2019年 ソフトカバー 112ページ A5判 縦210mm 横148mm 厚さ6mm - 内容紹介 - “日本でいちばん有名なフェミニスト”田嶋陽子を大特集! 世代を超えて集結した執筆陣によるエッセイ・書評や、一般投稿「田嶋陽子さんへの手紙」、そして、田嶋陽子本人へのロングインタビューなどで構成。現代のフェミ作家たち=山内マリコ&柚木麻子責任編集による、最強のフェミ・アイコン田嶋陽子へのリスペクトに満ちた一冊。あの頃、テレビで田嶋先生を観ていた、すべての少女たちへ捧げます! 目次 特集/We Love 田嶋陽子! 【寄稿】 津村記久子/扉の存在を知らせる人 石川優実/田嶋さんの「自分の足を取り戻す」と#KuTooのこと 荒木美也子/前略、田嶋陽子さま 【書評】書く女~田嶋陽子を読む 王谷晶/ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ジャパニーズ・カルチャー 斎藤美奈子/空気を読まない彼女の直球ド真ん中な「愛情」論 北村紗衣/田嶋陽子を取り戻す カナイフユキ/恋愛は親離れの始まり?家族という足枷をはずして…… 若竹千佐子/ 女の人生はいつだって面白い 北原みのり/田嶋陽子が教えてくれた優しいフェミニズム 伊藤春奈(花束書房)/どん詰まりの国に突き刺さる女たちの言葉 堀越英美/やんちゃでかわいい「僕」たちの世界で 田嶋陽子出演映像全レビュー(柚木麻子) 田嶋陽子ロングインタビュー〈私〉が生きるためのフェミニズム 【マンガ】 松崎りえこ 知りたい!田嶋陽子さんの“Her"ストーリー 【座談会】 斉藤正美✕山口智美✕山内マリコ✕柚木麻子「私たちが田嶋陽子を好き」な理由 【インタビュー】 板本洋子「花婿学校」とはなんだったのか 【TVと田嶋陽子】 武田砂鉄/キレさせていたのは誰で、何を言っていたのか 柚木麻子 /12歳が出合ったフェミニズム 山内マリコ/ 『そこまで言って委員会NP』観覧記 投稿コーナー「田嶋陽子さんへの手紙」 連載 編集長フェミ日記 2019年7~8月 LAST TIME WE MET 彼女たちが見ていた風景/宇壽山貴久子 私のフェミアイテム/河村敏栄 etc.bookshop通信 エッセイ ユン・イヒョン「女性について書くこと――多すぎる質問と少しの答え」(すんみ 訳) - 著者プロフィール - 山内 マリコ (ヤマウチ マリコ) (責任編集) 1980年富山県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。2008年「16歳はセックスの齢」で「女による女のためのR‐18文学賞読者賞」を受賞。2012年、同作を含む初の単行本『ここは退屈迎えに来て』を刊行、地方に生きる若い女性のリアルを描いた。小説『アズミ・ハルコは行方不明』『かわいい結婚』『あのこは貴族』『選んだ孤独はよい孤独』、エッセイ『皿洗いするの、どっち? 目指せ、家庭内男女平等』、短篇&エッセイ『あたしたちよくやってる』など著書多数。 柚木 麻子 (ユズキ アサコ) (責任編集) 1981年東京都生まれ。立教大学文学部フランス文学科卒業。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞、同作を含む連作短篇集『終点のあの子』でデビュー。以後、女性同士の友情や関係性をテーマにした作品を数多く発表。2015年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞受賞。同作は、高校生直木賞も受賞した。他の著書に「ランチのアッコちゃん」シリーズ、『本屋さんのダイアナ』『BUTTER』『デートクレンジング』『マジカルグランマ』など多数。
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完全版 韓国・フェミニズム・日本|斎藤 真理子(編集)
¥1,760
河出書房新社 2019年 ソフトカバー 198ページ A5判 - 内容紹介 - 創刊以来86年ぶりの3刷となった「文藝」2019年秋季号の特集「韓国・フェミニズム・日本」、内容を新たにした完全版! ベストセラー小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者チョ・ナムジュによる傑作短編「家出」、シンガー・ソングライターのイ・ランによる初邦訳作「手違いゾンビ」、新世代のフェミニスト作家ユン・イヒョンの代表作「クンの旅」、性暴力をめぐり社会の現実を克明に暴くパク・ミンジョン「モルグ・ジオラマ」など、韓国文学の最前線をいち早く紹介! さらに、いま韓国で最も注目を集め、文学の未来を担う作家ファン・ジョンウンとチェ・ウニョンのふたりによる、本書のための書き下ろしエッセイを収録。 他にも大注目の書き手たちによる書き下ろしと特別企画を加え、「文藝」の特集からさらにパワーアップし、『完全版 韓国・フェミニズム・日本』としてここに誕生! 目次 【巻頭言】 斎藤真理子「未来から見られている」 【小説】 チョ・ナムジュ「家出」すんみ/小山内園子訳 イ・ラン「手違いゾンビ」斎藤真理子訳 ユン・イヒョン「クンの旅」斎藤真理子訳 パク・ミンジョン「モルグ・ジオラマ」斎藤真理子訳 【緊急寄稿】 ファン・ジョンウン「大人の因果」斎藤真理子訳 チェ・ウニョン「フェミニズムは想像力だ」古川綾子訳「フェミニズムは想像力だ」 【対談】 斎藤真理子×鴻巣友季子「世界文学のなかの隣人 祈りを共にするための「私たち文学」」 【エッセイ】 小川たまか「痛みを手がかりに 日本と韓国のフェミニズム」 倉本さおり「のっからないし、ふみつけない」 豊崎由美「斎藤真理子についていきます」 ハン・トンヒョン「違うということ、同じということ」 ひらりさ「街なかですれ違った(かもしれない)あなたへ」 渡辺ペコ「推しとフェミニズムと私」 MOMENT JOON「僕の小説は韓国文学ですか」 【論考】 江南亜美子「小説家が語りだす歴史」 姜信子「極私的在日文学論 針、あるいは、たどたどしさをめぐって」 【ブックガイド】 斎藤真理子・選 韓国文学極私的ブックリスト15 もっと読みたい、もっと知りたい! 厳選ブックガイド36冊 【特別企画】 現代K文学マップ 『82年生まれ、キム・ジヨン』からBTSまで [完全版]わかる!極める! 韓国文学一夜漬けキーワード集 著者プロフィール 斎藤 真理子 (サイトウ マリコ) (編集) 1960年生まれ。訳書にパク・ミンギュ『カステラ』(第1回日本翻訳大賞)、ファン・ジョンウン『誰でもない』、チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』、ハン・ガン『すべての、白いものたちの』他多数。