-
災間に生かされて|赤坂 憲雄
¥2,090
亜紀書房 2022年 ソフトカバー 240ページ 四六判 - 内容紹介 - 〈陸と海、定住と遊動、生と死、虚構と現実、セクシュアリティ…〉 ──境界線が溶け合うとき硬直した世界に未来の風景が立ち上がる。 ---------------------- 人は避けがたく、ほんの気まぐれな偶然から、ある者は生き残り、ある者は死んでゆくのです。巨大な災害のあとに、たまたま生き残った人々はどんな思いを抱えて、どのように生きてゆくのか。思えば、それこそが人間たちの歴史を、もっとも深いところから突き動かしてきたものかもしれません。(本文より) ---------------------- いくつもの不条理なできごとの底知れぬさみしさを抱えて、それでもなお生きるための思考。 目次 第一章……しなやかにして、したたかに。汝の名は 第二章……東北から、大きなさみしさを抱いて 第三章……渚にて。潟化する世界のほとりで 第四章……民話という、語りと想像力のために 第五章……遊動と定住のはざまに、生きよ - 著者プロフィール - 赤坂 憲雄 (アカサカ ノリオ) (著/文) 1953年、東京生まれ。学習院大学教授。専攻は民俗学・日本文化論。 『岡本太郎の見た日本』でドゥマゴ文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞(評論等部門)受賞。 『異人論序説』『排除の現象学』(ちくま学芸文庫)、『境界の発生』『東北学/忘れられた東北』(講談社学術文庫)、『岡本太郎の見た日本』『象徴天皇という物語』(岩波現代文庫)、『武蔵野をよむ』(岩波新書)、『性食考』『ナウシカ考』(岩波書店)、『民俗知は可能か』(春秋社)など著書多数。
-
はたらかないで、たらふく食べたい 増補版 「生の負債」からの解放宣言|栗原 康
¥902
筑摩書房 2021年 ちくま文庫 ソフトカバー 288ページ 文庫判 - 内容紹介 - カネ、カネ、カネの世の中で、ムダで結構。無用で上等。爆笑しながら解放される痛快社会エッセイ。文庫化にあたり50頁分増補。解説 早助よう子
-
哲学の先生と人生の話をしよう|國分功一郎
¥748
朝日新聞出版 2020年 朝日文庫 ソフトカバー 272ページ 文庫判 - 内容紹介 - ささやかな悩みから、深刻で重大な問題まで、 「哲学は人生論である」が持論の気鋭の哲学者・國分功一郎氏(東京大学教養学部准教授)が34の相談に全身全霊で答えます。 質問のいくつかは、たとえばこのようなものです。 ・自分に嘘をつくってどういうことなの ・母と母の夫になじめない ・先が見えず不安。自信を持つにはどうしたらいいの ・哲学の勉強をするにはどうしたらいいの ・抑え難い復讐心があるのだが…… 「書かれていることだけを読んでいてはダメである。人生相談においてはとりわけ、言われていないことこそが重要である。人は本当に大切なことを言わないのであり、それを探り当てなければならない」(本書あとがきより) 國分先生の本気度200%の回答をぜひご堪能ください! 【第一部】 愛、欲望、そして心の穴 ――失業の救済は知らないが個人の救済は勉強だ! 1. バブル世代の父親がドバイから仕送りを送ってこなくて困窮しています 2. 子持ちの彼女への愛は本物でしょうか 3. 勉強より、リア充のようなコミュ力を磨いた方がいいのでしょうか 4. 女性との接し方が分からず、ホモソーシャル的な空気に逃げてしまいます 5. 29歳ですが、まともに長続きした恋愛をしたことがありません 6. 婚外セックスに虚しさを感じ始めました 7. マスターベーションばかりしてしまうのですが、どうすれば良いですか 8. 義両親の態度が「ゴネ得」に感じられてしまいます 9. 断っても断っても誘ってくる相手に諦めてもらいたいです(手を汚さずに) 10. 仲良くしようとしてくる親が気持ち悪くて耐えられません 11. どうすれば前向きに語学を学ぶことができるようになるでしょうか 【第二部】 プライドと蔑みと結婚と ――ダダダダッ、ダッダダ 12. 哲学の勉強をするには、どこの大学に行くのがいいのでしょうか 13. 付き合っていた頃から、何かと夫に主導権を握られています 14. 彼女のために、高級ソープ通いをやめるべきでしょうか 15. 「自分に噓をつく」とは、どういうことなのでしょうか 16. 年下の人と仲良くなるにはどうすれば良いでしょうか 17. 会社の先輩から、行きたくない飲みに誘われます 18. タメ口の仕事相手がどうしても許せません 19. 知人が、高校を中退して美容師になると言っているのですが…… 20. 交際相手が自分の言葉で話してくれません 21. 一対一の恋愛関係がクソゲーに思えて仕方ありませ 22. ぼくと家族が生き抜くためには何が必要でしょうか 23. 彼氏の仕事を応援することができません 【第三部】 仕事も情熱も相談も ――反革命の思想こそがやさしさを…… 24. 理想や情熱を持って働きたいというのは贅沢なのでしょうか 25. 問題のある先輩に、どのように対処すれば良いでしょうか 26. 色々な情熱が薄れ、気力が萎えて困っています 27. 母親と、母親の夫との距離感がつかめません 28. 相談というのは、どうやってすれば良いのでしょうか 29. 悲観的な夫に腹が立ってしまいます 30. 勝手に悪人のレッテルを貼られて困っています 31. 先が見えず不安です。自信を持つにはどうしたら良いでしょうか 32. 男前が好きな自分を認めても良いでしょうか 33. 抑え難い復讐心があります 34. 好きな女性が進路に悩んでいます あとがき 哲学は人生論でなければならない 《解説・千葉雅也》
-
ベルクソン思想の現在|檜垣立哉, 平井靖史, 平賀裕貴, 藤田尚志, 米田翼
¥1,980
書肆侃侃房 2022年 ソフトカバー 272ページ 四六判 - 内容紹介- 主要4著作を読み解く白熱の徹底討議! まったく新しいベルクソン入門誕生 『物質と記憶』などの著作があり、生の思考を独自のかたちでヴィヴィッドに展開した哲学者アンリ・ベルクソン。 2022年は『ベルクソンの哲学』(檜垣立哉、文庫化)、『世界は時間でできている』(平井靖史)、『アンリ・ベルクソンの神秘主義』(平賀裕貴)、『ベルクソン 反時代的哲学』(藤田尚志)、『生ける物質』(米田翼)が次々に刊行されたベルクソン研究にとって画期となる一年だった。この著者たちが集った福岡・天神の「本のあるところ ajiro」の伝説の連続トークイベントをもとに、大幅に増補されここに甦る。 『時間と自由』『物質と記憶』『創造的進化』『道徳と宗教の二源泉』、ベルクソンの主要4著作を徹底的に読み解いていく。加えて、著者全員が参加した座談会「これからのベルクソンをめぐって」も収録。ここから先の道しるべにもなるブックガイドも付した。 20世紀の生の思考が、いままさに炸裂する。前代未聞のベルクソンイヤーを締めくくる一冊。 - 著者プロフィール - 檜垣立哉 (ヒガキタツヤ) (著/文) 1964年、埼玉県生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中途退学。現在、大阪大学大学院人間科学研究科教授。博士(文学)。主な著書に『ベルクソンの哲学 生成する実在の肯定』『バロックの哲学 反- 理性の星座たち』『西田幾多郎の生命哲学』『近代日本思想論 技術・自然・生命』ほか。主な訳書に『ベルクソニズム』(共訳)ほか。 平井靖史 (ヒライヤスシ) (著/文) 武蔵野美術大学油絵科卒、東京都立大学哲学科・同大学院博士課程満期退学。福岡大学人文学部教授。専門は近現代哲学、時間と心の哲学、記憶の形而上学。PBJ(Project Bergson in Japan)代表。著書に『世界は時間でできている ベルクソン時間哲学入門』(青土社、2022年)。編著にBergson's Scientific Metaphysics(Bloomsbury, 2023)。共編著に『ベルクソン『物質と記憶』を再起動する 拡張ベルクソン 主義の諸展望』(書肆心水、2018年)ほか。 平賀裕貴 (ヒラガヒロタカ) (著/文) 1983年生まれ。専門はフランス文学・哲学。エラスムス・ムンドゥス・プログラム(ユーロフィロソフィー)によりトゥールーズ第二大学大学院に留学。同大学大学院修士課程修了。立教大学大学院博士課程修了。博士(文学)。現在、立教大学兼任講師。著書に『アンリ・ベルクソンの神秘主義』(論創社、2022年)、共訳書にアンリ・ベルクソン『笑い』(ちくま学芸文庫、2016年)がある。 藤田尚志 (フジタヒサシ) (著/文) 1973年生まれ。九州産業大学教授。Ph.D(哲学)。専門は哲学、フランス近現代思想。著書に『ベルクソン 反時代的哲学』(勁草書房、2022年)、共編著に『ベルクソン『物質と記憶』を解剖する』(2016年)、『ベルクソン『物質と記憶』を診断する』(2017年)、『ベルクソン『物質と記憶』を再起動する』(2018年)(いずれも書肆心水)、共著にMécanique et mystique(Olms, 2018)ほか。訳書にアンリ・ベルクソン『時間観念の歴史』(共訳、書肆心水、2019年)、マルセル・ゴーシェ『民主主義と宗教』(共訳、トランスビュー、2010年)ほか。 米田翼 (ヨネダツバサ) (著/文) 1988年生まれ。大阪大学大学院人間科学研究科にて博士号を取得(人間科学)。現在、大阪大学大学院人間科学研究科附属未来共創センター助教。専門はベルクソンを中心とするフランス哲学、19-20 世紀の英・独・仏の生物学の歴史・哲学。著書に『生ける物質 アンリ・ベルクソンと生命個体化の思想』(青土社、2022年)。主な論文に「個体化の哲学における生殖の問題――ヴァイスマン、ベルクソン、シモンドン」『思想』第1141 号(2019年)、「適応と再認――ベルクソンの行動の進化論」『年報人間科学』第42 号(2021年)、共訳書にジルベール・シモンドン『個体化の哲学――形相と情報の概念を手がかりに』などがある。
-
自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ|アルテイシア
¥1,430
KADOKAWA 2022年 ソフトカバー 240ページ 四六判 - 内容紹介- 第一章 「繊細すぎる」という言葉に傷つくあなたへ 1 ジェンダーを学んで生きやすくなろう 2 ジェンダー感覚をアップデートさせる秘訣 3 心と体を傷つけられないための護身術 4 好きなおでんの具はなんですか--ハラスメントをなくすために 第二章 うっかり誰かを傷つけたくないあなたに 1 「○か月だったらもうしゃべるの?」--相手のつらさに寄り添うために 2 「そんなの普通だよ、大丈夫だよ」--苦しみを無視しないために 3 「〇〇なんて関係ないよ」--自分の特権に気づくために 4 「老後は沖縄に住みたいな」--無邪気に消費しないために 第三章 パートナーのジェンダー問題に悩むあなたへ 1 アサーティブな対話で夫婦円満ライフハック 2 「拙者のトリセツ」を作って夫婦円満ライフハック 3 ジェンダーの話になるとケンカになる問題 4 夫と子育てするのが無理ゲーすぎる問題 5 夫婦の家事問題を解決するライフハック 6 男性育休取得のためのライフハック 第四章 ヘルジャパンで傷ついた女子のお悩み相談室 1 恋愛経験ゼロだけど幸せな結婚がしたい 2 喪女歴が長すぎて婚活がうまくいかない 3 痴漢されてから婚活意欲が激減してしまいました 4 ジェンダーイコール男子はどこにいる? 5 発見! ジェンダーイコール男子はここにいた 特別対談 小島慶子さん×アルテイシア 「ジェンダーを知ればやさしくなれる!」 - 著者プロフィール - アルテイシア (アルテイシア) (著/文) 作家。神戸生まれ。オタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』でデビュー。現在はウェブ媒体などを中心に、女性が心地よく生きることをテーマに執筆している。ユーモアあふれるその文章には性別を問わずファンが多い。著書に『離婚しそうな私が結婚を続けている29の理由』『40歳を過ぎたら生きるのがラクになった』『モヤる言葉、ヤバい人』など多数。
-
哲学な日々 考えさせない時代に抗して|野矢 茂樹(著/文)
¥1,485
講談社 2015年 ソフトカバー 226ページ 四六変型判 - 内容紹介- 自分のこと、社会のこと、国のこと、世界のこと……、考えなくてはいけないのに、考えようとすると、どう考えたらいいかわからなくなって、前に進めない。考えあぐねてしまう。――こんな時代だからこそ、哲学者は、しかつめらしい言葉を使わずにこの本を書きました。人生で一番大切なものは何か、どうして自殺をしてはいけないのか、など、むずかしいけど、私たちが気になって仕方ない問題からも逃げずに、向き合います。 日本を代表する哲学者であり、東京大学での講義でも高い人気を誇る著者は、若い頃から坐禅を続けてきました。坐禅には、「本来無一物」(ほんらいむいちもつ)という考え方があります。丸裸の自分に立ち返ることができれば、そこに十分な力が現われてくる。坐禅をして、着ぶくれた余計なものを脱いでいく――この本を支えているのは、そうした引き算の思想です。 前半は、著者の普段着の姿や考えが綴られた50のエッセイを収録しました。 哲学の授業で何を学べばいいのかから始まり、東大生に坐禅を教えるのはなぜか、そして哲学者の日常に起こるさまざまなことが描かれます。 読んでいて思わず口をついて出てしまうのが、「へぇ」とか「うふふ」とか「なるほど」ということば。気楽に読み進めるエッセイですが、そうやって読みすすめるうちに自然と頭のこわばりが解けていきます。 坐禅してみたいと思う人も注目! 坐り方や呼吸のレッスンもあります。 後半は、論理的な文章を書くためにはどうすればいいのか、異なる物語を生きる他者を理解するとはどういったことかなどに触れた10本の小品から構成されます。来し方をたどるとともに、言葉で考えていく実際の様子を伝える「「哲学者になりたいかも」などと考えている高校生のために」、また驚きから始まる哲学の原風景を語った「バラは暗闇でも赤いか?」は、哲学ではどのように思考が重ねられていくのかが見えてきます。 自分のこと、社会のこと、国のこと、世界のこと……、考えなくてはいけないのに、考えようとすると、どう考えたらいいかわからなくなって、前に進めなくなってしまう。考えあぐねてしまう。――こんな時代だからこそ、哲学者は、しかつめらしい言葉を使わずにこの本を書きました。人生で一番大切なものは何か、どうして自殺をしてはいけないのか、など、むずかしいけど、実は私たちが気になって仕方ない問いからも逃げずに、向かい合います。 ここに「ああすればこうなる」式のマニュアルや成功の技術はありません。でも、この本を読み終えたとき、知らぬ間に身につけてしまった鎧から解放され、本来無一物ゆえの力が宿るのです。 目次 1 哲学者のいる風景 1 哲学を教える 2 実技科目なのだ 3 哲学の手触り 4 メタ的な態度 5 立ち止まる脚力 6 バージョン・アップ 7 個別性と一般性 8 案外ダメな授業 9 理系・文系・妄想系 10 高校と大学 11 坐禅ゼミ 12 引き算の思想 13 坐禅のすすめ 14 続・坐禅のすすめ 15 がまんではない 16 すべてはおまけ 17 根拠なき自信 18 身を捨ててこそ 19 大仏の話 20 神だのみ 21 散歩の定義 22 古代のご飯 23 美食の逆説 24 ジムと温泉 25 老いる 26 聞いた話 27 よく分からない 28 大学の気風 29 速さの罪 30 ドレス・コード 31 論トレことはじめ 32 論理的ということ 33 つなぎ方しだい 34 接続詞と日本人 35 論理の必要性 36 文章修業 37 入試問題 38 語学としての国語 39 作りたい教科書 40 国語を教える 41 ほめるのではなく 42 遊び友だち 43 考えさせない時代 44 考える技術 45 掛け声化 46 哲学の言葉 47 歩みをこそ 48 脳神話への叛旗 49 もやもや→すっきり 50 つまらない人間 2 哲学も、哲学じゃないことも バラは暗闇でも赤いか? 論理的に書くために 「哲学者になりたいかも」などと考えている高校生のために 哲学の見本 無意味ではあるけれど モヤモヤを飼い、モヤモヤと遊び、モヤモヤを楽しむ ポリフォニー的な世界 ほか - 著者プロフィール - 野矢 茂樹 (ノヤ シゲキ) (著/文) 1954年東京都生まれ。 東京大学大学院博士課程単位取得退学。 現在、東京大学大学院総合文化研究科教授。 専攻は哲学。 主な著書に、『論理学』『心と他者』『新版 論理トレーニング』『ウィトゲンシュタイン「論理哲学論考」を読む』『哲学・航海日誌』『語りえぬものを語る』『子どもの難問』など。
-
地に呪われたる者 【新装版】|フランツ・ファノン, 鈴木道彦 (翻訳), 浦野衣子 (翻訳)
¥4,180
みすず書房 2015年 ハードカバー 328ページ 四六判 - 内容紹介 - 民族とは、国家とは、文化とは。ファノニズムとは何か。 植民地主義に抗し36年の生涯を闘争に捧げた著者が遺した、ポスト・コロニアル批評の原点。 「ひとつの橋の建設がもしそこに働く人びとの意識を豊かにしないものならば、 橋は建設されぬがよい、市民は従前どおり、泳ぐか渡し船に乗るかして、 川を渡っていればよい。橋は空から降って湧くものであってはならない、社会の 全景にデウス・エクス・マキーナ〔救いの神〕によって押しつけられるものであっては ならない。そうではなくて、市民の筋肉と頭脳とから生まれるべきものだ。(…) 市民は橋をわがものにせねばならない。このときはじめて、いっさいが可能となるのである。」(本書より) [初版「現代史・戦後篇」16『フランツ・ファノン集――黒い皮膚・白い仮面、地に呪われたる者』1968年刊、 『フランツ・ファノン著作集』3『地に呪われたる者』1969年刊、〈みすずライブラリー〉版1996年刊] - 著者プロフィール - フランツ・ファノン (フランツファノン) (著/文) 1925-61。フランス領マルチニック島で黒い皮膚をしたマルチニック人として生まれる。第二次大戦中、「自由フランス」に志願して参加し、各地で戦った。戦後はフランス本国に学び、リヨン大学で精神医学を専攻して学位を取得、この頃白い皮膚のフランス人と結婚した。1952年『黒い皮膚・白い仮面』を刊行。1953年11月フランス領アルジェリアにある精神病院に赴任。翌年、アルジェリア独立戦争が勃発。戦争初期は民族解放戦線(FLN)の活動を密かに助けていたが、1957年以来病院の職を辞し全面的にFLNに身を投じる。FLNの機関誌『エル・ムジャヒド』に精力的に寄稿するなど、アルジェリア革命のスポークスマン的役割を果たした。1958年には『アルジェリア革命第五年』(後に『革命の社会学』と改題)を発表、そして1961年には、白血病に冒されつつも『地に呪われたる者』をわずか10週間で執筆。闘争の総決算である同書が刊行されてからわずか数日後の1961年12月6日、ファノンは息を引き取った。36歳の若さであった。死後、『エル・ムジャヒド』その他に書かれた文章を集めた『アフリカ革命に向けて』が出版された。
-
黒い皮膚・白い仮面 【新装版】|フランツ・ファノン, 海老坂武(翻訳), 加藤晴久(翻訳)
¥4,070
みすず書房 2020年 ハードカバー 328ページ 四六判 - 内容紹介 - 「黒人の不幸は奴隷化されたということである。白人の不幸と非人間性はどこかで人間を殺してしまったということである。…黒人であるこの私の欲することはただひとつ。道具に人間を支配させてはならぬこと。人間による人間の、つまり他者による私の奴隷化が永遠に止むこと。…ニグロは存在しない。白人も同様に存在しない。」 精神科医、同時にフランス領マルチニック島に生まれたひとりの黒人として、ファノンは最初の著作である本書で、植民地出身の黒人が白人社会で出会う現実と心理を、精神分析学的なアプローチを含め、さまざまな側面からえぐり出してみせた。 他からの阻害があるとき、内面においても自己を阻害する黒人に向けて、そこからの解放を訴えたファノンの言葉は、彼自身の生を出発点として実践のただ中から発せられたものであるゆえに、読む者の心に迫る。 目次 序 (フランシス・ジャンソン) はじめに 1 黒人と言語 2 黒い皮膚の女と白人の男 3 黒い皮膚の男と白人の女 4 植民地原住民のいわゆる依存コンプレックスについて 5 黒人の生体験 6 ニグロと精神病理学 7 ニグロと認知 結論に代えて ファノンの認知 (フランシス・ジャンソン) 注 あとがきにかえて - 著者プロフィール - フランツ・ファノン (フランツファノン) (著/文) 1925-61。フランス領マルチニック島で黒い皮膚をしたマルチニック人として生まれる。第二次大戦中、「自由フランス」に志願して参加し、各地で戦った。戦後はフランス本国に学び、リヨン大学で精神医学を専攻して学位を取得、この頃白い皮膚のフランス人と結婚した。1952年『黒い皮膚・白い仮面』を刊行。1953年11月フランス領アルジェリアにある精神病院に赴任。翌年、アルジェリア独立戦争が勃発。戦争初期は民族解放戦線(FLN)の活動を密かに助けていたが、1957年以来病院の職を辞し全面的にFLNに身を投じる。FLNの機関誌『エル・ムジャヒド』に精力的に寄稿するなど、アルジェリア革命のスポークスマン的役割を果たした。1958年には『アルジェリア革命第五年』(後に『革命の社会学』と改題)を発表、そして1961年には、白血病に冒されつつも『地に呪われたる者』をわずか10週間で執筆。闘争の総決算である同書が刊行されてからわずか数日後の1961年12月6日、ファノンは息を引き取った。36歳の若さであった。死後、『エル・ムジャヒド』その他に書かれた文章を集めた『アフリカ革命に向けて』が出版された。 海老坂武 (エビサカタケシ) (翻訳) 1934年東京に生まれる。東京大学文学部仏文科卒業。同大学院(仏語・仏文学)博士課程修了。著書『フランツ・ファノン』(講談社、1981、みすず書房、2006)『パリ ボナパルト街』(ちくま文庫、1990)『記憶よ、語れ』(筑摩書房、1995)『〈戦後〉が若かった頃』(岩波書店、2002)『かくも激しき希望の歳月』(岩波書店、2004)『祖国より一人の友を』(岩波書店、2007)『サルトル』(岩波新書、2005)『戦後文学は生きている』(講談社現代新書、2012)『加藤周一 二十世紀を問う』(岩波新書、2013)『戦争文化と愛国心』(みすず書房、2018)など。訳書 ニザン『番犬たち』(晶文社、1967)ペレック『眠る男』(晶文社、1970、水声社、2016)ファノン『黒い皮膚・白い仮面』(共訳、みすず書房、1969、1998)ボーヴォワール『別れの儀式』(共訳、人文書院、1989)サルトル『植民地の問題』(共訳、人文書院、2000)『自由への道』(共訳、岩波文庫、2000)『家の馬鹿息子』1-4(共訳、人文書院、1982、1989、2006、2015)ほか多数。 加藤晴久 (カトウハルヒサ) (翻訳) 1935年東京に生まれる。仏文学専攻。東京大学・恵泉女学園大学名誉教授。著書『ブルデュー 闘う知識人』(講談社、2015)『《ル・モンド》から世界を読む』(藤原書店、2016)ほか。訳書 ファノン『黒い皮膚・白い仮面』(共訳、みすず書房、1968、1998)ほか。
-
大洪水の前に マルクスと惑星の物質代謝|斎藤 幸平
¥1,540
KADOKAWA 2022年 角川ソフィア文庫 ソフトカバー 432ページ 文庫判 - 内容紹介 - 異常気象、疫病の流行や戦争……世界が危機に瀕する今、私たちは誰も取り残すことなく、これらの問題を解決するための道筋を探さなくてはならない。資本主義の暴力性や破壊性を正確に認識し、その上で、資本主義とは異なる社会システムを構築すること。『資本論』を記したカール・マルクスの、生前未刊行のノートからエコロジーの思想を汲み取り分析する。ドイッチャー記念賞受賞作。スラヴォイ・ジジェクの解説も収録。 【目次】 第一部 経済学批判とエコロジー 第一章 労働の疎外から自然の疎外へ 第二章 物質代謝論の系譜学 第二部 『資本論』と物質代謝の亀裂 第三章 物質代謝論としての『資本論』 第四章 近代農業批判と抜粋ノート 第三部 晩期マルクスの物質代謝論へ 第五章 エコロジーノートと物質代謝論の新地平 第六章 利潤、弾力性、自然 第七章 マルクスとエンゲルスの知的関係とエコロジー - 著者プロフィール - 斎藤 幸平 (サイトウ コウヘイ) (著/文) 1987年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx‘s Ecosocialism(邦訳『大洪水の前に』)によって権威あるドイッチャー記念賞を日本人初、歴代最年少で受賞。同書は世界七カ国で翻訳刊行されている。日本国内では、晩期マルクスをめぐる先駆的な研究によって日本学術振興会賞受賞。45万部を超えるベストセラー『人新世の「資本論」』で新書大賞2021を受賞。
-
君は君の人生の主役になれ|鳥羽 和久
¥968
筑摩書房 2022年 ちくまプリマー新書 ソフトカバー 256ページ 新書判 - 内容紹介 - 先生や親、周りにいる大人たちの言葉に違和感を持ち、悩むことの多い十代。みんなとは違う自分独特の生き方を見つけて、大人たちの「普通」を打ち破ろう。 - 著者プロフィール - 鳥羽 和久 (トバ カズヒサ) (著/文) 1976年福岡生まれ。学位は文学修士(日本文学・精神分析)。大学院在学中に中学生40名を集めて学習塾を開業。現在は株式会社寺子屋ネット福岡代表取締役、唐人町寺子屋塾長、及び単位制高校「航空高校唐人町」校長として、小中高生150名余の学習指導に携わる。著書に『親子の手帖 増補版』(鳥影社)、『おやときどきこども』(ナナロク社)など。
-
人間の解剖はサルの解剖のための鍵である 増補新版|吉川 浩満
¥1,320
筑摩書房 2022年 ちくま文庫 ソフトカバー 512ページ 文庫判 - 内容紹介 - 主体性と合理性が切り崩された先の「人間の定義」とは?「当代屈指の読書家による細密で浩瀚なキーコンセプトガイド」(東浩紀)を文庫化 解説 大澤真幸 東浩紀氏、大澤真幸氏、國分功一郎氏、絶賛!! 【内容紹介】 コペルニクス、ダーウィン、フロイトによって三度自尊心を傷つけられた人類は、進化と認知にかんする諸科学によって、いま四度目の試練に直面している。主体性と合理性が切り崩された先にある「人間」はどのように定義されるのか──。文庫版では近年の諸論考を増補し、稲葉振一郎、大澤真幸、橘玲、千葉雅也、山本貴光との対談・鼎談も収録。 解説 大澤真幸 目次 0 ─ 1 まえがき 0 ─ 2 序章:人間(再)入門のために ─ 1989/2019/2049 1 認知革命 1 ─ 1 ヒトの過去・現在・未来 ─『サピエンス全史』とともに考える 1 ─ 2 合理性のマトリックスとロボットの戦い ─認知と進化の観点から 1 ─ 3 社会問題としての倫理学 ─道徳心理学、人工知能、功利主義 1 ─ 4 『ホモ・デウス』が語らなかったこと(山本貴光+吉川浩満) 1 ─ 5 人工知能と人文知を結ぶの必読書(山本貴光+吉川浩満) 1 ─ 6 人間の〈未来〉/未来の〈人間〉 ─産業社会論、SF、共和主義(稲葉振一郎+吉川浩満) 2 進化と絶滅 2 ─ 1 「生きづらいのは進化論のせいですか?」 ─進化論と現代社会 2 ─ 2 人類の起源という考えそのものについて ─起源神話のふたつのドグマ 2 ─ 3 人新世における人間 ─ヒトのつくった地質年代 2 ─ 4 人間拡張 ─進化の相の下に 2 ─ 5 〈自然な科学〉としての進化論 2 ─ 6 絶滅とともに哲学は可能か──思弁的実在論、未来の他者、女性の公式(大澤真幸+千葉雅也+吉川浩満) 3 人物 3 ─ 1 リチャード・ドーキンス ─文明史におけるドーキンス 3 ─ 2 アンリ・ファーブル ─進化論ぎらい 3 ─ 3 多田富雄 ─自然科学とリベラルアーツ 3 ─ 4 見田宗介 ─大人の青年 3 ─ 5 バーナード・ウィリアムズ ─道徳における運 4 作品 4 ─ 1 二一世紀の〈人間〉のための二一冊 ─フーコーからポストヒューマンSFまで 4 ─ 2 『利己的な遺伝子』からはじまる一〇冊 ─刊行四〇周年を機に(橘玲+吉川浩満) 4 ─ 3 人間本性から出発する ─『啓蒙思想2・0』『心は遺伝子の論理で決まるのか』(山本貴光+吉川浩満) 4 ─ 4 メタ道徳としての功利主義 グリーン『モラル・トライブズ』 4 ─ 5 リベラル派は保守派に学べ? ハイト『社会はなぜ左と右にわかれるのか』 4 ─ 6 リバタリアン・パターナリズムの可能性 サンスティーン『選択しないという選択』 4 ─ 7 チューリングの革命と変容するリアリティ フロリディ『第四の革命』 4 ─ 8 ポジティヴ・コンピューティングの挑戦 カルヴォ他『ウェルビーイングの設計論』 4 ─ 9 汎用人工知能の文明史的意義 シャナハン『シンギュラリティ』 4 ─ 10 ゲノム編集技術はなにをもたらすか ダウドナ他『CRISPR/クリスパー』 4 ─ 11 インターフェースをたどる哲学的実践 プレヒト『哲学オデュッセイ』 4 ─ 12 ビッグデータを見て我が振り直せ ダヴィドウィッツ『誰もが噓をついている』 4 ─ 13 永遠の〈危機の書〉 ウィリアム・H・マクニール『疫病と世界史』 4 ─ 14 後ろ向きの予言書 大澤真幸『〈世界史〉の哲学 近代篇』 4 ─ 15 フロム・カタストロフ・ティル・ドーン 島田雅彦『カタストロフ・マニア』 4 ─ 16 伊藤計劃のポストヒューマンSF 伊藤計劃『虐殺器官』・『ハーモニー』 4 ─ 17 犬は防衛されなければならない 映画『犬ヶ島』 4 ─ 18危険な知識をめぐる二つの問い 映画『猿の惑星』シリーズ 4 ─ 19 レプリカントに人間を学ぶ 映画『ブレードランナー』・『ブレードランナー2049』 単行本あとがき 文庫版あとがき 解説 溢れる〈喜び〉と散りばめられた〈ためらい〉 大澤真幸 - 著者プロフィール - 吉川 浩満 (ヨシカワ ヒロミツ) (著/文) 1972年鳥取県米子市生まれ。文筆家、編集者。慶應義塾大学総合政策学部卒業。書評サイトおよびYouTubeチャンネル「哲学の劇場」を山本貴光とともに共同主宰している。おもな著書に『哲学の門前』(紀伊國屋書店)、『理不尽な進化増補新版』(ちくま文庫)、山本との共著に『人文的、あまりに人文的』(本の雑誌社)、『その悩み、エピクテトスなら、こう言うね。』(筑摩書房)、『脳がわかれば心がわかるか』(太田出版)がある。
-
九鬼周造 | 田中久文
¥1,265
講談社 2022年 講談社学術文庫 ソフトカバー 304ページ 文庫判 - 内容紹介 - 「運命よ 私はお前と踊るのだ。」 理性と感情、男と女、東洋と西洋、二人の父、偶然と必然……幾多の対立に引き裂かれ、安定を許されなかった生のただなかで、日本哲学の巨星は何を探究しつづけたのか。その生い立ちから、留学、主著『「いき」の構造』『偶然性の問題』、最晩年の『文芸論』まで、その思索の全過程を、第一回中村元賞受賞の著者が明解かつ艶やかな筆致で辿る。九鬼哲学への決定版・入門書。 [目次] はじめに 第一章 出会いと別れ 第二章 「いき」の現象学 第三章 永遠を求めて 第四章 偶然性の哲学 第五章 偶然から自然へ 第六章 形而上学としての詩学 あとがき 学術文庫版へのあとがき 講談社学術文庫コウダンシャガクジュツブンコ 九鬼周造クキシュウゾウ ルビOFF 田中 久文タナカ キュウブン(著/文) 発行:講談社 文庫判 304ページ 定価 1,150円+税 ISBN978-4-06-529603-5 COPY ISBN 13 9784065296035 COPY ISBN 10h 4-06-529603-X COPY ISBN 10 406529603X COPY 出版者記号 06 COPY CコードC0110 0:一般 1:文庫 10:哲学 書店発売日 2022年10月13日登録日2022年8月25日最終更新日2022年10月6日 紹介 「運命よ 私はお前と踊るのだ。」 理性と感情、男と女、東洋と西洋、二人の父、偶然と必然……幾多の対立に引き裂かれ、安定を許されなかった生のただなかで、日本哲学の巨星は何を探究しつづけたのか。その生い立ちから、留学、主著『「いき」の構造』『偶然性の問題』、最晩年の『文芸論』まで、その思索の全過程を、第一回中村元賞受賞の著者が明解かつ艶やかな筆致で辿る。九鬼哲学への決定版・入門書。 [目次] はじめに 第一章 出会いと別れ 第二章 「いき」の現象学 第三章 永遠を求めて 第四章 偶然性の哲学 第五章 偶然から自然へ 第六章 形而上学としての詩学 あとがき 学術文庫版へのあとがき - 著者プロフィール - 田中 久文 (タナカ キュウブン) (著/文) 1952年生まれ。東京大学大学院博士課程修了。文学博士。専攻は倫理学,日本思想史。日本女子大学名誉教授。著書に『西田幾多郎』,『日本の哲学をよむ』,『象徴天皇を哲学する』,『日本美を哲学する』,『丸山眞男を読みなおす』など。
-
新・哲学入門 | 竹田 青嗣
¥1,210
講談社 2022年 講談社新書 ソフトカバー 336ページ 新書版 - 内容紹介 - 『資本主義リアリズム』で世界に絶望的な衝撃を与えたマーク・フィッシャー最後の言葉── ロンドン大学ゴールドスミス・カレッジで行われた最終講義を書籍化。 社会主義、コミュニズム、カウンターカルチャーはなぜ失敗したのか。 資本主義のオルタナティヴは本当に存在しないのか。 ポスト資本主義の世界における「欲望」と、左派加速主義は資本主義の可能性…… マルクス、フロイト、マルクーゼ 、ルカーチ 、リオタール 、ドゥルーズ&ガタリを架橋しつつ、学生たちの対話から、現代のディストピアから脱出する道を探る。 ◆目次◆ テキストについての注記 第1講 ポスト資本主義とは何か? 第2講 「ほとんど想像もつかない規模の社会的・心理的革命」 予兆としてのカウンターカルチャーボヘミアン 第3講 階級意識から集団意識へ 第4講 組合の力とソウルの力 第5講 リビドー的マルクス主義 編者解説 悲惨な月曜の朝はもうたくさんだ マット・コフーン 訳者解説 大橋完太郎 付録1 講義シラバス 付録2 トラックリスト「悲惨な月曜の朝はもうたくさんだ」
-
どうして、わたしはわたしなの? トミ・ウンゲラーのすてきな人生哲学|トミ・ウンゲラー, アトランさやか(翻訳)
¥2,750
現代書館 2021年 ハードカバー 160ページ 四六判 - 内容紹介 - フランス哲学雑誌『フィロゾフィー・マガジン』の人気連載の書籍化。「戦争に勝ったら何がもらえるの?」「どうしてお金があるの?」「神さまは男、それとも女?」――『すてきな三にんぐみ』でおなじみの絵本作家、トミ・ウンゲラーが悩める子どもにアドバイス! だれもが自由になれる、ユーモアと風刺がこめられたイラストたっぷりの人生処方箋です。 - 著者プロフィール - トミ・ウンゲラー (トミウンゲラー) (著/文) 1931年11月28日 、ストラスブール生まれ。絵本作家、グラフィック・デザイナー、イラストレーター、おもちゃ発明家、コレクター、広告デザイナーなどさまざまなジャンルで活躍し、重要な児童文学作家のひとりとして60年以上ものあいだ高く評価されてきた。著書は40以上の言語に翻訳され、映画の原作になった作品もある。代表作に『すてきな三にんぐみ』(1961年、日本語版は偕成社より1969年刊)、『ゼラルダと人喰い鬼』(1967年、日本語版は評論社より1977年刊)、『キスなんてだいきらい』(1973年、日本語版は文化出版局より1974年刊)、『オットー : 戦火をくぐったテディベア』(1999年、日本語版は評論社より2004年刊)などがある。1998年、児童文学のノーベル賞とされる国際アンデルセン賞画家賞。 2019年2月9日にアイルランドで死去。 アトランさやか (アトランサヤカ) (翻訳) アトランさやか Sayaka Atlan 1976年生まれ。青山学院大学文学部フランス文学科卒業。2001年に渡仏、パリ第四大学(ソルボンヌ大学)にて学び、修士号を取得。パリの日本語新聞『OVNI』でのコラム連載など、パリをベースに執筆活動中。著書に『薔薇をめぐるパリの旅』(毎日新聞社)、『パリのアパルトマンから』(大和書房)、『ジョルジュ・サンド 愛の食卓:19世紀ロマン派作家の軌跡』(現代書館)、共著に『10人のパリジェンヌ』(毎日新聞社)がある。 http://blog.sayakaatlan.com/
-
民主主義とは何か|宇野 重規
¥1,034
講談社 2020年 講談社現代新書 ソフトカバー 280ページ 新書判 - 内容紹介 - トランプ大統領をはじめとする「ポピュリスト」の跋扈、旧社会主義諸国および中国など権威主義国家の台頭など、近年の世界の政治状況は、民主主義という制度の根幹を揺るがすかのような観を呈しています。日本の状況を見てみても、現行の政権が「民意」の正確な反映、すなわち「民主主義的な」政権だといわれると、頸をかしげる人も少なくないのではないでしょうか。はたして民主主義はもう時代遅れなのか? それとも、まだ活路はあるのか? それを議論するためには、まず何よりも、民主主義とは、そもそもどのような制度なのかを「正しく」知らなければならないでしょう。今では自明視されている「民主主義」という制度ですが、人が創ったものである限りそれもまた歴史的な制度として、さまざまな紆余曲折を経て現在のようなものになったのであって、決して「自然」にこのようなになったわけでではないのです。 そこで本書では、ギリシア・アテナイにおける民主主義思想の「誕生」から、現代まで、民主主義という制度・思想の誕生以来、起こった様々な矛盾、それを巡って交わされた様々な思想家達の議論の跡をたどってゆきます。その中で、民主主義という「制度」の利点と弱点が人々にどのように認識され、またどのようにその問題点を「改良」しようとしたのか、あるいはその「改革」はなぜ失敗してしまったのかを辿ることにより、民主主義の「本質」とは何なのか、そしてその未来への可能性を考えてゆきます。 またあわせて、日本の民主主義の特質、その問題点についても分析してゆきます。 民主主義という思想・制度を知るための、平易な政治思想史の教科書としても最適です。 目次 序 民主主義の危機 第1章 民主主義の「誕生」 第2章 ヨーロッパへの「継承」 第3章 自由主義との「結合」 第4章 民主主義の「実現」 終章 日本の民主主義 結び 民主主義の未来 あとがき - 著者プロフィール - 宇野 重規 (ウノ シゲキ) (著/文) 一九六七年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。現在、東京大学社会科学研究所教授。専攻は政治思想史、政治哲学。主な著書に『政治哲学へ 現代フランスとの対話』(二〇〇四年渋沢・クローデル賞LVJ特別賞受賞)、『未来をはじめる 「人と一緒にいること」の政治学』(以上、東京大学出版会)、『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社学術文庫、二〇〇七年サントリー学芸賞受賞)、『保守主義とは何か 反フランス革命から現代日本まで』(中公新書)などがある。
-
実践・哲学ディベート 〈人生の選択〉を見極める | 高橋 昌一郎
¥968
NHK出版 2022年 ソフトカバー 224ページ 新書版 - 内容紹介 - 「論理」を鍛え、「問題」と向き合う! 反出生主義に教育問題、ルッキズムからAI脅威、意思決定論まで。誰もが遭遇する人生の身近な事例を手掛かりに、「教授」と「学生たち」のディベート形式で、哲学的論点を浮かび上がらせる。NHKブックス『哲学ディベート』以降に登場した、新たな思想潮流や現代特有の課題を集中的に取り上げ、思考法とアプローチを同時に身につけることを目指す、画期的哲学入門! - 著者プロフィール - 高橋 昌一郎 (タカハシ ショウイチロウ) (著/文) 國學院大學教授。1959年生まれ。ミシガン大学大学院哲学研究科修了。専門は論理学、科学哲学。著書は『理性の限界』『知性の限界』『感性の限界』『フォン・ノイマンの哲学』『ゲーデルの哲学』『20世紀論争史』『自己分析論』『反オカルト論』『愛の論理学』『東大生の論理』『小林秀雄の哲学』『哲学ディベート』『ノイマン・ゲーデル・チューリング』『科学哲学のすすめ』など、多数。
-
誰にもわかるハイデガー 文学部唯野教授・最終講義 | 筒井 康隆
¥759
河出書房新社 2022年 ソフトカバー 160ページ 文庫判 - 内容紹介 - 死を恐れつつも死について知りたい我々のために、あの唯野教授による世界一わかりやすい講義が一度かぎりよみがえる。読まずに死ねない名著『存在と時間』超入門。これが教授の遺言だ! - 著者プロフィール - 筒井 康隆 (ツツイ ヤスタカ) (著/文) 1934年、大阪市生まれ。65年、第1作品集『東海道戦争』刊行。『虚人たち』で泉鏡花文学賞、『夢の木坂分岐点』で谷崎潤一郎賞、『朝のガスパール』で日本SF大賞、『わたしのグランパ』で読売文学賞を受賞。
-
マツタケ――不確定な時代を生きる術 | アナ・チン, 赤嶺 淳訳
¥4,950
みすず書房 2019年 ハードカバー 448ページ 19.6 x 13.8 x 3 cm - 内容紹介 - 「本書は、20世紀的な安定についての見通しのもとに近代化と進歩を語ろうとする夢を批判するものではない。……そうではなく、拠りどころを持たずに生きるという想像力に富んだ挑戦に取りくんでみたい。……もし、わたしたちがそうした菌としてのマツタケの魅力に心を開くならば、マツタケはわたしたちの好奇心をくすぐってくれるはずだ。その好奇心とは、不安定な時代を、ともに生き残ろうとするとき、最初に必要とされるものである」 オレゴン州(米国)、ラップランド(フィンランド)、雲南省(中国)におけるマルチサイテッドな調査にもとづき、日本に輸入されるマツタケのサプライチェーンの発達史をマツタケのみならず、マツ類や菌など人間以外の存在から多角的に叙述するマルチスピーシーズ民族誌。ホストツリーと共生関係を構築するマツタケは人工栽培ができず、その豊凶を自然にゆだねざるをえない不確定な存在である。そうしたマツタケを採取するのも、移民や難民など不安定な生活を余儀なくされてきた人びとである。生態資源の保護か利用かといった単純な二項対立を排し、種々の不確定性が絡まりあう現代社会の分析にふさわしい社会科学のあり方を展望する。 「進歩という概念にかわって目を向けるべきは、マツタケ狩りではなかろうか」。 目次 絡まりあう プロローグ 秋の香 第一部 残されたもの 1 気づく術 2 染めあう 3 スケールにまつわる諸問題 幕間 かおり 第二部 進歩にかわって――サルベージ・アキュミュレーション 4 周縁を活かす フリーダム…… 5 オレゴン州オープンチケット村 6 戦争譚 7 国家におこったこと――ふたとおりのアジア系アメリカ人 移ろいゆきながら…… 8 ドルと円のはざま 9 贈り物・商品・贈り物 10 サルベージ・リズム――攪乱下のビジネス 幕間 たどる 第三部 攪乱――意図しえぬ設計 11 森のいぶき マツのなかからあらわれる…… 12 歴史 13 蘇生 14 セレンディピティ 15 残骸 ギャップとパッチで…… 16 科学と翻訳 17 飛びまわる胞子 幕間 ダンス 第四部 事態のまっただなかで 18 まつたけ十字軍――マツタケの応答を待ちながら 19 みんなのもの 20 結末に抗って――旅すがらに出会った人びと 胞子のゆくえ――マツタケのさらなる冒険 マツタケにきく――訳者あとがき 本書で引用された文献の日本語版と日本語文献 索引 - 著者プロフィール - アナ・チン (アナチン) (著/文) カリフォルニア大学サンタクルス校文化人類学科教授。エール大学を卒業後、スタンフォード大学で文化人類学の博士号を取得。フェミニズム研究と環境人類学を先導する世界的権威。おもにインドネシア共和国・南カリマンタン州でフィールドワークをおこない、森林伐採問題の社会経済的背景の重層性をローカルかつグローバルな文脈からあきらかにしてきた。著書にIn the Realm of the Diamond Queen: Marginality in an Out-of-the-Way Place (Princeton University Press, 1993), Friction: An Ethnography of Global Connection (Princeton University Press, 2004), The Mushroom at the End of the World (Princeton University Press, 2015)など、多数。 赤嶺淳 (アカミネジュン) (翻訳) 一橋大学大学院社会学研究科教授。専門は東南アジア地域研究・食生活誌学。ナマコ類と鯨類を中心に野生生物の管理と利用(消費)の変容過程をローカルな文脈とグローバルな文脈の絡まりあいに注目し、あきらかにしてきた。著書に『ナマコを歩く――現場から考える生物多様性と文化多様性』(新泉社、2010)『鯨を生きる――鯨人の個人史・鯨食の同時代史』(吉川弘文館、2017)『生態資源――モノ・場・ヒトを生かす世界』(山田勇・平田昌弘との共編著、昭和堂、2018)など。訳書にアナ・チン『マツタケ』(みすず書房、2019)など。
-
現代思想入門 | 千葉 雅也
¥990
講談社 2022年 ソフトカバー 248ページ 新書判 - 内容紹介 - 人生を変える哲学が、ここにある――。 現代思想の真髄をかつてない仕方で書き尽くした、「入門書」の決定版。 * * * デリダ、ドゥルーズ、フーコー、ラカン、メイヤスー…… 複雑な世界の現実を高解像度で捉え、人生をハックする、「現代思想」のパースペクティブ □物事を二項対立で捉えない □人生のリアリティはグレーゾーンに宿る □秩序の強化を警戒し、逸脱する人間の多様性を泳がせておく □権力は「下」からやってくる □搾取されている自分の力を、より自律的に用いる方法を考える □自分の成り立ちを偶然性へと開き、状況を必然的なものと捉えない □人間は過剰なエネルギーの解放と有限化の二重のドラマを生きている □無限の反省から抜け出し、個別の問題に有限に取り組む □大きな謎に悩むよりも、人生の世俗的な深さを生きる 「現代思想は、秩序を強化する動きへの警戒心を持ち、秩序からズレるもの、すなわち「差異」に注目する。それが今、人生の多様性を守るために必要だと思うのです。」 ――「はじめに 今なぜ現代思想か」より * * * 目次 はじめに 今なぜ現代思想か 第一章 デリダーー概念の脱構築 第二章 ドゥルーズーー存在の脱構築 第三章 フーコーーー社会の脱構築 ここまでのまとめ 第四章 現代思想の源流ーーニーチェ、フロイト、マルクス 第五章 精神分析と現代思想ーーラカン、ルジャンドル 第六章 現代思想のつくり方 第七章 ポスト・ポスト構造主義 付録 現代思想の読み方 おわりに 秩序と逸脱 - 著者プロフィール - 千葉 雅也 (チバ マサヤ) (著/文) 一九七八年、栃木県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は哲学・表象文化論。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。著書に『動きすぎてはいけない』(河出文庫、第四回紀伊國屋じんぶん大賞、第五回表象文化論学会賞)、『ツイッター哲学』(河出文庫)、『勉強の哲学』(文春文庫)、『思弁的実在論と現代について』(青土社)、『意味がない無意味』(河出書房新社)、『デッドライン』(新潮社、第四一回野間文芸新人賞)、『ライティングの哲学』(共著、星海社新書)、『オーバーヒート』(新潮社、「オーバーヒート」第一六五回芥川賞候補、「マジックミラー」第四五回川端康成文学賞)など。
-
学びのきほん はじめての利他学 | 若松 英輔
¥737
NHK出版 2022年 ソフトカバー 120ページ A5判 - 内容紹介 - 他者だけでなく、自分も利する「利他」の本質とは。 「利他」という言葉は「自分ではなく、他者のためにおこなうこと」だと捉えられがちだ。しかし、日本の起源から利他を見つめ直してみると、それとは全く異なる姿が見えてくる。空海の「自利利他」、孔子の「仁」、中江藤樹の「虚」、二宮尊徳の「誠の道」、エーリッヒ・フロムの「愛」……彼らは利他をどのようにとらえ、それをどう実践して生きたのか。彼らの考える利他は、現代とどう違うのか。「自分」があってこその利他のちからとは、どんなものなのか。日本を代表する批評家が、危機の時代における「自他のつながり」に迫る、日本初・利他の入門書。 - 著者プロフィール - 若松 英輔 (ワカマツ エイスケ) (著/文) 1968年新潟県生まれ。批評家、随筆家、東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。慶應義塾大学文学部仏文科卒業。2007年「越知保夫とその時代 求道の文学」にて第14回三田文学新人賞評論部門当選、2016年『叡知の詩学 小林秀雄と井筒俊彦』(慶應義塾大学出版会)にて第2回西脇順三郎学術賞受賞、2018年『詩集 見えない涙』(亜紀書房)にて第33回詩歌文学館賞詩部門受賞、『小林秀雄 美しい花』(文藝春秋)にて第16回角川財団学芸賞、第16回蓮如賞受賞。その他の著書に『悲しみの秘義』(文春文庫)、『種まく人』『詩集 美しいとき』(亜紀書房)、『詩と出会う詩と生きる』『14歳の教室 どう読みどう生きるか』『考える教室 大人のための哲学入門』(NHK出版)など。
-
学びのきほん 人生が面白くなる 学びのわざ | 齋藤 孝
¥737
NHK出版 2020年 ソフトカバー 112ページ A5判 - 内容紹介 - 教養を効果的に会得する最強メソッド なかなか教養が身につかない……。そんな悩みを抱えている人は、そもそも「学び方」に問題がある? 特に私たちが教えられた「知識詰め込み型」の学び方は、情報の量が膨大な現代で限界をむかえている。では、何をすべきか。そのヒントは「先人」にあった。ソクラテスから村上春樹まで、教養の鬼・齋藤孝が、「偉業を成し遂げた先人の学び方」をヒントに、一生使える「学びのわざ」を伝授。同時に彼らの思想のエッセンスをわかりやすく解説。「デカルト流・4つの法則」「ニーチェ流・三様の変化」「宮本武蔵流・3つのわざ」……。知れば知るほど楽しくなる、質的に生きていくための学び方の入門書。 - 著者プロフィール - 齋藤 孝 (サイトウ タカシ) (著/文) 1960年、静岡県生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒業後、同大学院教育学研究科博士課程を経て現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。NHKEテレ「にほんごであそぼ」の総合指導を務めるなど、子どもの教育に力を入れている。著書に『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス、新潮学芸賞受賞)、『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『読書力』『教育力』(岩波新書)など多数。
-
自然の哲学 (じねんのてつがく) おカネに支配された心を解放する里山の物語 | 高野 雅夫
¥2,200
ヘウレーカ 2021年 ソフトカバー 272ページ 四六判 縦188mm 横128mm 厚さ15mm - 内容紹介 - 自然〈しぜん〉と人間を区別することなく、 両者が一体となった自然〈じねん〉の世界。 里山とはそのような場所であり、変わりつつある今も、 さまざまなことを教えてくれる。 里山に移住してきた若い人たちとの対話を手がかりに、 自らも里山に移住した環境学者が思索を深めてたどりついた、 サステナブルな生き方とは――。 田舎暮らしにあこがれているけれど、迷っている人、必読。 もちろん、移住を決めた人、すでに移住した人にもおすすめ。 そして、移住者を受け入れる側の人たちにもぜひ読んでほしい。 この危機の時代に、田舎に暮らすことの意味が掘り下げられ、 同時に問題点も明らかにされますが、それでも希望が見えてきます。 人とつながって、自然とつながって、生態系の一員として暮らしていくこと。 それがいまある生態系を維持し、その恵みを将来世代へとつないでいく。 田畑を借りて自家用コメや野菜をつくり、山で木を伐って燃料を調達する。 そんな日常が、おカネに支配された心を解放してくれる。 持続可能な自分も、未来も、里山から始まります。 目次 はじめに 第1章 里山世界と村の成り立ち――自然の一部としての人間の暮らし 里山とは何か――さまざまな生き物が息づく場所 村のルーツをたどる 楽しいから集まって仕事をする―― 結と普請 信仰のグループからおカネの相互扶助へ 「村はよそ者に冷たい」はほんとうか 生きた化石 第2章 せめぎあう村と国家――自治vs.統制のゆくえ 明治維新で中央の村への介入が始まった 心の統制の始まり、廃仏毀釈 格差を広げた地租改正 田舎が最も輝いた時代 禁断の果実 共有される物語を求めて 第3章 森と農の物語 ―― 自然から浮き上がっていく人間の姿 宇宙から見える日本の人工林 山で働くことの意味 そして雑木林は失われた 森づくりビジョン 慣行農法の功罪 第2種兼業農家という生き方 有機農業・自然農・自然栽培 第4章 水俣と福島から「生国」を学ぶ――生命に対する責任とは 滅びゆく里海 水俣病 「チッソは私であった」 おカネでは解決できない 放射能あふれる里山で 生 死 原生林 死という使命 第5章 「おカネ」の物語から自由になる―― 巨大な力に翻弄されないために 我が心の中の「日本国」 現代人が共有する物語としてのおカネ 主人公は資本 疎外のない企業活動は可能か モード オフグリッドで生きる人たち おカネ道 第6章 解けなくなった人生方程式 ―― 「人並みな暮らし」は幸せなのか だれもが夢見た一生安泰物語 成長時代の夢のまま変わらない教育 変化の兆しとかすかな希望 第7章 第2次移住ブームがやってきた―― 自分らしい生き方を求めて なぜ田舎から出ていくのか なぜ田舎にやってくるのか どんな仕事をして食べていくか 里山の子育て 第8章 「弱さ」の物語 ―― 価値の大逆転 「to do 」から「to be」へ 「弱さ」がもつ求心力 弱さの情報公開 第9章 自然の哲学――物語を書き換える 科学の物語 ―― もう一つの信仰 「いのち」の物語―― 生態系×進化の織物 せめぎあい――メガソーラーによる環境破壊に思うこと じねんに生き、じねんに死ぬ 木の声を聞く―― 「いのち」の物語へのレッスン ご縁 いまを生きる おわりに 前書きなど はじめに(一部抜粋) 本書のタイトルにある自然という言葉をはじめて聞いたのは、哲学者の内山節氏の講演だった。内山氏は豊田市山村部の地域づくりの仲間たちの招きでたびたび現場を訪れていた。氏によれば自然というのは、明治になってからnatureの訳語として当てられたもので、もともとはじねんと読み、自ずから然るべきようになる世界を表す言葉であった。そこでは自然と人間を区別することなく、両者が一体となった世界を表していたという。里山とはまさにそのような世界だ。 さらに私がこの言葉の意味を深く考えるようになったのは、自然農の実践家である川口由一氏を豊田市に招き、講義とともに、田んぼでの作業を指導していただいたときだった。川口氏によれば、田畑の中にいる多くの生き物の一員として、作物は自ずから然るべきように育つので、人間はそれに最小限の手助けをすればよいということだった。そこから私は学生と一緒に小さな田んぼを借りて自然農のやり方で米作りに挑戦した。3年やって見事に一粒も収穫できず、この挑戦は失敗に終わったのだが、私はこの経験から多くのことを学んだ。足元にたくさんの水生昆虫が動き回り、頭上をトンボが群れ飛ぶ田んぼに入って手足を動かしながら、考察を進めることができた。 私たちは毎日忙しく働き活動している。私には、皆が一生懸命頑張った分だけ、世界が悪い方向に向かっているような、なんとももどかしい思いがある。それは、本来は自ずから然るべきようになろうとしているものを、無理に人為的にねじ曲げようとしているからではないか。そういう目で社会のできごとを見るようになると、農業だけでなく、いたるところで同様な構図の事例があることに気づいた。なぜそうなってしまうのか、自ずから然るべきようになるにはどうなればよいのか。私たち一人ひとりが自ずから然るべきように生きられるようになるにはどうなればよいのか。これが本書に通底するテーマである。 本書ではまず、現在の田舎と里山の姿を正確に理解するために、そこに埋め込まれている「生きた化石」ともいえる歴史の断片を解きほぐしてみたい。2章では、明治以降にそれがどのように変質したか(変質させられたか)を示したい。戦後の高度経済成長期に田舎の姿は大きく変わり、都市も含めて社会全体が大きく変わった。その現実から読み取ることのできる社会の根底にある哲学を発掘しながら、その問題点を明らかにできたらと思う。 3章では、田舎の主な産業であった農業と林業の歴史と現状を概観し、4章では、人間を含めた生き物・自然環境が多大な被害を受けた水俣と福島から、私たちが生きる世界とは何かを考え、里山という場所の価値を再考する。 5章では本書の副題にある「おカネ」をはじめとした「疎外」の問題と近代社会の構造をわかりやすく解説する。若い人たちと話していると、彼らが抱える将来への漠然とした不安感の底におカネの問題があることがわかる。長時間労働でストレスの高い仕事をしながらも、将来に向けて収入が上がっていく実感がない。おカネを中心において、自分の人生を決めることに葛藤しながらも、そうせざるを得ないと言い聞かせている。おカネに心が支配されてしまっている状態だ。そこからどうすれば自由になれるかを考えていく。それは、今後の持続可能な社会を築いていくためにも重要なテーマである。 6章では終身雇用・年功序列という社会制度がどのように生まれ、その原因とも結果ともなった戦後の教育のあり方の問題点を指摘したい。7章では現在の移住ブームがどのようなもので、その意味するところは何か考察する。8章では近代社会の中でないがしろにされてきた「弱さ」の価値を考察する。 最後の9章では田舎にやってきた若い人たちとの対話の中から見えてきた、今後の田舎と都市を含めた社会全体のベースとなるべき自然の哲学を議論したいと思う。 版元から一言 著者は2001年に設立された名古屋大学に環境学研究科に移籍してから、再生可能エネルギーの普及に関する研究と農山村の地域再生に関する研究・実践を行ってきました。最初は豊田市の山村部でフィールドワークを行い、その後岐阜県にフィールドを広げ、恵那市飯地町の標高600mの高原の村に移住し、地域再生の現場で一住民としてもかかわってきました。 その過程で、著者は田舎に移住してくる若い人たちとたくさん対話してきました。かれらとの交流から見えてきたのは、都市での生きづらさであり、それから逃れるように田舎を目指してきた人たちは、「ここには求めるものがすべてある」と感じているという事実です。これまでは「何もない」と思われていた田舎にすべてがあるというのです。 それが何を意味するのか――。私たちがこれまで自明としていた豊かな社会を支えてきた価値観が、彼らの中では根本的に転換しているのではないかと著者は感じました。そして、この価値観の転換は、私たちの社会が持続可能なものになるために社会全体で共有すべきものではないかと考え、それを「自然(じねん)の哲学」として記述し、まとめたのがこの本です。 - 著者プロフィール - 高野 雅夫 (タカノ マサオ) (著/文) 1962年山口県生まれ。名古屋大学大学院環境学研究科教授・博士(理学)。 木質バイオマスエネルギーやマイクロ水力発電などの再生可能エネルギーの技術開発とそれらの普及を通した里山再生について農山村をフィールドとして研究を行う。再生可能エネルギーを普及させるには豊富な自然資源が存在する農山村が持続しなくてはいけないものの、人口減少と高齢化によって集落消滅が進む事態に直面していることを知る。そこで、愛知県豊田市の山村部を主なフィールドに、若者の移住支援を中心にした農山村地域再生の研究および実践に取り組む。 また、2014年4月に立ち上がった、大学と社会との連携を進める名古屋大学・臨床環境学コンサルティングファームの部門長として、自治体や企業、NPO に対して持続可能な地域づくりのためのコンサルティング活動を進めている。2013年には国連の専門家会議で日本の里山がもつ持続可能な社会づくりにとっての意義について報告した。 主な著書に『人は100W で生きられる』(大和書房、 2011年)、編著に『持続可能な生き方をデザインしよう』(明石書店、2017年)、共著に『 千年持続社会――共生・循環型文明社会の創造』( 資源協会編、日本地域社会研究所、2003年)、『 市民参加型社 会とは――愛知万博計画過程と公共圏の再創造』(町村敬志、吉見俊哉編、有斐閣、2005年)などがある。
-
表徴の帝国 | ロラン・バルト, 宗左近(翻訳)
¥1,100
筑摩書房 1996年 ソフトカバー 232ページ 文庫判 - 内容紹介 - 「これはエクリチュールについての本である。日本を使って、わたしが関心を抱くエクリチュールの問題について書いた。日本はわたしに詩的素材を与えてくれたので、それを用いて、表徴についてのわたしの思想を展開したのである」。天ぷら、庭、歌舞伎の女形からパチンコ、学生運動にいたるまで…遠いガラバーニュの国“日本”のさまざまに感嘆しつつも、それらの常識を“零度”に解体、象徴、関係、認識のためのテキストとして読み解き、表現体(エクリチュール)と表徴(シーニュ)についての独自の哲学をあざやかに展開させる。
-
中動態の世界 意志と責任の考古学 | 國分功一郎
¥2,200
医学書院 2017年 ハードカバー 330ページ A5判 - 内容紹介 - 【本書「あとがき」より】 中動態の存在を知ったのは、たしか大学生の頃であったと思う。本文にも少し書いたけれども、能動態と受動態しか知らなかった私にとって、中動態の存在は衝撃であった。衝撃と同時に、「これは自分が考えたいことととても深いところでつながっている」という感覚を得たことも記憶している。 だが、それは当時の自分にはとうてい手に負えないテーマであった。単なる一文法事項をいったいどのように論ずればよいというのか。その後、大学院に進んでスピノザ哲学を専門的に勉強するようになってからも事態は変わらなかった。 ただ、論文を書きながらスピノザのことを想っていると、いつも中動態について自分の抱いていたイメージが彼の哲学と重なってくるのだった。中動態についてもう少し確かなことが分かればスピノザ哲学はもっと明快になるのに……そういうもどかしさがずっとあった。 スピノザだけではなかった。数多くの哲学、数多くの問題が、何度も私に中動態との縁故のことを告げてきた。その縁故が隠されているために、何かが見えなくなっている。しかし中動態そのものの消息を明らかにできなければ、見えなくなっているのが何なのかも分からない。 私は誰も気にかけなくなった過去の事件にこだわる刑事のような気持ちで中動態のことを想い続けていた。 (中略) 熊谷さん、上岡さん、ダルクのメンバーの方々のお話をうかがっていると、今度は自分のなかで次なる課題が心にせり出してくるのを感じた。自分がずっとこだわり続けてきたにもかかわらず手をつけられずにいたあの事件、中動態があるときに失踪したあの事件の調査に、自分は今こそ乗り出さねばならないという気持ちが高まってきたのである。 その理由は自分でもうまく説明できないのだが、おそらく私はそこで依存症の話を詳しくうかがいながら、抽象的な哲学の言葉では知っていた「近代的主体」の諸問題がまさしく生きられている様を目撃したような気がしたのだと思う。「責任」や「意志」を持ち出しても、いや、それらを持ち出すからこそどうにもできなくなっている悩みや苦しさがそこにはあった。 次第に私は義の心を抱きはじめていた。関心を持っているからではない。おもしろそうだからではない。私は中動態を論じなければならない。──そのような気持ちが私を捉えた。 (以下略)