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ガザに地下鉄が走る日|岡 真理
¥3,520
みすず書房 2018年 ハードカバー 312ページ 四六判 - 内容紹介 - イスラエル建国とパレスチナ人の難民化から70年。高い分離壁に囲まれたパレスチナ・ガザ地区は「現代の強制収容所」と言われる。そこで生きるとは、いかなることだろうか。 ガザが完全封鎖されてから10年以上が経つ。移動の自由はなく、物資は制限され、ミサイルが日常的に撃ち込まれ、数年おきに大規模な破壊と集団殺戮が繰り返される。そこで行なわれていることは、難民から、人間性をも剥奪しようとする暴力だ。 占領と戦うとは、この人間性の破壊、生きながらの死と戦うことだ。人間らしく生きる可能性をことごとく圧殺する暴力のなかで人間らしく生きること、それがパレスチナ人の根源的な抵抗となる。 それを教えてくれたのが、パレスチナの人びとだった。著者がパレスチナと関わりつづけて40年、絶望的な状況でなお人間的に生きる人びととの出会いを伝える。ガザに地下鉄が走る日まで、その日が少しでも早く訪れるように、私たちがすることは何だろうかと。 - 目次 - 第1章 砂漠の辺獄 第2章 太陽の男たち 第3章 ノーマンの骨 第4章 存在の耐えられない軽さ 第5章 ゲルニカ 第6章 蠅の日の記憶 第7章 闇の奥 第8章 パレスチナ人であるということ 第9章 ヘルウ・フィラスティーン? 第10章 パレスチナ人を生きる 第11章 魂の破壊に抗して 第12章 人間性の臨界 第13章 悲しい苺の実る土地 第14章 ガザに地下鉄が走る日 あとがき - 著者プロフィール - 岡真理 (オカマリ) (著/文) 1960年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科教授。専門は現代アラブ文学、パレスチナ問題、第三世界フェミニズム思想。著書に『記憶/物語』(岩波書店)、『彼女の「正しい」名前とは何か』、『棗椰子の木陰で』(以上、青土社)、『アラブ、祈りとしての文学』、『ガザに地下鉄が走る日』(以上みすず書房)ほか。訳書にエドワード・サイード『イスラム報道 増補版』(共訳、みすず書房)、サラ・ロイ『ホロコーストからガザへ』(共訳、青土社)、ターハル・ベン=ジェルーン『火によって』(以文社)、アーディラ・ライディ『シャヒード、100の命』(インパクト出版会)、サイード・アブデルワーヒド『ガザ通信』(青土社)ほか。2009年から平和を目指す朗読集団「国境なき朗読者たち」を主宰し、ガザをテーマとする朗読劇の上演活動を続ける。
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アラブ、祈りとしての文学|岡 真理
¥3,300
果林社 2023年 ハードカバー 313ページ 縦200mm - 内容紹介 - 小説を読みことは、他者の生を自らの経験として生きること。それは世界を変えるささやかな、しかし大切な一歩となる。「新装版へのあとがき」を付す。 - 目次 - 小説、この無能なものたち 数に抗して イメージ、それでもなお ナクバの記憶 異郷と幻影 ポストコロニアル・モンスター 背教の書物 大地に秘められたもの コンスタンティーヌ、あるいは恋する虜 アッラーとチョコレート 越境の夢 記憶のアラベスク 祖国と裏切り ネイションの彼岸 非国民の共同体
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ぼくの村は壁で囲まれた パレスチナに生きる子どもたち|高橋 真樹
¥1,650
現代書簡 2017年 ソフトカバー 200ページ 四六判 - 内容紹介 - 子どもたちの視点から伝える、パレスチナ問題の新しい入門書! 高橋和夫氏(国際政治学者)推薦! 「文章の中にパレスチナ人の声が響いている。記述からパレスチナの臭気が立ち上って来る。丁寧に取材し、脚で書いたような本である。入門書だが内容には妥協がない。しかも、わかりやすい。やっと本物の入門書が出た。」(高橋氏) 何世代にもわたり、故郷に帰れないパレスチナ難民。700キロにも及ぶ巨大な壁に囲まれ、軍隊に脅されて暮らす子どもたち……。パレスチナの子どもをめぐる状況は、日増しに悪化している。そんな中、新たに誕生した米国のトランプ政権は中東をさらに混迷させるのか? 占領とは何か?エルサレム問題とは?パレスチナで誕生した新しい非暴力ムーブメントとは? イスラエルによる占領が始まって50年、難民が発生して70年を迎える今こそ目を向けたい、中東はもちろん、世界情勢を知るための必読書!
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コーヒーのあわからうまれたこねこ|エヴァ・ヴォルフォヴァー(イラスト), テレザ・ホルヴァートヴァー(著/文)
¥1,980
東京美術 2023年 ハードカバー 44ページ A4変型判 - 内容紹介 - コーヒーの泡から生まれたこねこが、冬も春も夏も、生まれた家のにおいをもとめて町をさすらいます。チェコのイラストレーター、エヴァ・ヴォルフォヴァーが布の端切れやキッチンクロスなどを使い、刺繍で美しい絵を描いた絵本。「チェコの美しい本コンクール」受賞、「金のリボン賞」(チェコの児童文学賞)推薦作品。 - 著者プロフィール - エヴァ・ヴォルフォヴァー (エヴァヴォルフォヴァー) (イラスト) 1979年、チェコ北西部のテプリツェに生まれる。プラハ工芸美術大学のイラストレーション&グラフィック学科で学ぶ。『コーヒーのあわからうまれたこねこ』は指導教授ユライ・ホルヴァートの元で手がけた卒業制作を出版した初めての絵本で、その後、『家から、庭から』(2011年)や『フリドリーナとアントニーナと小さなミーナ』(2019年)など、ドローイングと、印刷物やテキスタイルのコラージュ、刺繍などを組み合わせて絵本を制作している。チェコ、スロヴァキア、ドイツのほか、日本でも『ブラチスラバ世界絵本原画展』や『糸で描く物語』展など多数の展覧会に参加し、子ども向けの美術教室やワークショップも行っている。 テレザ・ホルヴァートヴァー (テレザホルヴァートヴァー) (著/文) 1973年、プラハ生まれ。カレル大学哲学科言語センターでフランス語と文学を学ぶ。2000年に、画家であり、プラハ工芸美術大学で教鞭をとる夫ユライ・ホルヴァートとともに児童書出版社バオバブを設立。編集、翻訳のほか、『青いトラ』(2005年、邦訳は求龍堂から出版)をはじめ、エヴァ・ヴォルフォヴァーによる刺繍絵本のシリーズのテキストなどを手がけている。2011年には、小さいながら質の高い絵本を発表している出版社をターボル(チェコ南西部)に集める国際フェスティバルTabookを創設して大きな反響を呼び、チェコを中心とする絵本の出版社、作家、読者が集う活気溢れるブックフェアとなっている。
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雑に作る : 電子工作で好きなものを作る近道集|石川 大樹, ギャル電, 藤原 麻里菜
¥2,640
オライリー・ジャパン 2023年 ソフトカバー 312ページ A5判 - 内容紹介 - 「雑でも大丈夫!」初心者を応援する新しい電子工作書籍!本書は、独自のやり方で、作品のアイデアや製作する技術を身に付けて、作品を発表し続けてきた著者陣による、まったく新しい電子工作の書籍です。『Arduinoをはじめよう 第4版』を読み、その中の作例は作ってみたけれど、その先に何を作っていいのか......と迷っている読者を対象に、「雑な作品作りでも大丈夫!」というポジティブな姿勢をもとに、アイデアの出し方や実際の製作のノウハウを約40本紹介します。
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アートとフェミニズムは誰のもの?|村上 由鶴
¥1,078
光文社 2023年 光文社新書 ソフトカバー 272ページ 新書判 - 内容紹介 - アートとフェミニズムは少なくない人びとからよく見えなくなっていて、その実態がよくわからなくなっている。いわば、アートとフェミニズムは入門したくてもできない「みんなのものではないもの」になっているのが実情だ。もともと、「みんなのもの」になろうとするエネルギーを持っているアートとフェミニズム。理解の断絶が進む現在の状況に風穴を開けるには――。フェミニズムを使ってアートを読み解く、あたらしい試み。
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鬱の本|点滅社編集部
¥1,980
点滅社 2023年 ハードカバー B6変形判 - 内容紹介 - 鬱のときに読んだ本。憂鬱になると思い出す本。まるで鬱のような本。 84名の方による、「鬱」と「本」をめぐるエッセイ集。本が読めないときに。 (夏葉社さまの『冬の本』にインスパイアされてつくった作品です) 執筆者一覧 青木真兵 青木海青子 安達茉莉子 荒木健太 飯島誠 池田彩乃 石井あらた 市村柚芽 海猫沢めろん 大谷崇 大塚久生 大槻ケンヂ 大橋裕之 大原扁理 荻原魚雷 落合加依子 柿木将平 頭木弘樹 梶本時代 勝山実 上篠翔 切通理作 こだま 小見山転子 ゴム製のユウヤ 佐々木健太郎 笹田峻彰 佐藤友哉 左藤玲朗 篠田里香 柴野琳々子 島田潤一郎 下川リヲ 菅原海春 杉作J太郎 鈴木太一 髙橋麻也 髙橋涼馬 高村友也 瀧波ユカリ 滝本竜彦 タダジュン 谷川俊太郎 丹治史彦 第二灯台守 輝輔 展翅零 トナカイ 鳥羽和久 友川カズキ 友部正人 豊田道倫 鳥さんの瞼 中山亜弓 永井祐 七野ワビせん 西崎憲 野口理恵 初谷むい 東直子 姫乃たま 緋山重 平野拓也 Pippo pha ふぉにまる 古宮大志 増田みず子 枡野浩一 町田康 マツ 松下育男 miku maeda みささぎ 水落利亜 水野しず 無 森千咲 森野花菜 山﨑裕史 山崎ナオコーラ 山下賢二 屋良朝哉 湯島はじめ まえがき この本は、「毎日を憂鬱に生きている人に寄り添いたい」という気持ちからつくりました。どこからめくってもよくて、一編が1000文字程度、さらにテーマが「鬱」ならば、読んでいる数分の間だけでも、ほんのちょっと心が落ち着く本になるのではいかと思いました。 病気のうつに限らず、日常にある憂鬱、思春期の頃の鬱屈など、様々な「鬱」のかたちを84名の方に取り上げてもらっています。 「鬱」と「本」をくっつけたのは、本の力を信じているからです。1冊の本として『鬱の本』を楽しんでいただくとともに、無数にある「鬱の本」を知るきっかけになれば、生きることが少し楽になるかもしれないという思いがあります。 この本が、あなたにとっての小さなお守りになれば、こんなにうれしいことはありません。あなたの生活がうまくいきますように。 ※本書は、うつや、うつのような症状の方のためのマニュアル本や啓発本ではありません。そのため、例えば「うつ病の具体的な治療方法」などは書かれておりません。ご了承ください。 - 目次 - 「鬱」ベースの社会に (青木真兵) 怪談という窓 (青木海青子) 犬に限らず (安達茉莉子) にぐるまひいて (荒木健太) 世界の色 (飯島誠) 形を持った灯りを撫でる (池田彩乃) 棚からぼたもち落ちてこい (石井あらた) ブランコ (市村柚芽) 憂鬱と幸福 (海猫沢めろん) 世界の最悪さを確認する喜び (大谷崇) 人と共感できず、なにしろもがいていた頃の話 (大塚久生) 椎名誠『僕は眠れない』 (大槻ケンヂ) 高校時代 (大橋裕之) ウツのときでも読める本 (大原扁理) 低迷期の友 (荻原魚雷) 多摩川で石を拾おうとした (落合加依子) ポジティブ。 (柿木将平) 布団からの便り (梶本時代) 『金髪の草原』の「記憶年表」 (頭木弘樹) やらない勇気 (勝山実) 天窓から光 (上篠翔) 生れてくるという鬱 (切通理作) 「できない」自分との付き合い方 (こだま) 深い深い水たまり (小見山転子) 我輩はゴムである (ゴム製のユウヤ) 鬱の本 (佐々木健太郎) 弱々しい朝 (笹田峻彰) 不良作家とAI (佐藤友哉) ある日、中途半端に終わる (左藤玲朗) 本は指差し確認 (篠田里香) ゆううつと私 (柴野琳々子) 中学生日記 (島田潤一郎) 俺は鬱病じゃない (下川リヲ) あの娘は雨女 (菅原海春) 旅 (杉作J太郎) 十九歳と四十七歳の地図 (鈴木太一) 悪意の手記を携えて (第二灯台守) 願い (髙橋麻也) 君も蝶 (髙橋涼馬) 静止した時間の中で (高村友也) Life Goes On (瀧波ユカリ) 鬱時の私の読書 (滝本竜彦) ちいさな救い (タダジュン) いのちの気配 (谷川俊太郎) 喘息と明るい窓 (丹治史彦) 毎日があるまでは (輝輔) とかげ (展翅零) 沈黙のオジオン (トナカイ) 大学をやめたい (鳥羽和久) 西村賢太という比類なき衝撃 (友川カズキ) 空の大きさと愛の切符 (友部正人) たたかれて たたかれて 鍛えられる本と人 (豊田道倫) 神経の尖った人の見る世界 (鳥さんの瞼) かけ算とわり算 (永井祐) 明日できることは明日やる (中山亜弓) 2023年4月 (七野ワビせん) 曖昧なものの博物館 (西崎憲) 戦友 (野口理恵) きこえる声で話してくれた (初谷むい) 言葉の声が案内してくれる (東直子) ゲーテをインストールする。 (Pippo) 脱法ドラッグ米粉 (姫乃たま) 何度もめくる、自分はここにいる (緋山重) 深夜のツタヤ (平野拓也) このバカ助が (pha) NHKにさよなら! (ふぉにまる) 鬱、憂鬱、10代、と言われ放出したレテパシー (古宮大志) 鬱は小説の始まり (増田みず子) ため息を深く深く深く深く……ついてそのまま永眠したい (枡野浩一) 人間の鬱 (町田康) 憂鬱な銀河 (マツ) それがかえって (松下育男) 夕に光 (miku maeda) あなたが起きるまで (みささぎ) ダメになって救われる――町田康のこと (水落利亜) うつのサーフィン (水野しず) 本が読めた日 (無) 蜘蛛と解放区 (森千咲) 俯きながら生きている (森野花菜) 喋らないヒロイン (山崎ナオコーラ) 悲観論者のライフハック (山﨑裕史) たぶん、不真面目なんだと思う (山下賢二) ぼくの精神薬 (屋良朝哉) なにかに抱かれて眠る日がある (湯島はじめ) 前書きなど この本は、「毎日を憂鬱に生きている人に寄り添いたい」という気持ちからつくりました。どこからめくってもよくて、一編が1000文字程度、さらにテーマが「鬱」ならば、読んでいる数分の間だけでも、ほんのちょっと心が落ち着く本になるのではいかと思いました。 病気のうつに限らず、日常にある憂鬱、思春期の頃の鬱屈など、様々な「鬱」のかたちを84名の方に取り上げてもらっています。 「鬱」と「本」をくっつけたのは、本の力を信じているからです。1冊の本として『鬱の本』を楽しんでいただくとともに、無数にある「鬱の本」を知るきっかけになれば、生きることが少し楽になるかもしれないという思いがあります。 この本が、あなたにとっての小さなお守りになれば、こんなにうれしいことはありません。あなたの生活がうまくいきますように。
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遠い声、遠い部屋 |トルーマン・カポーティ, 村上 春樹(翻訳)
¥2,530
新潮社 2023年 ハードカバー 288ページ 四六判 - 内容紹介 - アメリカ文学界に衝撃を与えた記念碑的デビュー作を、村上春樹が新訳。新鮮な言語感覚と幻想に満ちた華麗な文体で構成された本作は、1948年に刊行されるやいなや、アメリカ中で大きな波紋を呼び起こした。父親を探してアメリカ南部の小さな町を訪れたジョエル少年の、近づきつつある大人の世界に怯え屈折する心理と、脆くもうつろいやすい感情とを描いた半自伝的なデビュー長編。
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あのとき売った本、売れた本|小出 和代
¥1,925
光文社 2023年 ソフトカバー 212ページ 四六判 - 内容紹介 - 本を売ることがこんなにも劇的でスリリングだなんて、知らなかった! 米澤穂信手から手へ。小出さんに売ってもらった本は、いまも最高に幸せな旅を続けてると思う。桜木紫乃日本最大級の書店、紀伊國屋書店新宿本店。25年間文芸書売り場に立ち続けた名物書店員の、ベストセラー回顧録。書いた人と売った人、そして読んだあなたの物語。
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言葉以前の哲学 戸井田道三論 |今福 龍太
¥2,530
新泉社 2023年 ソフトカバー 240ページ 四六判 縦188mm 横131mm 厚さ19mm - 内容紹介 - 自己のからだを見つめることで、「深層の歴史」を探究した思想家・戸井田道三。 その教えを受け、親交を結んだ人類学者による初の的評伝。 「住」「舌」「母」「性」「時間」「色」「旅」をテーマに、〈言葉以前〉の無意識領域を訪ねる七編の論考。 - 目次 - 1 非土着のネイティヴ ――土地に住むこと 2 言葉以前へのまなざし ――舌でしゃべること 3 乳色の始原へ ――母を思うこと 4 思考のヘルマフロディーテ ――性を超えること 5 翁語りの深淵 ――時間を生きること 6 歴史の昂進 ――色が移ろうこと 7 はるかに、遠くへ ――旅に憧れること あとがき - 著者プロフィール - 今福 龍太 (イマフクリュウタ) (著/文) 文化人類学者・批評家。1955年東京生まれ湘南の海辺で育つ。1980年代初頭からメキシコ、カリブ海、アメリカ南西部、ブラジルなどに滞在し調査研究に従事。その後、国内外の大学で教鞭をとりつつ、2002年より奄美・沖縄・台湾を結ぶ群島に遊動的な学び舎を求めて〈奄美自由大学〉を創設し主宰。 著書に『ヘンリー・ソロー 野生の学舎』(讀賣文学賞)、『宮沢賢治 デクノボーの叡智』(宮沢賢治賞・角川財団学芸賞)、『ぼくの昆虫学の先生たちへ』など多数。主著『クレオール主義』、『群島―世界論』を含む新旧著作のコレクション《パルティータ》全5巻が2018年に完結。
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射精責任|ガブリエル・スタンリー・ブレア(著/文)村井 理子(翻訳)齋藤 圭介(解説)
¥2,200
太田出版 2023年 ソフトカバー 216ページ 18.8 x 11.1 x 1.7 cm - 内容紹介 - 望まない妊娠は、セックスをするから起きるのではない。 女性が世界一ふしだらなビッチだったとしても、何の問題もない。 女性の50倍の生殖能力を持ち、 コンドームを着用したセックスは気持ち良くないという偏見に囚われ、 あらゆる避妊の責任を女性に押し付ける男性が、 無責任な射精をしたときのみ起きる。 望まない妊娠による中絶と避妊を根本から問い直す28個の提言。 「セックスをする人、セックスをしたい人、あるいは将来セックスをするかもしれない人を育てている人にとって、必読の書」(ワシントン・ポスト紙)
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水族館の歴史(新装版) 海が室内にやってきた|ベアント・ブルンナー, 山川 純子(翻訳)
¥2,640
白水社 2019年 ハードカバー 206ページ 四六判 - 内容紹介 - まずは飛びこんで 「アクアリウムaquarium」という語が一般に用いられるようになったのは、19世紀半ばのヨーロッパでのこと。鑑賞用に魚を囲いの中で飼う試みには古代ローマに遡る長い歴史があるが、アクアリウムはもともと、水生生物を飼育する容器や装置を意味していた。 海草も含めたひとつの「生態系」として、観察や鑑賞を目的に水生生物が飼育されるようになり、アクアリウムの歴史は始まった。それまで未知の世界だった深海の様子が知られてくるにつれ、人々は海に対する恐怖を克服した。19世紀は蒐集そのものが流行した時代であり、海洋生物の採集がさかんになった。こうした複数の要因が重なり、アクアリウムという装置が発明されたのだ。 海の生き物の生態を知りたいという人々の願望が、いかにしてアクアリウムの発展に寄与し、水族館の創設につながったのか。環境問題と切っても切り離せない、未来の水族館のはらむ問題とは何か。ユニークな文化史の書き手である著者は、豊富な資料をもとに、人々の夢や欲望の投影としてアクアリウム=水族館のなりたちを考察する。人口あたりの水族館の数が世界一とされる「水族館大国」日本で、水族館の過去と未来に思いを馳せる一冊。図版多数。 - 著者プロフィール - ベアント・ブルンナー (ブルンナー) (著/文) 1964年生まれ。ベルリン自由大学、ベルリン経済大学を卒業。現在は客員研究員、フリーランスの文筆家、ノンフィション作品の編集者。邦訳に、『熊――人類との「共存」の歴史』、『月』(以上、白水社)がある。 山川 純子 (ヤマカワ スミコ) (翻訳) 名古屋に生まれ、鎌倉で育つ。慶應義塾大学文学部国史および美学美術史専攻、アリゾナ大学美術史(写真史)修士課程修了。訳書にB・アイゼンシュタイン『わたしはホロコーストから生まれた』(原書房)、M・O・フィッツジェラルドほか『インディアン・スピリット』(めるくまーる)、B・ブルンナー『月』、H・マクドナルド『オはオオタカのオ』(以上、白水社)、共訳書に、V・ポマレッド編『ルーヴル美術館 収蔵絵画のすべて』(ディスカヴァー)、S・キャヴァリア『世界アニメーション歴史事典』(ゆまに書房)。その他、美術展図録等の翻訳多数。
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メタファーとしての発酵|Sandor Ellix Katz, ドミニク・チェン(監修), 水原 文(翻訳)
¥2,200
オライリー・ジャパン 2021年 ソフトカバー 160ページ 四六判 - 内容紹介 - 『発酵の技法』著者による発酵を通して現代の諸問題を考える! 本書は『発酵の技法』の著者、Sandor Ellix Katzによるエッセイです。発酵料理の専門家という枠を超えて、発酵カルチャーのリーダーとしても知られる著者が、天然の素材を微生物が変容させることで、別のものに作り替えてしまう「発酵」という過程を、政治、宗教、社会、文化、そして個人のアイデンティティ、セクシュアリティ、思考に適用させることを考えていきます。監訳のドミニク・チェン氏の解説も収録。
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聴こえない母に訊きにいく|五十嵐 大
¥1,870
柏書房 2023年 ソフトカバー 216ページ 四六判 - 内容紹介 - 母に、ずっと訊いてみたいことがあった。 ぼくの耳は聴こえるけれど、本当はどちらが良かった? 聴こえる子どもと聴こえない子ども、どちらを望んでいた? 【本書の内容】 「優生保護法」―― 障害者が生まれることを防止し、 女性が産むことを管理しようとした悪法が存在した時代、 「母」はどのように生きたのか。 「ぼく」はどのようにして生まれたのか。 幸せだった瞬間も、悲しかった瞬間も、すべて。 コーダである息子が未来に進むために描く、小さな家族の歴史。 【コーダとは】 コーダ(CODA:Children of Deaf Adults) 聴こえない親をもつ、聴こえる子どものこと。 - 目次 - プロローグ 第一章 子どもの頃 塩竃に生まれて/最初の帰省/最初の取材/〝聴こえない子〟になる/通常学級のなかで/ろう者の歴史――森壮也さんに訊く/祖父母の胸中 第二章 ふたりの姉 ひとりめ――佐知子/「心配だった」/ふたりめ――由美/「心配はなかった」/〝通訳者〟として 第三章 母校へ 入学――「手話」との出合い/横澤さんと大沼先生/宮城県立聴覚支援学校/小さな教室/進学にともなう選択/「口話」について 第四章 母の恩師 思い出と後悔/恩人/「中途半端な時代」/聴覚活用の限界/真っ向からの否定/〝適切な教育〟とは/「さえちゃんたちのおかげ」 第五章 父との結婚 憧れの人/両親への紹介/父の過去/「いつもニコニコしていなさいって」/「善意」からの反対/「不良な子孫の出生を防止する」/優生保護法裁判――藤木和子さんに訊く/二〇二二年三月仙台高裁 第六章 母の出産 愛の十万人運動/奪われたものはなにか/加害者側の子孫/新しい生活/「だ、い」/「わたしのみみは、きこえないんだよ」 - 著者プロフィール - 五十嵐 大 (イガラシ ダイ) (著/文) 1983年、宮城県生まれ。2015年よりフリーライターになる。著書に『しくじり家族』(CCCメディアハウス)、『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』(幻冬舎)など。2022年には初の小説作品『エフィラは泳ぎ出せない』(東京創元社)も手掛ける。
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野生のしっそう 障害、兄、そして人類学とともに|猪瀬 浩平
¥2,640
ミシマ社 2023年 ソフトカバー 304ページ 四六判 - 内容紹介 - 知的障害があり自閉症者でもあるが、さまざまな鋭さをもった兄。障害がないとされているが、さまざまないびつさをもった弟(著者)。世間には、この兄と弟を切断する「ものの見方」があたりまえに存在する。 しかし、その分断をすり抜けてしまうある出来事が起こった。 2021年3月、緊急事態宣言の下、兄は突然しっそうする―― どこへ向かったのか? なぜしっそうしたのか? その道筋を辿りながら見えてきたのは、兄の「たたかわない」術だった。 外なる他者、遠くの他者を扱ってきた文化人類学に、あらたな道を拓く実践の書! 「障害とともにある人類学」から始まり、「内なる他者」を対象とした人類学へと展開する、あたらしい学問のあり方。 装画・挿画 岡田喜之 - 目次 - はじめに しっそうのまえに 第一章 沈黙と声 たたかわないこと、しっそうすること/三月下旬 午前二時半に走り出す/カタリナの構え/黙禱と叫び 1/黙禱と叫び 2 第二章 蜜柑のはしり ズレと折り合い/いくつかの死と/いくつもの死と/対面とリモート/夏みかんのしっそう/贈与のレッスン 第三章 世界を攪乱する、世界を構築する ボランティアのはじまり/満月とブルーインパルス、あるいはわたしたちのマツリについて/路線図の攪乱 1/路線図の攪乱 2/トレイン、トレイン 第四章 急ぎすぎた抱擁 父とヤギさん/眠る父/転倒の先/失踪/疾走/旋回としっそう/燕(つばくら)の神話 最終章 春と修羅 むすびとして うさぎのように広い草原を - 著者プロフィール - 猪瀬浩平 (イノセコウヘイ) (著/文) 1978年埼玉県生まれ。明治学院大学教養教育センター教授。専門は文化人類学、ボランティア学。1999年の開園以来、見沼田んぼ福祉農園の活動に巻き込まれ、様々な役割を背負いながら今に至る。著書に、『むらと原発――窪川原発計画をもみ消した四万十の人びと』(農山漁村文化協会)、『分解者たち――見沼田んぼのほとりを生きる』(生活書院)、『ボランティアってなんだっけ?』(岩波ブックレット)などがある。
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星を見る人 : 日本語、どん底からの反転|恩田 侑布子
¥2,640
春秋社 2023年 ハードカバー 260ページ 四六判 - 内容紹介 - ことばの手ざわり、肌ざわりに誘われ、情感の深みへ――。芭蕉、蛇笏、久保田万太郎、石牟礼道子、荒川洋治、井筒俊彦、草間弥生・・・・・・絶滅危惧種となった風合いある表現に、ゆらぎ、渦巻き、なりかわる、こころ・からだ・いのち。芸術選奨文部科学大臣賞・ドゥマゴ文学賞俳人による五感を震わせる評論!――格差社会で、核保有大国とそれ以外、富と権力を持つ者とそれ以外が分断されたように、人間の生と死も分断され、引き裂かれる。こうした近代以降の危機のなかで、痩せ細りジャンク化していく文化と言葉に全体重で抗って、生きて愛して表現してきた芳醇な人々がいる。しんじつの人間の声を、詩・俳句・美術・思想に刻んで、わたしたちのしょんぼりしがちな精神に滋養を与えてくれるゆたかな作品がある。(はじめにより) - 目次 - はじめに 序 星を見る人 I 近代を踏み抜いて 『石牟礼道子全句集 泣きなが原』 II 皮膜と「興」 草間彌生と荒川洋治 III やつしの美 久保田万太郎の俳句 IV エロスとタナトスの魔境 飯田蛇笏 V 戦争、エロスの地鳴り 三橋敏雄 VI 社会性俳句・巣箱から路地に 大牧広 VII 美への巡礼 黒田杏子 VIII 現代俳句時評 IX 草田男と霊感 X 渾沌と裸 井筒俊彦『意識と本質』から XI 新説『笈の小文』 切れと感情の大陸 あとがき 初出一覧
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なぜ美を気にかけるのか : 感性的生活からの哲学入門|ドミニク・マカイヴァー・ロペス, ベンス・ナナイ, ニック・リグル, 森 功次(翻訳)
¥2,750
勁草書房 2023年 ハードカバー 192ページ 四六判 - 内容紹介 - おしゃれ、ダサい、ステキ、つまらない。こうした日々の感動をなぜ大事にするのか。生活の彩りの意味を問うあたらしい哲学入門。お気に入りの服を着る、おいしいものを食べる、好きな映画をみる――こうした日常のさまざまな美的選択は、人生にどのような意味をもたらすのか。人はなぜ美的な暮らしを送るのか。現代美学を代表する論者たちが3つの答えを提案する、哲学入門の授業向けに書かれた教科書。著者たちによる座談会とティーチングガイドつき。 【原著】Dominic McIver Lopes, Bence Nanay, Nick Riggle, Aesthetic Life and Why It Matters, Oxford University Press, 2022 - 目次 - 教師向けのノート イントロダクション 1 経験を解き放つ[ベンス・ナナイ] 2 美的生活──個性、自由、共同体[ニック・リグル] 3 足を踏み入れる──美的生活における冒険[ドミニク・マカイヴァー・ロペス] ブレイクアウト 訳者あとがき 索引
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小山さんノート|小山さんノートワークショップ(編)
¥2,640
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エトセトラブックス 2023年 ソフトカバー 288ページ 縦191mm 横131mm 厚さ19mm - 内容紹介 - 「小山さん」と呼ばれた、ホームレスの女性が遺したノート。 時間の許される限り、私は私自身でありたいーー2013年に亡くなるまで公園で暮らし、膨大な文章を書きつづっていた小山さん。町を歩いて出会う物たち、喫茶店でノートを広げ書く時間、そして、頭のなかの思考や空想。満足していたわけではなくても、小山さんは生きるためにここにいた。 80冊を超えるノートからの抜粋とともに、手書きのノートを8年かけて「文字起こし」したワークショップメンバーによるそれぞれのエッセイも収録。 【小山さんのノートより】 働きに行きたくない。仕事がかみあわない。もう誰にも言えない。私は私なりに精いっぱい生きた。(…)私にとって、大事なものは皆、無価値になって押し流されていく。(1991年11月7日) 雨がやんでいたのに、またふってくる。もどろうか。もどるまい。黄色のカサが一本、公園のごみ捨て場に置いてあった。ぬれずにすんだ。ありがとう。今日の光のようだ。(2001年3月18日) 駅近くに、百円ちょうど落ちていた。うれしい。内面で叫ぶ。八十円のコーヒーで二、三時間の夜の時間を保つことができる。ありがとう。イスにすわっていると、痛みがない。ノート、音楽と共にやりきれない淋しさを忘れている。(2001年5月7~8日) 五月二十日、夜九時過ぎ、つかれを回復して夜の森にもどる。 にぎやかな音楽に包まれ、心ゆったりと軽い食事をする。タコ、つけもの、紅のカブ、ビスケット、サラミ少々つまみながら、にぎやかな踊りをながめ、今日も終わる。夜空輝く星を見つめ、新たな意識回復に、十時過ぎまで自由な時間に遊ぶ。合計五百十六円拾う。(2001年5月20日) ほっと一人ゆったりと歩く。のどがかわいた。水かコーヒーを飲みたい。こんな活気のない金曜の夜、三百円もち、何も買えない。人間の人生は生きてる方が不思議なくらいだ。(2001年6月22日) 一体、五十にもなって何をしているんだと、いい年をしてまだ本をもち、売れもしないもの書いて喫茶に通っているのか……と、怒り声が聞こえそうな時、私の体験の上、選んだ生き方だと、私の何ものかが怒る。(2001年6月14日) 私、今日フランスに行ってくるわ。夜の時間をゆっくり使いたいの……。美しい夕陽を見送り、顔が今日の夕陽のように赤く燃えている。(2001年6月27日) 2階カウンターの席にすわり、ノートと向かいあう。まるで飛行機に乗ったような空間。まだ3時過ぎだ。流れるメロディーに支えられ、フランスにいるような気持ちに意識を切り替える。(2002年2月21日) 一時間、何もかも忘れのびのびと終わるまで踊ることができた。明るいライトに照らされた足元に、一本のビンがあった。冷たい酒が二合ばかり入っている。大事にかかえ、夜、野菜と共に夜明けまでゆっくりと飲み、食べる。(2002年9月28日) 五時過ぎ、十八時間の飛行機に乗ったつもりで意識は日本を離れる。外出をやめ、強い風が吹き始めた天空、ゆらゆらゆれる大地、ビニールの音。 (2003年9月7~9日) - 目次 - 「はじめに――小山さんノートとワークショップ」登 久希子 「小山さんが生きようとしたこと」いちむらみさこ 小山さんノート 序 章 1991年1月5日~2001年1月31日 第1章 2001年2月2日~4月28日 第2章 2001年5月7日~8月21日 第3章 2001年8月22日~2002年1月30日 第4章 「不思議なノート」 2002年9月3日~10月4日 第5章 2002年10月30日~2003年3月16日 第6章 2003年7月3日~2004年10月12日 小山さんノートワークショップエッセイ 「小山さんとノートを通じて出会い直す」吉田亜矢子 「決して自分を明け渡さない小山さん」さこうまさこ 「『ルーラ』と踊ること」花崎 攝 「小山さんの手書きの文字」藤本なほ子 「沈黙しているとみなされる者たちの世界」申 知瑛 - 前書きなど - はじめに――小山さんノートとワークショップ 登 久希子 「こやまさん」と呼ばれる女性がいる。小山さんは、都内の公園の「テント村」でテント暮らしをしていた。彼女が亡くなってから10年が経とうとしている。私たち「小山さんノートワークショップ」のメンバーは、小山さんが遺した膨大な量の書き物の文字起こしをする有志として集まり、かれこれもう8年以上活動をしている。 ■小山さんノートワークショップ 小山さんが暮らしていた都内のテント村の住人だったいちむらみさこさんは、具合の悪くなった小山さんを助けるべく、テント村の外にも声をかけて「小山さんネットワーク」を作ろうとしていた。しかし、ほどなくして小山さんは亡くなってしまう。何十冊という小さなノートを遺して。公園暮らしの雨や湿気であまり保存状態のよくないノートも多い。小山さんの火葬の日、いちむらさんたちはそれらのノートも一緒に燃やしてしまおうと考えたが、1行読んで、これは残さないといけない、伝えないといけない、と強く思った。いちむらさんたちは、小山さんの一周忌に追悼展覧会を行い、ノートから文章を抜粋して作った小さな冊子を来た人に手渡した。そしてノートの文字起こし、データ化を一緒に行ってくれる人を募ることにした。 追悼展覧会などを通して小山さんのノートを知った人や、興味を持った人が文字起こしに定期的に関わるようになっていった。そしてだいたい毎月1回、主に週末の午後から夜にかけて集まり、一緒にノートとパソコンに向かうというワークショップのスタイルが定着した。合間にストレッチをしたり、おやつを食べたりしながら文字起こしをし、最後にはいつも持ち寄った色とりどりの夕飯を囲んで、その日読んだところの感想やお互いの近況などを話した。おいしいものを食べることが、私たちは大好きだった。ノートの記述からうかがうに、小山さんも。 手書き文字のデータ化だけならば、わざわざ集まって行う必要もない。なんならパソコンでほとんど自動的にできる機能もある。しかし、小山さんの書くものには、ひとりでは太刀打ちできない難しさがあった。ひとつは、小山さんは達筆すぎて、読みとるのに苦労する文字が多かったこと。ふたつ目は、小山さんがかなり独特の当て字を多用していたため、ひとりでそれらを読み解くのはほとんど不可能だったこと。そして何より、書かれている内容に三つ目の難しさがあった。小山さんのテント生活の記述は、あまりにも衝撃的だったり、悲しくつらいものだったり、あるいは面白すぎたりする描写に満ちているから、「これは!」と思った箇所をただちに誰かと共有したくなる。ワークショップのメンバーは、文字起こしをしながら、それぞれの視点や経験から、小山さんに共感したり、小山さんという人を想像したり、翻って自分自身を見つめ直したりしていたのだと思う。 メンバーのなかで生きている小山さんと会ったことがあるのは二人だけだった。他のメンバーは小山さんの姿を見たことも声を聞いたこともなかったけれど、そんなことは私たちにとってあまり重要ではなかった。二人の話やノートの内容から小山さんのいでたちなどを想像して、それぞれの小山さんが立ち上がる。私たちはノートを通して、小山さんをとても身近に感じるようになっていった。 ■ノートから立ち上がるもの/こと ワークショップでは、文字起こしだけでなく、フィールドワークや路上での朗読、座談会をしてみたりもした。小山さんがよく立ち寄ったらしい神社や常連だったと思われる喫茶店などをメンバーとともに訪れると、ノートに書かれていた状況がちがった解像度で見えてくる。また、座談会は、文字起こしを進めるなかで各自が考えてきたことを改めて語り、共有する機会となった。日が落ちて薄暗くなってくる屋外で小山さんノートの一節を朗読してみるのは、小山さんがそこに現れたかのような、自分の声が自分の声ではなくなるかのような不思議な体験だった。ときどき、足をとめて耳を傾けてくれる人もいた。 思えば、朗読以外はいずれも、ワークショップのメンバーだけで行われたもので、「小山さん」をどのようにメンバー以外にひらいていくのかは、つねに私たちにとって試行錯誤が必要な問題だったのだと思う。小山さんのノート、それに関わる私たち。伝え方を間違ってしまうと、とんでもない方向で誤解されてしまうかもしれない。メンバーのバックグラウンドはさまざまだが、私たちは、小山さんに対するさまざまなレベルでの「共感」を共通項として持っていた。そして、その「共感」を私たちから広く外に向かってひらいていくことについて、逡巡していた。 ■小山さんノートをひらく ワークショップは、コロナ禍のもとでもオンラインでつづけられた。びっしりと文字が書き込まれたA6サイズのノートおよそ80冊をテキストデータにしてみると、A4サイズの用紙に3段組みで659ページもの量になった。私たちが確認できたのは1991年から2004年までに書かれたノートだが、実際にはもっと多くのノートが存在したようだ。小山さんが書いているとおり、公園暮らしでそれだけの量のノートを何年も保管しつづけるのは決して簡単なことではなかっただろう。 小山さんのノートを、いつかワークショップのメンバー以外の人にも読んでもらうことができたら、という思いは文字起こしをはじめた当初から私たちのなかにあった。ただ、そんな膨大な量の文章をそのまま世に出すのはあまり現実的でない。「出版」に際しては、なんらかの編集作業が必要になる。その作業はメンバーにとってものすごく難しい過程だった。そもそもほとんどのメンバーが、小山さんノートの全体を通して読んだことがなかった。だから659ページの原稿をひたすらみんなで読み込む必要があった。積み上げられた小山さんノートを前に文字起こしをしていたころの、果てしない作業の感覚を思いだす。そして、身を切る思いで抜粋した原稿に、それぞれが重要だと思う箇所や思い入れのある部分を追加したり、また他の部分を削除したりしながら、ノートに書かれた小山さんの生を、理解しきれない部分も含めて、どのように立ち上げることができるのか、話し合いが重ねられた。抜粋が恣意的になりすぎないように、小山さんのノートの全体の雰囲気が伝わるように。どれだけノートを読み込んでも、結局のところメンバーの誰も小山さん自身ではないし、小山さんの真意はわからない。それに、「真意」は本人ですら揺れていたり変化したりするかもしれない。そんなことを考えながら、綱渡りのように、抜粋作業は進められた。そして完成したのが本書である。 本書には、1991年から2004年までに書かれた小山さんノートからの抜粋が収められている。アパートに住んでいた頃から、公園に移り、本格的にテント暮らしをはじめる頃までの序章につづき、第1章から第6章まで、小山さんの哲学、テントにおける男性との共同生活、そこで受けた暴力、テントでのひとり暮らし、共同生活を送った男性の死とその後の極貧生活、夢や幻想などがおおよそ時系列に沿って展開する。しかし、回想による記述も多いため、編集を行った私たちとしては、どこから読んでもらってもよいと考えている。 また小山さんノートの本文に入る前に、いちむらさんが小山さんの最期の日々に関わった様子を記したエッセイを、そして本書の最後にはワークショップの各メンバーによるエッセイを収録した。 書くという行為と、そのための時間・空間をテント暮らしの日常の中で維持するのは並大抵のことではない。小山さんは、彼女が「フランス」や「イタリア」と呼ぶ喫茶店にやっとの思いでたどりつくと、コーヒー1杯を前に何時間もノートを書いたり、それを読み直したり、さらに書き加えたりしていた。何年も後に記述を足しているので、読んでいる私たちとしては、時間が行ったり来たり、タイムスリップするような感覚を覚えることも多かった。 小山さんは、ユーモアのある、どこか冷静な記述をとおして、自分自身をある意味でつきはなしてみたり、赦してみたりしながら、日々を生きつないでいたのではないかと思う。ノートに出てくるフランスへの旅やルーラという存在は、空想や妄想のようにもみえる。でも小山さんは現実をあきらめて「空想」に生きていたわけではない。それらの「妄想」は現実を生きるために小山さんが生み出したものであり、また小山さんに与えられたものだったのだ。それらを含めた現実を、小山さんは生きていた。ときに悲嘆に暮れることはあっても、ノートの中の小山さんは、常に何かの可能性や未来を信じていた。 小山さんノートは、決して簡単に読み進めることができるものではない。でも難解なものでもない。ひとりで読み進めることが難しいときは、この本を持って、小山さんのように、喫茶店など人の気配のあるところに、外の景色が見えるところに行ってみるのもよいかもしれない。 - 著者プロフィール - 小山さんノートワークショップ (コヤマサンノートワークショップ) (編) 2015 年3月から月1回ほどのペースで集まり、小山さんが遺した手書きのノートの文字起こしや、小山さんが歩いた道をノートに書かれたとおりにたどってみるフィールドワーク、路上朗読会、ノートとのかかわりを語りあう座談会などを行ってきた。野宿者、ひきこもり、非正規労働者、アーティスト、留学生、研究者など、様々なメンバーがゆるやかに入れ替わりながら継続している。
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数学する身体|森田真生
¥605
新潮社 2018年 新潮文庫 ソフトカバー 240ページ 文庫判 縦151mm 横106mm 厚さ9mm - 内容紹介 - 数学はもっと人間のためにあることはできないのか。最先端の数学に、身体の、心の居場所はあるのか――。身体能力を拡張するものとして出発し、記号と計算の発達とともに抽象化の極北へ向かってきたその歴史を清新な目で見直す著者は、アラン・チューリングと岡潔という二人の巨人へと辿り着く。数学の営みの新たな風景を切りひらく俊英、その煌めくような思考の軌跡。小林秀雄賞受賞作。
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暇と退屈の倫理学|國分功一郎
¥880
新潮社 2021年 新潮文庫 ソフトカバー 512ページ 文庫判 縦151mm 横106mm 厚さ19mm - 内容紹介 - 「暇」とは何か。人間はいつから「退屈」しているのだろうか。答えに辿り着けない人生の問いと対峙するとき、哲学は大きな助けとなる。著者の導きでスピノザ、ルソー、ニーチェ、ハイデッガーなど先人たちの叡智を読み解けば、知の樹海で思索する喜びを発見するだろう――現代の消費社会において気晴らしと退屈が抱える問題点を鋭く指摘したベストセラー、あとがきを加えて待望の文庫化。
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「国境なき医師団」を見に行く|いとうせいこう
¥924
講談社 2020年 講談社文庫 ソフトカバー 462ページ 文庫判 - 内容紹介 - 大震災後のハイチで新生児の命を救う産科救急センター、中東やアフリカから難民が流れ込むギリシャの難民キャンプ支援、フィリピンのスラムで女性を守る性教育プロジェクト、南スーダンから100万人の難民が流入したウガンダでの緊急支援――。 各国のリアルな現場を訪ね大きな話題となったルポルタージュ。 Yahoo!好評連載、待望の文庫化! ※ 本書の売上の一部は「国境なき医師団」に寄付されます - 著者プロフィール - いとう せいこう (イトウ セイコウ) (著/文) いとうせいこう 作家・クリエーター。1961年、東京都生まれ。編集者を経て、作家、クリエーターとして、活字・映像・音楽・舞台など多方面で活躍。『ボタニカル・ライフ』で第15回講談社エッセイ賞を受賞。『想像ラジオ』が三島賞、芥川賞候補となり、第35回野間文芸新人賞を受賞。ほかの著書に『ノーライフキング』『見仏記』(みうらじゅんとの共著)、『鼻に挟み撃ち』「存在しない小説』『我々の恋愛』『どんぶらこ』など。
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いのる|森崎 和江, 山下 菊二(イラスト),
¥2,750
復刊ドットコム 2016年 ハードカバー 40ページ 縦290mm - 内容紹介 - 1983年、訪問販売のみで発売された伝説の「ピコモス」絵本シリーズが、<五感のえほん>として復刊! 森崎和江と山下菊二という豪華著者同士による『いのる』が、新たな装丁でよみがえります! ▼<五感のえほん>とは? ★復刊ドットコムが放つ、新・絵本レーベルです★ 元々は1983年に、ブリタニカ絵本館ピコモス(日本ブリタニカ社刊/全25巻/監修・谷川俊太郎、小松左京)として“訪問販売でのみ"発売された絵本シリーズ。 再編集にあたり、わたしたちの社会や生活に根付く五感(みる、きく、かんじる…)でのセレクトを行い、<五感のえほん>(全10冊・第1期/第2期)として発刊いたします。 人間の動作的なものに加え、子どもたちが日常の中で直面すること、感じてほしいことを一流作家たちが存分に表現したオリジナル絵本です。 監修者のことば 五感を感じる、認識する。 本絵本シリーズのテーマは、それにつきます。 いのる、あじわう、みる、はなす、きく、なく……。 なにげない生活のなかで、 無意識のうちに始まり行われている感情の動きそのもののきっかけが五感から発生しているのです。 各界の卓越した表現者による本シリーズは、まずは五感を認識してからはじまる発見の絵本だとおもうのです。 土井章史(東京 吉祥寺・トムズボックス主宰) <五感のえほん>シリーズ第7弾は、『いのる』 詩人で作家の森崎和江が著した、日常の中にある“祈り"を生活者の視点で描いた、暖かなおはなし。 戦後シュールレアリスムの第一人者・山下菊二との豪華共演を存分にお楽しみください! あきおの むらの うみの かみさまは おんなの かみさまです なまえは「おいわずさま」と いいます うみの まんなかの ちいさな たかい しまに いらっしゃるのです とおくて ここから みえません 世界遺産候補 宗像沖の島に伝わる 「お言わず様」も登場! ! 『いのる』という行為は、とても神聖でとても身近なものです。 宗教性がうすいと呼ばれる日本でも、私たちは知らず知らずのうちに、お祈りを日常的な行為として行っています。 本作には2017年の世界遺産の登録候補にもなっている、『神宿る島』宗像(むなかた)・沖ノ島と関連遺産群にも関連する「お言わず様」という古来からのしきたりも作中に登場しています。
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nice things. issue74
¥1,980
情景編集舎 2023年 - 内容紹介 - 巻頭特集 「風を旅する。」 どの場所にも風は吹いている。 その土地で暮らす人がいる限り風は起きている。 その風を見に行こう。 その土地で暮らし、営み、場を作る人々の特集です。
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よくわからないけど、あきらかにすごい人|穂村 弘
¥935
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毎日新聞出版 2023年 毎日文庫 ソフトカバー 320ページ 文庫判 - 内容紹介 - 他の誰でもない、自分の生を生きていく。大転換の時、八ケ岳の山小屋から〈新しい日常〉を探る地球視線エッセイ。