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キミは文学を知らない。 小説家・山本兼一とわたしの好きな「文学」のこと | 山本 英子

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灯光舎 2024年
ハードカバー 218ページ
B6変形判 縦183mm 横130mm 厚さ15mm


- 内容紹介 -
京都で小説を書き続けた二人の作家のなにげない日々。

『利休にたずねよ』を著し、2014年に早逝した京都ゆかりの歴史小説家・山本兼一。彼の妻にして児童書作家・文筆家の山本英子さんが、亡き夫のおもかげを語り、山本兼一と自身の人生を綴ったエッセイ集。

本書の前半では、10年前に亡くなった夫・山本兼一さんが残した取材ノートや手帳を改めて紐解き、自身の記憶を重ねて夫のありし日が語られます。後半になると、次第に内容の主軸が英子さん自身に移り、自身の思い出に残る本や児童書を書くきっかけとなったエピソード、夫への葛藤などが織り交ざったライフストーリーが展開していきます。

「道に迷いそうになったら、日本を探して歩くといい」と語り、この世を去る直前まで物語を書き続けた作家・山本兼一。
子どもたちに、自分のなかの「好き」を大事にして人生を歩んでほしいと想って筆をとった山本英子。

職業作家としての道を歩み、悲喜交々の暮らしのなかでひたむきに楽しく物語を書き続ける二人の日々が、私たちの日常の足跡と重なり、好きなこと、自分のやりたいことを見つめるきっかけを与えてくれるような一冊です。


本書を刊行する2024年は、山本兼一さん没後10年です。


【山本兼一さんの経歴と主な著書】

1999年『弾正の鷹』で小説NON創刊150号記念短編時代小説賞佳作。
2004年『火天の城』で第11回松本清張賞を受賞。
2009年『利休にたずねよ』で第140回直木三十五賞を受賞。
2012年第30回京都府文化賞功労賞受賞。
2014年逝去。

◆主な作品
『白鷹伝 戦国秘録』
『信長死すべし』
『千両花嫁 とびきり屋見立て帖』
『いっしん虎徹』
『狂い咲き正宗』など


- 目次 -
職業は、作家  

挑んだ松本清張賞  

直木三十五賞、候補は三回  

善福寺川で悩む  

決意は賀茂川で  

キミは文学を知らない  

シークエル


- 前書きなど -
【決意は賀茂川で】より

わたしは、中学一年生のときに初めて「空気を読む」ことを学んだ。きっかけは多くの女子が夢中になるものに、自分が惹かれていないことに気がついたからだ。流行のファッション、当時の人気のアイドル、みんなが語っていた憧れの職業……。孤立がいやで、自分の気持ちをごまかしていた。自分の「好き」はまわりの顔ぶれを見て隠したり出したりして過ごしていた。
中学校を卒業したわたしは、地元から離れた私立の女子校へ進学した。通学に1時間ちょっとかかったその学校は、小学校から短期大学まであった。高校の入学式では中学校から内部進学した子たちがにぎやかで、威圧されているようだった。教室に入って驚いた。一クラス50人学級だ。中学時代の女子は20人ほどだったから……2・5倍も空気を読まなければいけないのか……。わたしは緊張でクラクラしたことを覚えている。当時のわたしはどんな計算をしていたのだろう?

入学してわかったことは、この学校の服装基準、生活面の規則が恐ろしくきびしいことだ。大変な学校に入ってしまった……。これからの生活が不安だった。毎週細かな服装検査を受けていた。これをクリアすると、みんな同じような雰囲気になっていく。個性がみえなかった。
それから数か月経ち、学校に慣れてくると一人ひとりがみえてきた。運動の強豪校なので、インターハイ出場をめざし部活動に専念している子がいるのは知っていた。が、ほかにもいろんな子がいる。あらゆる女子キャラがそろっていた。大学進学のため予備校へ通っている子、音大をめざしレッスンに励む子、竹下通りで踊る「ロックンローラー族」「タケノコ族」のメンバー、テレビ番組でアイドルのうしろで踊るタレント志望の子、声優志望のアニメファン、演劇部でオリジナル作品に挑戦している子、男子校の生徒に人気のちょっとヤンチャな女子グループ……。ここの女子たちは、それぞれの「好き」にまっしぐらだった。
今、当時を考えると、この学校が特別だったわけではない。1クラス50人で13クラス、1学年600人以上! 人数が多いから、いろんな子に出会えただけだ。これだけ多いと、自分のマイナーな「好き」を口にしても「それ、知ってる!」という子もいるだろう。わたしは、当時の定番、雑誌の切り抜きが挟めるクリア下敷きに好きなロックバンドの切り抜きを挟んでいた。それを目立つよう机の上に置いた。ドキドキしたけれど、ワクワクしてた。
「えっ、これってピンク・フロイド? こんな誰も知らないようなの聴くんだ!」
にぎやかで苦手と思っていた、付属中学から進学してきた子が、下敷きを見て楽しそうに話しかけてきた。
「プログレが好きなんだ。カッコイイバンドも好きだよ……」
「ピンク・フロイドって一度聴いてみたかったんだ。今度LP貸してくれる?」
楽しい会話が始まってた。納得いかないおかしな校則に縛られ、窮屈だった高校生活だったけれど、楽しく学校へ通えたのは「好き」を気兼ねなく話せる友だちがいたからだ。
中学と高校に違いはない。なのに中学生のときのわたしは、自分で勝手に身構えて、隠していた。自分の「好き」を大切にしていなかった。
 
あのときのわたしのように、他人の反応を考えすぎて好きなことを好きでいられない、そんな思いをしている子は、たくさんいるんだろう。その窮屈な気持ちを物語で楽にできたら、そんな小説が書けたらいいな。そう考えていた。


- 版元から一言 -
 「灯光舎 本のともしび」が一区切りして、今度は「本と人生」という新しいシリーズを始めたいなと漠然と考えていた時、山本英子さんとのご縁があった。
ある日、京都の某所で自分の古本を見せびらかしていたときに「あ、山本兼一の小説がある」と言って『花鳥の夢』の文庫を手にした人がいた。僕はすぐさま「山本兼一の小説が好きなんです」と声をかけた。

 べらべらと山本兼一の小説を自分勝手に語ってその方との話が広がっていくうち、その人も山本兼一の小説をよく知っていて、たまたま苗字も同じで、その方も児童書を書く作家さんで、とだんだん箱の蓋が開かれるようにその方の素性がわかってきて、最後に「じつは、山本兼一の妻です」という言葉を聞いた時には、僕の方の血の気が引いた。僕はたじたじの態で名刺を交換させてもらって、さようならと言って家に帰った。

 それから数か月が経ったころ、ずっと念頭にある「本と人生」の企画を動かしたくなってきて、第1弾をだれに頼むかと考えていた時に、山本さんのことを思い出した。
パソコンを広げて手紙でも認めようかと思ったが、企画のタイトルからしてなんだかあやふやな、雲をつかむような内容でうまく説明ができない。これは会って話を聞いてもらうにかぎると思って「つくもようこ」と書かれた名刺にあるアドレスへ連絡を入れた。
山本さんから、物を書くときによく居座っている喫茶店があるからそこへいらしてください、と連絡をもらって会うことになった。

 「まあ、どういったことを書いたらいいのかよくわかないけれど、ちょっと試してみましょう」と言ってもらい、何度か目次構成のやりとりをして、山本さんの尽力のもと数か月後にはたたき台となる原稿が届いた。
その間、生前に山本兼一さんが仕事場としていたお部屋を拝見したり、『利休にたずねよ』関連の資料なども見せてもらったりして、夢見心地の気分が抜けきらず、肝心な本づくりを時々忘れてしまうことがあった。

 それが、ちょうど2年前の話。山本さんとご縁があってから、僕の方が遅くなってしまって、今年の春にようやっと本の形に収まって皆さまへお届けできる塩梅となった。
 昨年、山本さんから最終の原稿を受け取ったときに「2024年は、ちょうど10年、山本兼一没後10年」と言われた。お互いに意識したわけではないが、この偶然にはやっぱり感慨深い気持ちになる。


- 著者プロフィール -
山本英子 (ヤマモトヒデコ) (著/文)
1963年千葉県柏市生まれ。
編集プロダクション勤務を経てフリーランスライターとなる。1992年より京都市在住。
2006年、講談社青い鳥文庫から「つくもようこ」の名前で『魔女館へようこそ』を刊行して児童書作家デビュー。
他の著書に『パティシエ☆すばる パティシエになりたい!』『ねこやなぎ食堂』『イケバナ男子』など。

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